73話・父親としては複雑な思いです
乞う瞳から目を離さずに言い切ったマリーザを、シルヴィオが立ち上がり抱きしめる。
「良かった……。もし、この手を取ってもらえなかったらどうしようかと思った。ドキドキしたよ」
「ヴィオでも不安になることがあるのね?」
「勿論だよ」
シルヴィオの背におずおずと、マリーザが手を伸ばしかけた所に入室してきた人達がいた。
「おめでとう。マリー。やっぱりわたしの言ったとおりになったじゃない? ライ」
「そうだね。オル」
パチパチと拍手が起こり何事かと思えば、手を叩いて喜ぶ母がいた。その隣で父のミラジェン子爵は複雑そうな顔をしていた。
「彼が罪人の殺害容疑をかけられた時も、絶対違うと言い張ってその証拠をかき集めたくらい、シルヴィオ君にマリーはゾッコンなのよね?」
「お母さま。ゾッコンだなんて……、内緒だって言ったのに……」
「あら。ごめんなさい。でも、二人とも両思いだって分かったのだからいいじゃない」
オルソラはあっけらかんとして言う。いくら気持ちが通じ合っているからと言っても、父親の前でそれを明かさないで欲しかった。同性の母親には気軽に相談できたことでも、異性の父に知られるのは気まずすぎる。父を窺うと浮かない顔をしていた。
「婚約したからと言っても、すぐにマリーがお嫁に行くわけではないのよ。それに彼が婿に来てくれるんだから……」
「ヴィオが婿に来てくれるの?」
「そうよ。彼ね、我が家に来月から婿修行に来てくれることになっているわ」
目を見張るマリーザを前にして、シルヴィオはミラジェン子爵夫妻に頭を下げた。いつの間にかマリーザの外堀は埋められていたらしい。シルヴィオの行動力には脱帽だ。それでも好きな相手に求婚されて悪い気はしなかった。
「宜しくお願いします。ミラジェン子爵。ミラジェン夫人」
「宜しくね、ほら、あなたも」
「あ、あ……うん」
「何よ、もう、煮え切らない態度ね」
ミラジェン子爵は煮え切らない態度で、隣にいる夫人は、元公爵令嬢に相応しくない態度で夫の背中を力任せに叩いた。
「痛て……!」
「ほら、シャキンとする」
「分かったよ。宜しく、シルヴィオ君」
ミラジェン子爵が手を差し出して来て、シルヴィオと固く握手を交わし合った。数日後、マリーザとシルヴィオは正式な書面を交わし婚約者となった。




