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第7話 守りながらの戦い そして少女は・・・

お久しぶりです。

少しリアルが落ち着いたので、投稿を再開します!


 目の前でマッドネスタイガーに食われそうになっていた少女を間一髪で救い出した私は、その子の顔を覗き込んだ。

 目に涙の跡があり、今の状況に混乱しているようにみえる。声を掛けて安心させてあげたいところだけど、今はそんなに悠長にする時間はなさそうだ。


「ぐるぉぉぉぉぉおっ!!!」


 私の背後から、マッドネスタイガーが自身の獲物を取られたと憤怒して爪で襲いかかってくる。


「よっと!」


 私は少女を抱きかかえて、その爪の攻撃を躱し、思案する。


「このまま戦おうにも、この子を下ろして戦えば真っ先に襲われるのはこの子ね・・・こうなったら、この子を抱っこして戦うしかないか」


 片手に少女を抱いているため、どうしても体幹の維持がしにくい。そして、スピードもいつも通りには出せないだろう。そのデメリットを背負って、この子を守りながら戦うという選択肢しかないだろう。恐らく、この子はマッドネスタイガーの攻撃を1発でも食らえば即死してしまうだろう。つまりこれは


「完っ全に・・・無理ゲーよねぇ・・・」


 普通に戦えば難なく勝てるんだけど、この子を守りながら戦うのはかなりのハードモードだ。

 しかし、諦める気は無い。とにかく攻撃を避け続けて好機を伺うしか方法はない。


「ぐるぉおっ!」


 私が攻撃してこないことにいい気になっているのか、弄ぶかのように爪で何度も襲いかかってくる。虎というだけあって、かなりすばしっこい。いつもならば得意の高速戦闘で瞬殺できるのだが、片手に少女を抱っこして戦うのは流石に無理。


「ふっ!」


 私が回避に専念してから数十秒経った頃、私はこのままじゃ埒が明かないと踏み、一度後方に思いっきり跳んで回避する。


「ぐるぅ!!」


 しかし、その私を見て生意気だと感じたのか、マッドネスタイガーの顔が激怒に染まる。

 すると、尻尾に何かを生やし、それをこちらへと振りまいてきた!


「ちょっ!まじっ!?」


 慌ててその場から跳び避けると、さっきまでいた場所にいくつもの細い針のようなものが地面に突き刺さる。

 毛だ。尻尾の毛を硬質化させて針のようにし、遠距離から狙い撃ってくるマッドネスタイガーの技の一つだ。

 事前情報として知ってはいたからギリギリ避けれたものの、知らなければ確実に一発は食らっていただろう。


「危なかったぁ・・・でも、大体は読めてきたね」


 こんな時こそ落ち着いて息を整える。マッドネスタイガーの動きは大森林で遭遇した他のモンスターと比べて素早く、攻撃力もそこそこ高いが動きは単調だ。ネフリティスを握る右手をギュッと持ち直して、まっすぐと見据える。


「今回も時間を掛けてられなそうだし・・・今から突っ込ませてもらうよ!」


 今から突っ込む、と言った瞬間、抱かれていた少女がえっ!?という表情をするが、今は構っていられない。


「いっくよーーーっ!!!」


 少女を抱えて、勢いよく走り出す。敏捷のステータスは高いため、少女を抱えていてもかなりのスピードが出る。


「ぐるぉっ!?」


 いきなり目の前まで突っ走って移動してきた私に驚いたのか、慌てて爪を振り下ろしてきた、が


「その攻撃はもう読めてるのよ!」


 振り下ろされた爪をネフリティスで受け流して攻撃をいなす。

 受け流された奴の爪は、私のすぐ横を通り過ぎてそのまま地面を抉った。

 そして、地面に振り下ろされた爪もとい腕に足場にして、私はマッドネスタイガーの頭上に跳び上がった。


「ぐるぁぁぁぁぁああっ!!!!」


 私が跳び上がったのを見て奴が再度尻尾から毛を飛ばしてくるが、私は飛んできた毛を魔剣で全てはたき落とし、攻撃の準備を行った。狙うは一点、奴の脳天だ。


「喰らえっ!【雷放穿(らいほうせん)】っ!!!」


 そのままマッドネスタイガーの脳天にネフリティスが切っ先からずぶりと深く突き刺さる。その直後、ネフリティスから大量の電撃が放出され、奴の脳が感電し、そのまま焼き切れる。

