77話・最終回・芽生えた執着心
リーノの指摘に、良く見ているなと感心したように、シルヴィオは言った。
「天使さまに出会ったのさ。あとサンタクロースにも会ったかな」
「天使? サンタクロース?」
瞬くリーノに、シルヴィオが微笑んで言った。
「ああ。彼らは私に家族のありがたみや、仲間の大切さを教えてくれたのさ」
「そうですか……」
シルヴィオが言う天使や、サンタクロースはそのまま現実にいたと言うわけではなく、誰かを比喩して言っているのだろうとリーノは察した。
それにしても彼にとってはいい傾向だったようだ。自分達にも気兼ねなく話しかけてくれるようになってきたので、ここ最近は仲間うちでシルヴィオの人気はうなぎ登りだ。
「リーノ。今までありがとうな。そしてこれからも宜しく」
「シルヴィオさま。不意打ちは止めて下さいよ。心の準備が伴わないんですから」
いきなりシルヴィオから、今まで面倒を見てきた事へ感謝の気持ちを伝えられてリーノは涙ぐんだ。年々年を取る間に、涙腺が脆くなってきたらしい。
「なんだ。泣いているのか?」
「あなたさまの成長が見られて嬉しいんですよ。今まで機械人間でしたからね」
姉のような気持ちでシルヴィオを見守ってきたリーノは、彼の感情面での成長が喜ばしかった。シルヴィオが怪訝な声を上げる。
「機械人間?」
「こっちの話です。お気になさらず。それにしてもミラジェン子爵令嬢と出会われてあなたさまは良い方向に変わられた。彼女はあなたさまにとって運命の女性なのかもしれませんね」
「そうかも知れないな」
そう言いつつ、二人は校舎に慌てて駆け込む子爵令嬢の姿を遠目に眺めていた。
「おまえには渡さないからな」
「まだ、言っているんですか?」
しかし、シルヴィオにはしつこい面があった。以前、リーノが殿下の影武者を演じていたときに、その秘密を知ったマリーザが、リーノが女性だとはとても信じられない。本物の王子さまみたいと言ったことをまだ彼は心配していた。
いつかリーノに、マリーザの気持ちを攫われるのでは無いかと不安になっているのだ。
「しつこい男は嫌われますよ」
「絶対、マリーザには必要以上に近づくなよ」
「はいはい」
呆れたように言いながらもリーノは、彼が愛おしそうに駆け去る彼女の背を目で追っているのを、微笑ましく見守っていた。




