第4話 過去の悲劇、そして救い
今回は結構長いです。
5000字ちょっとくらいかな。
それでは、第4話です。
満月が上る夜、星々が輝く夜空の下。サラハ村では、村人達が呑めや歌えやの祭りのように盛り上がっていた。
村が滅びると村人の誰もが思っていたにも関わらず、誰一人死なずに村が守られたのだ。サラハ村の人々は酒を呑み、肩を組み、意気揚々と宴に興じている。
「ん〜〜!美味しい〜〜!」
そんな宴の中心で、私はブラックウルフの焼肉を堪能していた。元々ゲーム内でもモンスターの肉はドロップ品で食料のような扱いはされていたが、実際に味わうのはこれが初めてだ。
味覚も現実のものとなり、ブラックウルフの肉を舌でしっかりと味わう。
余談であるが、味は豚肉に近い。
「それでよ!なんかこうビュンってなったと思ったらさ、ブラックウルフの首がシュバッと切れてよ!その後にバチっとなったと思ったら周りにいた奴らがシュババババっ!てなって倒れていったんだよ!」
「「「「「よくわかんなーい」」」」」
私がブラックウルフを倒したところを見ていた青年が、その時のことを村の子供達に興奮冷めやらぬ感じで語っていたのだろうが、子供達は全く理解できていないようだ。
うん、当事者の私も擬音が多すぎて何話してるのか分からないやあれ。
「はっはっは、人気者ですなぁリンさんは」
私が苦笑していると、隣にギウスさんがやってきて座った。
「リンさんがこの村におらんかったら、儂らは今頃あの魔物に食い殺されておったじゃろうなぁ・・・この村を、村のみんなを守ってくれてありがとうなぁ」
ギウスお爺さんは私に向き直ると、また頭を下げてお礼を言ってきた。私は少し照れくさくなって、「これくらいは当然ですよ」と曖昧な返事しかできなかった。
「照れなくてもよいのじゃぞ。リンさんはこの村の者たちにとって英雄じゃからなぁ・・・そなたのおかげであの時以上の悲劇を起こさずに済んだのじゃから」
「あの時?」
私がギウスさんの言葉に出てきたことが気になって、思わず聞き返した。そういえば、ブラックウルフが村を襲う前の会話でもそんなこと言ってた気がする。
私が聞き返すと、ギウスさんの顔は険しいものになった。
「もう15年以上も前のことじゃ。私にはキールという一人息子がおってのう。あやつはとても元気で、村の男どものリーダー的存在でなぁ。ある日、村で仲の良かった仲間と大森林で狩りをしていたのじゃが・・・」
ギウスさんの声には後悔と悲しみが乗っているように聞こえた。
「いつまで経ってもキールたちが帰ってこなくてなぁ、村の者たちが心配しておった。じゃがその時に、キールと一緒に狩りをしていた者が一人ボロボロの状態で帰ってきてなぁ。村の者が全員大慌てで手当てをして、その者は一命を取り留めたのじゃが・・・」
__________15年以上前__________
村の小さな診療所のなかで、全身を布で覆い血に染まった者に儂は話しかけた。
「どうした!何があった!」
「大森林で、狩りをしていたら・・・いきなり、でかい熊の化け物が現れて・・・!」
「何じゃと!?他は!他の者らはどうした!キールは無事なのか!?」
焦燥感に見舞われてそいつを問いただそうとする儂を抑える村の者たち。
その様子をみて、後悔しているような表情でその者は儂に伝えた。
「キールさんは、俺たちを真っ先に逃がすために何も言わず自分から囮になって・・・他の奴らが一緒に逃げようっていってもこのままじゃ全滅するからお前たちは村の人たちに知らせに行けって・・・!」
仲間を逃がすために魔物相手に囮として、自分たちとは違う別の方向へと魔物を引きつけたのだと。
「俺たちはがむしゃらに走って逃げた・・・けど、無理だったっ!!」
自分たちに襲い掛かった魔物が後ろから走って追いかけてきたのだと。
「その魔物がまた一人、また一人って仲間を爪で殺していってて・・・そして気づいたらやつの口からはキールの腕が」
「もういいっ!もうしゃべらんでくれ!!その先はもう聞きたくない!!」
儂はもう悟ってしまった。
キールがもう帰ってこないことを。
仲間を逃がすためにその身で囮となったことを。
もうこの世にいないことを。
「キール・・・キールっ!・・・うあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
儂の慟哭は、村の中に大きく、虚しく響いただけだった。
「・・・ということが、あったのじゃ」
「そう、だったんですね」
