72話・童話の中のお姫さまになりたかった
「どうしてミラジェン子爵は我が国の低位貴族に? そこにはこの国の王家が関係していたりするのかな?」
「ええ。この国の先代国王と、ロキオン前国王は親しい間柄だったそうだから、ロキオン国王は双子の王子のことを打ち明けて相談していたらしいわ。いずれどちらかの王子を、プレシオザ国に預けようとしていたみたい。プレシオザ国王は、そこでミラジェン子爵に目を付けた」
「ミラジェン子爵は、どちらの国にも商会を持っていたからかい?」
「それだけではなくて、ミラジェン子爵が子に恵まれない事を悩んでいて、孤児院巡りをしていると臣下から聞いたのがきっかけだったそうよ」
「つまり王子を、養子として与えたって事か?」
「そうね。だから現ミラジェン子爵については、素性が知れなかったのではなくて? ロキオン王とプレシオザ国の両国の王が手を組んで隠し続けたから。それも低位貴族に預けたことであまり表に出ることがなかった。宮殿で開かれるパーティーに参加しているのは、高位貴族のみだったし、皆、低位貴族の当主や子息の顔なんて気にしないしね」
「ミラジェン子爵は、そのことに納得していたのかい?」
「お父さまは、王子という立場にあまり未練はなかったみたい。次期王には人情味があって努力家のラルドが向いていると言って、自ら進んでプレシオザ国のミラジェン子爵の養子となったみたい。今では商人が自分の天職だって言っているわ。国王だなんて気が重いし、非道になりすぎてきっと周囲が嫌がるだろうって。私も同じ気持ちよ」
王女なんて柄じゃないしね。と、マリーザは呟く。身の丈に合わないことは望むものじゃないと言うのは、メローネのことで良く分かっている。
「私としてもきみが王女殿下でないことにホッとしているよ。こうして気軽に話せなくなるかもしれなかったからね」
「でも少しだけ王女さまには憧れていたのよ」
「王女さまになりたかった?」
「物語の方のね。童話に出てくるお姫さまには忠実な騎士が寄り添っているから、私にも素敵な騎士が付かないかと思っていたの」
「じゃあ、私がきみの騎士になるよ」
照れくさそうに幼い頃、望んでいたことをマリーザが打ち明けると、その場でシルヴィオが跪く。美しい紫色の瞳に見つめられて、マリーザは息が止まるかと思った。
「いきなりどうしたの? ヴィオ」
「ミラジェン子爵令嬢。どうか私と婚約して頂けませんか? 生涯、あなたを守り通すと誓います」
「え、ええ──? どういうこと?」
驚く彼女に、跪いたままのシルヴィオが聞いてくる。
「私はきみが好きだ。きみは私のことをどう思っている? 嫌いかい?」
「うそ。ヴィオが私のことを? 本当に?」
「嘘じゃないよ。本当のことさ」
「これは夢じゃないのね?」
「現実だよ。答えは?」
「……宜しくお願いします」