 【雷放穿】は以前使用した【感電砲】と違って近距離の相手にしか作用できないが、相手の体内から直接電撃を食らわせるので、その電撃威力は【感電砲】の比ではない。


 流石に脳内に直接電撃を流されてはひとたまりもなかったのだろう。

 マッドネスタイガーは悲鳴を上げることも許されず、その巨軀を地面に沈めて息絶えた。


「ふぅー・・・討伐完了っと」


 マッドネスタイガーが沈んだのを確認して、私は大きく深呼吸をして、ネフリティスを鞘に収めた。


「それと、君、大丈夫だったかな?」


 腕の中にいる少女の安否を確認しようと目を向けると、その子は呆然とした表情で私とマッドネスタイガーの死体を交互に見ていた。




___________________________


「私は・・・夢でも見ているのです?」


 巨大なトラに襲われて絶体絶命と思ったら、同年代くらいの少女に助けられ。その子は私を抱えながら人間離れしたスピードでトラの攻撃を一撃も当たらずに躱し続け、最後はあろうことか突っ込んで空高く跳び、一撃で頭に剣を突き刺して殺すなど、とてもじゃないけど人間業じゃない。


 私がそのトラの死体と少女の顔を交互に何度も見ていると、その少女が私の方を向いて話しかけてきた。

 大丈夫だった?と聞かれても、私には何が起こったか今だに理解が追いついていない。

 本当にこの人は何者なのです?高ランク冒険者なのかな?




___________________________


「さてと、回収回収〜♪」


 『索敵』で周りに敵がいないのを確認しつつ、少女を下ろしてマッドネスタイガーの死体をアイテムボックスに収納した。

 マッドネスタイガーの死体がいきなり消えた瞬間、少女の顔が驚愕の表情に染まった。分かるよその気持ち、私も初めて見た時そうなったもんね。


 素材回収も終わった私は、改めて少女に向き直る。


「見た所怪我もなさそうだし、大丈夫だと思うけど・・・君はどうしてあそこにいたのかな?」


「あ、えっと・・・私はその馬車に乗っていて・・・」


「馬車?・・・おぅふ・・・」


 少女が指差した先を見ると、壊れた馬車と胴体が上下で真っ二つにされた人の亡骸が血を撒いて横たわっていた。

 喉の奥から何かが込み上げてくるのを必死で我慢しながら、少女にもう一度話しかける。


「えっと・・・あの人は、君のお父さんとかかな?」


「いえ・・・あの人は私の飼い主で・・・私はそいつらの奴隷です」


「えっ、奴隷!?」


 言われてみれば確かに少女の格好は見すぼらしく、局所を布で隠した程度である。MAOには奴隷なんてものはなかったから、驚きだ。


「えっと、なんで君は奴隷になったのかな?」


「・・・私の実の父に無理やり売られました。能無しだからって」


「・・・・・・・。」


 なんかその、非常に返答しづらい答えが返ってきたんだけど。

 いやいくらなんでも実の子供を奴隷に売るとか意味わからなくない?そいつの頭どうなってんの?

 実の子供じゃなくてもやっちゃダメなんだけどね!

 それ以前に、能無しって何よ。父親が子供に言うべき言葉じゃないでしょ?


