69話・おまえは王の子ではない
「毎日交代で入れ替わっていた。どちらかが王子として素顔を晒し、片方は鬘を被って見目を変え、周囲には王子の影武者だと誤魔化してきた。その時のことを、この愚弟は言っているのだろう」
アントン修道院長の問いに、ミラジェン子爵は頷いた。
「我らは第一王子と、その影武者として共にありながら、同じ教育を施され、同じ場所で育てられてきた。どちらが本物で、どちらが偽者ということはない。私達はどちらもロキオン王の子であり、同じ血を分けた兄弟だ」
「双子だと? 忌むべき存在が王位に就いていることは問題があるだろう。俺に王位を譲り渡せっ」
ウルリックは忌々しそうに、壇上で二人肩を並べるロキオン王とミラジェン子爵を睨みつけた。
それに対し、そっくりな二人の反応は違った。ロキオン王は悲しそうに見つめ返し、ミラジェン子爵は口角を上げて応えた。
「これはおかしな事を言う。プラテーン公爵。貴殿には父王の血など一滴も流れてないというのに?」
「……! 俺は陛下の子ではない? 嘘だ……、嘘をつくなっ」
「先代のプラテーン公爵から、何も聞かされてないのか?」
「お祖父さまから? 何をだ?」
「おまえの母親がどうして側妃となれたのかを。おまえだって分かっていたはずだろう? 前陛下は王妃を大事にしていらした。側妃など見向きもしなかった」
「……それは、陛下は母上を側妃に迎えられたことで王妃殿下を気遣われているのだとばかり……」
「そう母親である側妃に吹き込まれたか? 陛下は側妃を利用してまで、王家に食い込もうとしたプラテーン公爵を憎んでいられた。側妃のことも愛してなどいない。陛下に愛されている王妃に嫉妬して嫌がらせを続ける側妃のことは害虫にしか思っていなかった。おまえなど欄外だ。視界にも入れなかった」
「母上が愛されていない? それならどうして私が生まれた? 例え、母上が政略で王家に迎えられたとしても、陛下のお渡りがあったからだろう?」
ウルリックの言葉に、ミラジェン子爵は呆れたような目線を送り、ロキオン国王は哀れむ様子を見せた。
「だから言っただろう? ラルド。こいつに下手に情などかけるものではないと。おまえは優しすぎるのが欠点だ」
「ライナート。済まない。余がこれを哀れに思って同情してしまったせいで……」
「もういいだろう? ラルド。こいつは今まで好き勝手し過ぎた。そろそろ自分でやらかしたことの責任は自分で取らせろ」
ミラジェン子爵に背を押される形で、ロキオン王は真実を語り出した。
「……ウルリック。おまえは側妃と陛下の子ではない。側妃は未婚の身で妊娠した。相手はお気に入りの護衛だった。そのことを知った前プラテーン公爵は、護衛を処分し、一人娘を修道院に送る気でいたが、登城のおり中庭で遊んでいた我らを目撃した。公爵に我らが双子だとバレてしまったのだ。そのことを知った公爵は、余達が双子だと言うことを秘密にする代わりに、娘を側妃として受け入れろと陛下を脅したのだ」
「俺は陛下の子ではない……?」
ウルリックは今まで、側妃の母親が父王に愛されて無いとしても、蔑ろにされてきたとしても、自分が先王の子であり、王子であると言うことは揺るぎないものと信じていた。ところがそれは全て虚像であり、自分は先王の血を引いてないばかりか、祖父が卑怯な手を使い、脅し取った地位だった。
その真実に打ちひしがれた。
「父王はプラテーン公爵の影響を恐れた。プラテーン公爵は、我らの祖父王の弟であり、父王にとっては叔父に当たる。高位貴族として強い発言権を持ち、貴族達の頂点に立つ公爵を敵に回すことは出来なかった。その為、嫌々ながら公爵に屈し、その娘を側妃に迎えた。その事がもとで父王はプラテーン公爵を憎み、その娘である側妃を嫌った。側妃を離宮に追いやり、一度も彼女のもとには足を運ばなかった。その後、公爵が亡くなると側妃を実家に即、送り返し、ウルリックをプラテーン公爵家の跡継ぎとして養育せよと命じた。おまえは父王の子ではないのだから当然のことだ」




