第1話 目覚めと違和感
いやぁ、まだまだ寒い今日この頃、お布団から抜けられない習慣が続いております。
それでは、第1話、楽しんで読んでいただけたら幸いです!
「ん・・・んん・・・?」
窓から差し込む朝日の光に当てられ、リンは目を覚ます。眠気まなこを摩り、大きく背を伸ばしてあくびをする。
ふと目を向ければ目の前には木でできた壁、辺りを見回せば質素な造りでできた木造の部屋が広がる。それはリンが寝落ちしたあの宿屋にそっくりであった。
「ふぁ〜・・・んん・・・あぁ、うっかりゲームで寝落ちしちゃってたのね・・・」
今だに眠気の覚めない声音でベッドから出る。部屋の窓からは、太陽光が燦々と入り込み、朝日特有の暖かな心地よさを感じる。リンは窓の元へと歩み、外を見る。
「んん〜〜〜っ!!!・・・朝の目覚めって、ゲームの中でも気持ちいいものなんだね。まるで本当の朝のよう・・・ん?」
そこでふと違和感に気づいた。そう、暖かいのだ。MAOにおいて、気温というものは細かくは設定されておらず、精々砂漠や荒野地帯に行けば少し暑く、雪山地帯に行けば少し寒い程度の設定しかされていない。この環境、周りは草原や森林地帯に囲まれているため、気温としては普通。つまり暖かくはないが寒くもない設定になっていたはずだ。
窓から差す朝日の光に当てられると、たしかにあの朝日特有の暖かさを身にしみて肌で実感できる。いつもならありえないことだ。
「え・・・本当にお日様の光みたい・・・運営がサイレントアップデートでもしたのかな?」
MAOの運営はプレイヤーから多くの支持を得ているものの、謎な部分が多い。
どこに本社があるのか、誰が開発に関わっているのか、全てが分かっていない。
その中でも、アップデートに関してはほぼ不明であった。アップデートを行ったのはサービス開始してから3年間のうちにたった1回だけ。しかもそのアップデートは新アイテム追加や新フィールド追加などの追加コンテンツのみであり、プレイヤーの感度上昇のアップデートは前代未聞だ。
「そう思うと、なんか妙に肌の質感とかがリアルになったような・・・?」
自分の二の腕をプニプニすると、しっかりと生身の腕のような質感と弾力、感触が目と指を通して伝わってくる。まるで本当に生身の人間の体のようだ。視界もこの上なくクリアで、窓の外の景色が肉眼のように鮮明に映る。
「とりあえず、この部屋から出ないと・・・」
アップデート云々のことはひとまず置いておいて、1階に降りて宿の玄関口へと向かう。
「お嬢さんや、気が向いたらまたおいでなぁ」
「はい!ありがとうございました!・・・え?」
ごく自然に宿屋の主人であるお爺さんと会話をしたが、ふと決定的な違和感に気づき、思わず立ち止まってまじまじとお爺さんの顔を見てしまう。
「どうしたのじゃ?儂の顔に何かついてるのかい?」
思わず振り返ると、お爺さんが、はて?と擬音がつきそうな顔をして首をかしげる。
有り得ない。そのような感情がリンの頭を支配する。
MAOにおけるNPCは、会話することは基本的になく、クエストなどで少し話をする程度である。もちろんだが、その会話はプログラムされたものであり、固定的な発言しかできない。
決して、自分からプレイヤーに挨拶することや、ましてや感情を露わにしてプレイヤーに問いかけるようなことは今までになかった。
「い、いえ・・・気のせいです」
「そぉかい?ならいいんじゃが・・・お嬢さんはそんな装備で大丈夫なのか?肌の露出が多いように感じるんじゃが・・・」
「ご心配ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ?これでも結構強い装備なんで!」
この装備、見た目の肌面積は多いように見えるが、MAOのプレイヤーが着る装備として、性能はともかく、見た目はごく普通な方である。なので、そこらへんを歩いていても衣装の見た目だけなら大した問題にはならないと思うが
「そうなのかい。じゃが、もっと着込むことをお勧めするぞ?この村の近くにある大森林とかは強くて凶悪なモンスターが多いからのぉ」