 考えれば考えるほどムカムカする内容であるが、そんな私を見てその子は自嘲するかのように鼻で笑った。


「気を使わなくていいです。私が能無しなのはホントのことですから・・・」




「能無しなんてあるわけないでしょ!!!」


 気がつけば私は大声でその少女に叫んでいた。


「人間なんて最初っから何かができるわけないでしょ!みんな最初は手探りで自分のできることやれることを探すのよ!最初から何もできないと諦めて自分を能無しだなんて言わないで!」


「でも、私には能力(スキル)が一つしかないですし、ステータスも器用さが高いだけであとは何も・・・」


「能力なんて後からいくらでも取得できるし、ステータスも器用さしか取り柄がないならそれを活かす方法を見つけるのよ!」


 私はゼーゼーと、息を整えるようにして熱を冷ます。

 

 何もできない、お前にはできない。私はそんな言葉が大っ嫌いだ。

 鼻からできないと決めつけて、身勝手な価値観を相手に押し付けるような奴が世界で一番嫌いなのだ。


「!!・・・で、でも、そんなのどうすれば」


「それを今から探せばいいじゃない。少なくとも、今からでも遅くはないと思うよ」


 能力が少ない?なら新しく手に入れればいいじゃない。

 ステータスが低い?ならば鍛えるか、元のステータスの長所を活かすようにすればいいじゃない。

 少なくとも、生きている限りまだどうとでもなる。ここがMAOの世界と基本がほとんど同じならば、誰だって強くなれるのだから。

 

「でも、私には、こんななりで今からどうすることも・・・」


「・・・だったらさ、私と一緒にくる?」


「え・・・?」


 私が声をかけると、少女は驚いたような声を上げてこっちを見る。


「ちょうど今からこの先にある国に向かう途中なんだけどさ、ほら、まだ道のりはあるし。こんなところに女の子一人放って置けないし?」


 こんなところに武器も持っていない女の子が一人いたら魔物の餌食にされて即ジエンドだろう。

 それに、今この子が言っていた言葉の中に能力(スキル)やステータスの言葉が入っていたことから、この世界でもそう言った概念があるのだと思う。何はともあれ、この世界における基本的な情報は欲しいのだ。

 まぁ後は、可愛いし?・・・決してこれが第一の理由とかじゃないからね?ほんとだよ???


「なんで・・・」


「ん?」


「なんで、私にそんなに優しいんですか?見ず知らずの人に、ましてや奴隷の人に」


 その子が不思議そうな目で見つめてくる。


「えっ、なんでって言われても・・・それが私のやり方だから、かな?」


 奴隷がどうのこうのは知らないが、少なくとも話を聞く限り悪いことをしたわけじゃない。

 この世界ではどうか知らないけど、私は手の届く範囲に助けられる命があれば手を伸ばす。相手がどんなに嫌いな奴でも、手を伸ばさなかったらきっと後悔するから。


「・・・うぅ、ぐすっ・・・」


「えぇっ!?私何か悪いことでも言ったかなぁ!?」


 私が言い終えると、その子は目に涙をためて、泣き出した。


「ごめん、ないさい・・・わたし、やさしくされるのが生まれて初めて、で、こんなに、温かいものだなんて知らなく、て・・・」


 私はその言葉を聞くと、何故か無意識にその子のことを抱きしめていた。


「・・・いっぱい泣いてもいいよ。私、顔見ないから」


「ぐすっ、うぅ・・・・あぁぁぁぁぁぁあん!!!」


 私がぎゅっと抱きしめると、耐えきれなくなったのか、その少女はいっぱい泣いた。今まで心を押さえつけてきた分を吐き出すかのように、たくさん。



 私がこの世界に来て、MAOの頃とは違う、人に手によって行われた残酷な現実を今初めて目にした。

 奴隷というものが存在すること。力がなければ実の子であっても奴隷に売られること。

 私のような、日本で平和に過ごして来た一般人には想像できないような(むご)い現実だ。


 私はこの世界の基準で言えばかなり強い方だとは自負してはいる。たとえそれでも、世界平和を目指しますって言ったところで、その実現なんて夢話にも程があるでしょ?

 

 だからせめて、この子には幸せになってほしい。

 そんな意味も込めて、私はこの子を誘ったのだ。

 あと、この子可愛いし。



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