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第2話 本当の現実、そして窮地

今回は前よりも少し長めです


それでは、第2話の方をどうぞ!


 この村、サラハ村はこの広い世界の中でも年中通して穏やかな気候に恵まれ、人口こそあまりいないものの、農作物や狩猟などで生計を立てれるほどには穏やかな町である。


 しかし、その村のすぐ近くに存在する大森林には凶悪なモンスターが多数潜んでおり、村の人間はおろか、()()()()()()()()()()()()()誰も好き好んで入ろうとはしない。それはこの村の人間のみならず、その大森林の存在を知ってるほとんどの者達の見解である、と村の人間達は口を揃えて言う。


 そんなサラハ村は今、村の歴史上で最大のピンチに見舞われている。


「早く最低限の荷物を持って逃げろぉ!モンスター共がやってくるぞぉ!」


「いやぁーっ!助けてぇーっ!」


「おい押すなよっ!押すなってっ!!」


「女と子供達を優先的に逃がせぇ!腕に自信がある者と武器を持っている者は後衛に徹して少しでも時間を稼ぐぞ!!」


 村の中は混乱の境地に至り、村人たちの反応は様々だ。

 荷物を持って早く逃げろと叫ぶ者、非常事態でパニックになり泣き叫ぶ者、他の村人達に押されて上手く前に進めない者、腕っ節に力のある者を奮い立たせて自らもモンスターの時間を稼ごうとする者。


 様々な人間の感情と声が飛び交う光景がリンの目の前で繰り広げられている。

 




「い、一体なんなのよこれ・・・」


 目の前で起こっているのは、ゲームと呼ぶにはあまりにもリアリティのありすぎる光景であった。


 前にも話した通り、MAOにおけるNPCとは機械的かつ固定的な会話しかすることはできない。なのに目の前で起こっているこれは一体なんだろうか。明らかに感情があるとしか思えない人間独特の声音と行動、本当に非常事態が発生したのだと思わされるような騒々しさ。


 いくらVRMMOのゲームとは言え、こんなアップデートが前情報もなしにいきなりくるなんて信じられない、というよりも考えられない。一体なんなのだこれは・・・


「これって夢なのかな?私まだ寝ぼけてる?」


 半分冗談、半分本気で試しに自分の頬をつねってみる。


「・・・い、いひゃい・・・・え、痛い?」


 そう痛かったのだ。本当に自分のほっぺがつねられているのと同じように。



 MAO内において、痛みというものは設定されておらず、攻撃されたりダメージを負った場合は痺れるような感覚が起こるのが普通である。例えゲーム内の剣で斬られたとしても直接斬られたような痛みが起こることは有りえない。


 しかし、今実際頬をつねると本当につねられたような痛みがしたのだ。


 本当に有りえない。今現在のVRMMOのゲームでは、たとえダメージを負うとそのままプレイヤーに直接的な痛みが伴うようなシステムなどどこにもないはずだ。あるとしてもせいぜい鈍痛が少し響くくらいのものだ。



 本当にありえない。一体何が起こっている。

 そんな考えをぐるぐると巡らせていると、ふと一つの考えが浮かんだ。それは最近読んだライトノベルに出てきたような展開。現実的に見れば絶対ありえないだろう、と誰もが鼻で笑うような突拍子もない考えだ。だが、今目の前で起きている現状を目の当たりにすると絶対にないとも否定できないような出来事の数々。


「まさか・・・!」


 その突拍子もない考えを証明すべく、メニュー画面を呼び出して操作。所持している武器一覧から一振りの短刀を取り出す。

 そして、自分の左手の人差し指に短刀の刃を当て、その指の腹の肌を少し斬りさいた。


「いっつ・・・っ!!まさかやっぱり!」


 血だ。MAOのゲームにおいて、敵を切り裂くと普通は血ではなくポリゴンの破片のようなものが飛び散る仕組みになっている。

 しかし、今自分の指から流れているのは紛れもない血液だ。試しにペロッと舐めてみると確かに血の味もする。




 この事実を目の当たりにした時、リンの頭の中でその一つの突拍子のない考えが本当かもしれないという確証を得たような気がした。


 ログアウト画面が出ない、直接肌で感じ取れる気温の変化、人としか思えないようなNPCの存在、あまりにもリアリティのありすぎる光景、そして剣で傷つけた時に感じた痛みと血。