「・・・へ?」
やはり何かがおかしい、とリンはさらに考え込む。
この村の近くにある大森林の情報は、事前に入手している。その大森林地帯は広大なフィールドではあるものの、出現するモンスターはめちゃくちゃ弱いわけではないが強くもないという感じである。
出現するモンスターの平均レベルは大体レベルで言えば60前後、一番高くて70後半あたりらしい。このレベル帯の基準的には、駆け出しのプレイヤーには荷が重いが、ある程度戦闘のノウハウを理解してきて、少しまともな装備をすればソロでも攻略は可能。といった感じである。
大森林はフィールドこそかなり広大ではあるが、モンスターは大して強くない。それがMAOでこの場所を経験したプレイヤー達の総意である。
「でも、次に行きたい国へ行くには、大森林を突っ切ったほうが近道なんですが・・・」
「だ、大森林を突っ切るじゃと!!?」
リンがそういうと、宿のお爺さんは驚き慌てふためき、リンに対して驚愕の視線を向ける。
「やめておくべきじゃ!あの恐ろしい大森林を通るなど、命がいくつあっても足りんぞ!」
「いや、ちょ、落ち着いてください!?」
自分に対して必死になって止めようとするお爺さんに少し引きして宥めながら、どういうことだと再び思案する。
確かにモンスターは出るし、フィールドは広大であるが、リンからしてみればそのレベル帯のモンスター相手でも難なく倒せる。むしろ過剰なくらいだ。
たとえ木々の生い繁る広大なフィールドであったとしても、メニューのマップ機能を使えば、よほどの方向音痴でなければ迷子になることはない。
「ともかく、大森林には近づいてはならん!」
「えぇ・・・あ、でも大森林には一本道がありましたよね?そこを通るつもりなんですが」
「あるにはあるが、あれも使わんほうがいい。あれを使って通ろうとしたからあの日あんなことに・・・!」
お爺さんの顔に一瞬ではあるが後悔と悲哀の表情が浮かんだ気がするが、すぐに私に顔を向けた。
「とにかくじゃ!絶対にあそこにはいってはならん!絶対にじゃ!」
お爺さんにすごい剣幕でそう言われてはさすがの私もここは引くしかない。
「わ、分かりました。別のルートを使って大森林を迂回しますね?」
「むぅ、それならいいんじゃが・・・」
お爺さんがようやく落ち着いて腰を下ろした。
それにしても、すごいクオリティだ。今までNPCとはプログラムされた機械的な会話しかできなかったが、さっきまでのお爺さんには明らかに感情がこもっていた。まるで本当に人間が喋っているみたいに。ここまでくると、本当に運営が超高度なアップデートを施したとしか思えなくなってくる。
「まぁ、運営のアップデートについてあとで探るとして、あそこまで言われたらさすがに別ルートで行かなきゃだよね」
また迂回ルートを考えるかぁ、と先ほどの宿の部屋へと戻り、ゲームからログアウトしようとする。今日は月曜日であるはずだが、その日は学校が創立記念日であるため、奇跡的に休みなのだ。考える時間はたっぷりある、だからまずはログアウトして朝ごはんでも食べよう。
そう思って、メニュー画面を開いた時、そこにあるはずのものがなかった。
「あれ?ログアウトボタンがない・・・不具合?バグ?」
そこにあるはずの、ログアウトボタンが消えていたのだ。これでは帰れないではないか。運営なんとかしてくれ。
そう思っていたら、何やら宿の外が騒がしい。一体なんだと思って窓を開けて様子を伺うと
「大変だギウスの爺さん!あそこから!大森林から大量のモンスターが溢れ出てきた!こっちに向かってきてる!」
「な、なんじゃと!?なんてことじゃ・・・っ!!このままでは村が滅ぶぞ!」
なんかいきなりイベントが始まったっーー!?
というか、あのお爺ちゃんってそんな名前だったんだ・・・
寒すぎて近くのコンビニへ行くだけでも一苦労。
今冬は場所によっては大豪雪となっている模様ですが、お身体を大事にして過ごしていただければと思います・・・
続きが気になる!面白かった!という方はブックマーク・評価などをしていただけると嬉しいです!