全てを話し終えたギウスさんの表情は悲哀に満ち溢れていた。
「じゃから、儂らは大森林に誰も入らせんようにしておったのじゃ。2度とあんな悲劇を起こさんためにもな」
そう言うと、ギウスさんは手に持っていた木製のジョッキを呷り、酒を飲み干した。酒を飲まないと話せないのだろう。
実の一人息子を魔物に殺されていたのだ。その心境は耐え難いものだったのだろうと予想はつく。
「こんな話をしてしまって申し訳ない。今は宴の時間じゃ、楽しんでいってくれ」
ギウスさんは咄嗟に私へ笑顔を向けると、その場から立ち去った。
ギウスさんがいなくなると、ちょうど入れ替わるように子供達が寄ってきた。
「お姉ちゃん!どうやって怖いモンスターを倒したのかおしえてー!」
「「「「おしえてー!!!」」」」
流石に擬音だらけの説明じゃ理解ができなかったのか、当事者である私に直接聞きたいようだ。
「ふふっ、いいですよ♪えっとね、あれは・・・」
微笑みながら子供達にどうやって倒したのか、分かるように説明してみた。
みんな目をキラキラして私の話を聞いていた。実際にやってみせてとねだられたので、【碧閃】を披露したら子供だけじゃなくて、村の人たち全員から拍手喝采をもらったりと、中々に楽しい夜を過ごして宴は終わった。
村の皆が寝静まり、未だ真っ暗な夜空を催す午前3時頃。
私はネフリティスを担いで大森林の入り口に立っていた。
「ポーションよし、その他アイテムよし・・・準備万端っと」
真っ暗な大森林であるが、安全に通れるようにしっかりと対策はしてある。
「よし、スキル『暗視』そして『索敵』を発動!」
『暗視』は読んで字の通り、暗いところでも目で見えるようになるスキルである。
『索敵』は一定の範囲にいる、自身よりレベルの低い魔物の居場所が分かるスキルである。
二つとも、MAOでは結構メジャーなスキルであった。
『暗視』を発動させたことで、大森林の道がくっきりと見えるようになり、奇襲に対応できるように『索敵』スキルであたり一帯を常に監視する。
「さすが大森林ね。『暗視』で少し先の距離は見えるけど、木々が生い茂っているせいで見通しはお世辞にもいいとは言えないなぁ」
まぁもし何かあってもどうとでもなる。そう判断して大森林の中へと歩みを進める。
大森林の中を探索し始めて数十分が経った。
時折ブラックウルフが闇夜に紛れて襲い掛かっては、『索敵』のおかげで対処はできるし、少し剣を振るだけで頭を斬り飛ばせるので、それは大した問題ではない。
今問題なのは、リンが探しているものが中々見つからないことであった。
「うーん、この辺にいると思うんだけど・・・エリアボス・・・」
リンが探しているのはエリアボスと言われる、他の魔物よりも高いレベルのボスモンスターである。何故それをリンが探しているのかというと
「ギウスさんの話を聞く限り、15年以上前にギウスさんの息子さんを襲ったのって多分ブラッディグリズリーだと思うんだけど・・・」
大森林エリアのボス、ブラッディグリズリー。
全長が7m以上の巨大な大きさの熊の魔物である。事前に仕入れていた情報で、大森林エリアにいる熊の魔物はこいつしか見当たらない。
そのまま探索し続けて数時間が過ぎた時であった。
「ん?・・・あ、これかな?」
ブラックウルフとは明らかに違う、高レベルの魔物の反応が出てきた。
しかも、その反応はこちらに急接近してきている。
「やばっ」
言葉とは裏腹に、いたって余裕そうな感覚でその場を飛び退くと、近くにあった大木が何者かによって倒壊した。そして、土煙の舞う中でその巨体は姿を現した。
「ぐおぉぉおおおおおっ!!!!!」
大森林のエリアボス、Level93のブラッディグリズリーがその姿を現し、大きな爪を振り上げてリンに襲い掛かった。
「おっと、そうはいかないよ!」
巧みな足さばきで爪を回避し、ブラッディグリズリーの背中に素早く移動した。
「がぁぁぁあっ!!」
「あぶなっ!?」
後方へ移動されたと察知すると、今度はその巨大な腕を後ろに思いっきり振りかぶってきた。
思いっきり後方へ飛び退いて腕の振り回しを回避すると、勢いの行き場を失った腕がそのまま近くにあった大木を抉ってなぎ倒した。
「いくらレベル差があるとはいえ、あれには当たりたくないなぁ・・・」
リンとブラッディグリズリーとの間には10倍以上のレベル差がある。
全力の一撃を食らってもダメージは微々たるものではあると思うが、ブラッディグリズリーの爪が大木を抉る瞬間を見てリンは顔を引きつらせる。