 これらのことを統合して考えられる、突拍子もない事象はただ一つ。


「・・・これってもしかして、ゲームじゃなくてガチの現実なの!!?」


 リンの顔が驚愕に満ち溢れ、思わず大声で叫んでしまった時であった。


「ほれ!何をしておるんじゃ!」


 宿の部屋の扉がいきなり開き、宿屋のお爺さん、もといギウスお爺さんが私を見つけて大声で叫ぶ。


「こんなところでノロノロしていたらモンスター共に食い殺されるぞ!はやくお嬢さんも早く逃げるのじゃ!」


「え、でもこの村はどうするんですか!?」


「・・・悔しいが、今は捨てるしかないじゃろうて!ほれ、村の若いもん達が時間を稼いでるうちにお嬢さんも!」


 そうお爺さんに急かされて私もその場の勢いで愛剣のネフリティスを腰に下げて出ようとする。すると、偶然自分の左手が目に入り、その違和感に気づいた。


「あれ、傷が治ってる?」


 さっき短刀で傷つけた左指の傷が跡形もなく治っていたのだ。あまりにも自然回復力が早すぎる。しかし、この現象にリンは一つ思い当たる節があった。


「あ、もしかして常時発動(パッシブ)スキル『HP自動回復強化』の恩恵?」




 MAOには他のVRMMORPGと同じようなスキルと言われているものがある。

 スキルには様々あり、任意で発動できるもの、常時発動しているものの2種類から、その中でも様々な効果を持つものがある。

 MAOにはそういったスキルの数が合計で数千を越えると言われており、スキルの組み合わせで戦い方の幅も変わるのだ。


 今リンが言った『HP自動回復強化』とは常時発動型のスキルで、このスキルを持つものの体力が10秒間につき2%ほど徐々に回復していくというものだ。


「まさかスキルがこんな形で発動するなんて・・・え、じゃあまさかステータスも?」


 急いでメニュー画面を開き、自身のステータスを確認する。

 そこにはしっかり、Level999としてのステータスと、今まで取得したスキルの一覧が表示されている。


「ステータスもそのままなのね・・・」


「これ何をのんびりしておる!早くお嬢さんも逃げんか!」


 お爺さんが再度私に大声で叫んでくる。


「あ、はい!今行きます!」




 お爺さんに続いて、私も宿屋を飛び出すように出た。

すると、いきなり男の人の声が響き渡る。


「モンスターがきたぞぉー!!」


「早く逃げろー!!!」


 振り返ると、剣を構えた若い男性の前方に、複数の影が見えてくる。そしてその影は猛ダッシュでこちらに迫ってきている。


「ん?あれは・・・」


 目を凝らすと、その影の形を把握できてきた。

 まるで狼のような体格、そして大人の腰よりは大きい高さ、全身が真っ黒な毛並み。

間違いない、あれは・・・


「ブラックウルフ、それも群れの個体かぁ・・・」


 ブラックウルフ。情報によると黒い毛並みをした大きな狼のモンスターであり、群れをなして襲ってくることもある。生息地は大森林などの木が多く生えた森林地帯に生息している。


「えぇっと、ひーふーみー・・・見たところ、数は全部で22匹だね。あと、レベルは確認した感じ平均で65くらいってところかな」


 ブラックウルフが群れで村の中に侵入してきて、ついには武器を持った若い男衆たちの前で立ち止まった。


「「「「「ぐるるるっ!!」」」」」


「ええいっ!このっ!このぉっ!」


 一人の、見た目的におそらく10代後半らしい青年が剣を持って右へ左へとがむしゃらに剣を振り回す。

 しかし、そんな無造作な攻撃が当たるわけもなく、ブラックウルフ達は華麗に避ける。


 そして、ついにその青年目掛けて、1匹のブラックウルフが飛びかかった。


「がうっ!!!」


ザクリッ!


「う、うあぁぁぁぁぁあ!!!!??」


 青年の喉元めがけて飛んできたブラックウルフ。青年は慌てて手でブロックしたが、その腕にブラックウルフは食らいつき、肌が裂けるような音と共に大量の血が青年の腕から流れ出す。


 唐突に飛びつかれた拍子に剣も取りこぼし、あまりの顎の力で振り払うことすらできない。


 そして群れの一匹が飛びついたのを皮切りに、他のブラックウルフ達も武器を持った男達に飛びついた。


「た、助けてくれぇぇぇえ!!」


「誰かぁぁぁあ!!」


「ぐあぁぁぁあああっ!!!」


 一人一人、奇跡的に急所は外れて今は誰一人として死んではいないが、このままでは死人がでるのも時間の問題だろう。


「そ、そんな・・・なんてことじゃ・・・!!」


 目の前で村の男衆が襲われているのを目の当たりにし、ギウスは地に膝をつく。


「もうおしまいじゃ・・・何もかも・・・」




 そして、最初に青年に飛びついたブラックウルフが腕から牙を離し、前足の爪を露わにした。

 そしてその爪を青年に振り下ろす!


「がうあっ!!」


「っ!!!!」


 青年はもうダメだと目をぎゅっとつぶり、襲いくるであろう激痛に恐怖した。








しかし、いくら待っても痛みが襲いかかって来ない。何が起こっている。

そう思って青年は恐る恐る目を開いた。するとそこに広がっていたのは・・・




 首から上を切断されて身動き一つしないブラックウルフの亡骸と、一振りの剣を片手で振り抜いた自分と大して年齢は変わらないであろう金髪の少女の姿であった。


「ふぅー・・・間に合った」


 剣を振り払って血を飛ばす少女が発したのは、そんな気の抜けた声だった。


「うん、動きはゲームの時と同じ感じでできるね。本当は流血沙汰なんて見たくはないけど、この際は仕方ないよね」


 そして、その少女は剣を構えてブラックウルフ達と対峙する。

 仲間の突然死に異変を悟ったか、さっきまで男衆を襲っていたブラックウルフ達が彼らから離れてターゲットを変え、仲間を殺したであろう少女を取り囲む。







「よし、これならいけそう」


 先ほど、ブラックウルフを難なく倒した感覚からして、動きについては問題ないと分かった。


 本当なら流血沙汰なんて見たくもないし、下手をすれば自分も痛い思いをする可能性すらあった。

 しかし、戦える力があるのに目の前で人が殺されかける光景を見て、黙っていられるほど私は性根は腐っていない。


 私は魔剣ネフリティスを構えて、自分を取り囲むブラックウルフの群れに対し、気合を入れて叫んだ。




「さぁ!どこからでもかかってきなさい!!」



最近、めっちゃ腰が痛いんですよね・・・



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