83話・傲慢令嬢の花嫁修業?
「やあ、メローネ」
「フランキーさま」
フランキーと廊下で出くわしたメローネは、廊下の端に寄って頭を下げようとしたが、相手が距離を詰めてきてそれは叶わなかった。
「……?」
「変われば変わるものだね。サロモネ男爵令嬢」
「違います。わたしは男爵令嬢などではありません。誰かとお間違えでは……」
「そう警戒しなくてもいいよ。僕はプレシオザ国の王都にあるピエラ学園に一時、留学していたことがあった。セレビリダーデ侯爵の子息のニコラスとは同じクラスで、きみのことは聞いて知っていた」
フランキーが、セレビリダーデ侯爵の子息のニコラスと知り合いと聞き、メローネは息を飲んだ。ニコラスの未来を潰したと批難されてもおかしくないメローネは、慌てて謝罪した。
「申し訳ありません。あの頃は何も知らずに勝手をして皆様方には多大なご迷惑をおかけしました」
「きみから謝罪を受けるなんて……、あの頃のきみからしたら信じられない思いだよ。本人だよね?」
メローネの神妙な態度に、フランキーは呆気にとられて言った。メローネは居たたまれない思いに駆られた。自分の過去がしでかしたことが、自分の身に降りかかろうとしている。
「もしかして解雇でしょうか? 今すぐここを立ち去れと言うのならば立ち去ります。でも、次の仕事が決まるまではここに置いていただけないでしょうか? 厚かましいお願いだとは分かっていますが、どうかお願い致します」
「いや、ちょっと待って。僕はきみにここを辞めて欲しいなんて言ってないよ」
「え?」
「あの常識知らずで許婚がある男性に言い寄り、名門のセレビリダーデ侯爵子息と、大富豪であるミラジェン子爵家ご令嬢との婚約を潰したサロモネ男爵令嬢が、こんなまともな人物になっていたとは思わなかったからさ、驚いたんだ。やはり修道院行きは間違ってなかったね。きみと手紙のやり取りをしていたマックスからは、色々と聞いていたよ。きみが反省して更生しているって」
「……? マックスが? どうしてあなたさまと?」
「実は彼とは母方の従兄弟同士なんだ。時々、会って色々話していたからね。ここの領主の屋敷の護衛の仕事はもともと僕が紹介したもので、きみのことも頼まれたから、ここのご領主に話して雇ってもらった。きみは仕事に真面目で評判がいいよ。他の使用人達とも仲良くやっているようだしね。ご領主夫妻や、僕としてはこのまま長く勤めてもらいたいと思っている」
「ありがとうございます。フランキーさま」
そこへニナ嬢がやって来た。
「メローネ。あなた、また何をしているの? さっさと仕事に戻りなさい。男性に色目を使うのがお得意なのだから困るわ」
「……失礼します」
ニナ嬢に身に覚えのないことで批難され、その場を立ち去ろうとしたメローネだったが、フランキーがニナ嬢に言った。
「ニナ嬢、心の整理はついたかな? 侍女見習いにそうまでして指摘するご立派なあなただ。修行を始めるには早いほうが良い。こちらのメローネ嬢は16歳にして始められた。丁度、あなたぐらいの年だ。それを外すと行き遅れとなるが?」
「勿論、嫌だなんて言いませんわ。明日にでも参ります。そこのメローネさえ出来たことが、この私に出来ないことなんてありませんもの」
ニナは挑戦的な目を向けてきたが、話の見えないメローネは黙ってその場を立ち去ることにした。
数日後。ニナ嬢はメローネのいた修道院に送られた。花嫁修業の名目で。ご領主夫妻は我が儘な娘に手を焼いていて、それを見かねたマックスからフランキーに報告が上がっていたらしい。そこでフランキーが花嫁修業として、令嬢を修道院に預けられてはいかがかと、ご領主夫妻や本人に話を持ちかけたらしい。
メローネがいた修道院では、罪がある女性が送られるだけではなく、身分ある女性が花嫁修業の一環として一時、送られてくる場合もあった。アンナ曰く性格矯正の為に。ご令嬢方の中には蝶や花よと可愛がられて育ったせいで、我が儘になるご令嬢方も少なくなく、身分の高い相手ならともかく、婚姻相手が同格や、下の身分ともなると婚家が大変なことになるので、花嫁修業と銘打って、婚約者を修道院に送って矯正してもらうシステムが最近出来たと手紙の中に記されていた。それをフランキーは利用したらしい。
屋敷の中は傲慢なニナ嬢がいなくなったことで、使用人達の笑顔も増え、メローネも快適な毎日を送っていた。