「しょうがない、短期決戦といきましょうか」
魔剣ネフリティスを構えて、ブラッディグリズリーを見据える。あっちは攻撃が当たらないことにイライラしているのか、大きく咆哮を上げて突進してくる。
その様子を見て、リンはわずかに口角を上げた。
「そうやって突進してると急には止まれないよ!【感電砲】!」
魔剣の先を突進してくるブラッディグリズリーの頭部に照準を合わせて叫ぶと、先端からバチバチと音を立てて碧色の電撃弾が発射される。
リンのOAの1つである【感電砲】は、電撃弾の命中した相手に雷属性ダメージを与える遠距離技。MAOにおいて魔法使いプレイヤー涙目のOAである。
その電撃弾は見事にブラッディグリズリーの頭部に命中して、その全身に碧雷が音を立てて感電する。
「ゴアァァァアアッ!!?」
ブラッディグリズリーの頭部に命中した電撃弾、その電撃はそのまま脳を焼き切るほどの感電を引き起こす。
脳神経が焼き切れたブラッディグリズリーは白目を剥き、突進の勢いを殺せずにリンの真横を通過して大木に激突した。
「よし、うまくいった!」
自分の作戦が上手くいったことに喜びを感じながらも、ブラッディグリズリーを倒せたかのチェックを行う。
「うん、ちゃんと倒せてるね。そしたらこれをこうして、と・・・」
メニュー画面を呼び出して操作し、アイテムボックスを選んで収納のボタンをタップする。
すると、目の前にあったブラッディグリズリーの死体が亜空間に吸い込まれるようにして消滅する。そしてアイテム画面には新しく『ブラッディグリズリーの死体』というアイテムが追加されているのが確認できた。
「完全に物理法則を無視してるんだけど、まぁ便利だし別にいっか!」
目の前で起こった現象に一人納得していると、ふとブラッディグリズリーが通ってきた道が目についた。
木を巨体でなぎ倒してきたのだろう、あちこちに倒壊した大木が目に入る。そのせいで、一本の道のようなものができていた。
その奥に、リンはあるものを発見する。
「ん?あれは・・・巣?寝ぐらかな?」
その一本道のさらに奥の方に、斜面にできた大きな洞穴があるのを発見する。
『鑑定』のスキルをかけると、『ブラッディグリズリーの寝ぐら』と表記されている。
リンがその洞穴の入り口まで移動して、『索敵』をかける。
「敵の反応はなしだね。」
敵がいないことを確認した上で洞穴の中を進む。
その洞穴の中は浅く、すぐに最奥へとたどり着いた。
「うわっ、なにこれ・・・」
そこには今まで食らってきたであろう様々な魔物の骨や残骸があちこちに散らばっていた。
「ここに仕留めた獲物を持ち運んで食べていたのね・・・あ、これは・・・?」
空間の中を眺めていると、地面にこの場に似つかわしくないものが転がっていた。
「これって、弓だよね。でもなんでこんなところに?」
それも一つだけではなく、複数の弓と矢が転がっている。なんでこんな骨の残骸に弓が複数も埋もれているのだろうか。しかも持った感覚からしてどれも昔作られた弓のようだと悟る。
「鑑定ではGランク、何の変哲も無いただの弓だよね・・・あ、これって」
弓の側面に何か文字のようなものが彫られていることに気づいた。
目を凝らすとそこには
「キール・・・キールって、あのギウス爺さんの?」
まさかと思い、他の弓も確認すると、他の弓にもしっかりと名前らしき文字が彫られてあった。
その時に私は全て悟った。キールやその仲間達はブラッディグリズリーに襲われた後、この洞穴まで運び込まれて食われたのだと。
「そっか。そうだったのね。15年以上も、あなた達はここで待ってたんだね・・・」
あたり一面は骨の山だ。ここから彼らの亡骸を探し出すのは不可能に近い。
でも、この弓は壊れなかった。もしかしたら死んだ後も、ずっとこの洞穴の中で助けを求めていたのかもしれない。
「大丈夫です。私が、あなた達をちゃんと村へと届けますからね」
見つけた弓を全てアイテムボックスへと送り、洞穴を出る。
森の中は昇ったばかりの朝日の陽光が差し込んで、大森林は神秘的な風景を映し出す。
その大森林の中を私は進み、サラハ村へと帰ろうとした。
『ありがとう』
ふと、誰かの声が後ろから聞こえた気がした。すぐに後ろを振り向いても当然誰もいない。
気のせいかと思って、私はそのまま足早に森を駆け抜け、サラハ村へと帰った。
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