65話・神は全てをご存じなのです
「おまえが求婚を申し込んでいた、リギシア国からはお断りの連絡が来た。おまえの人間性に問題ありと見て、大事な王女を嫁がせる訳にはいかないそうだ」
「誤解ですよ。私が一体、何をしたと言うのですか? リギシア国の王女殿下には確かに結婚を申し込みましたが、音沙汰もありませんでしたし、もうその話はなくなったものと思っていました」
「あちらはおまえの素行を調べていた。そこでおまえの所業が判明した」
「私の所業とは?」
「おまえは自分の配下に命じて、ある罪人の女を匿っているそうだな?」
「罪人ですか? 知りませんよ」
「パルミラという名前らしいじゃないか? おまえの屋敷に情人として匿っていると報告を受けている」
「……! 陛下、彼女は……」
「残念だよ。ウルリック。今まで余はそなたの望みを知りながら、叶えてやれないことに申し訳なく思っていた。だからおまえのしたいように充分、目をかけてきたつもりだ。でもこれは駄目だ。余の許容範囲を超えている」
「陛下。違うのです、これには訳があって……」
「見苦しいですぞ。プラテーン公爵」
陛下に取りすがろうとする公爵を、横から諫めた者がいた。それは黒い修道服を着た修道士で、修道士には連れの若者がいた。修道士は黒髪に黒い瞳をした美丈夫でウルリックをねめつけていた。
「あなたは?」
「私はトロイル国にある修道院の院長をしております。アントンと申します。そこでこの間、一人の若者を保護致しました」
ウルリックは捕らえてこいと命じたシルヴィオとは、面識がなかった。修道院長が自分の隣に立つ貴公子を保護したと言っても、それが捕らえてこいと命じた相手だとは気がつかずにいた。
「彼はシルヴィオ・クラレンス。罪人である女性からある情報を聞き出そうとしたら、不逞の輩に襲われて攫われそうになり逃れてきたところを、我が同胞に助けられました」
「クラレンス……!」
ウルリックが気付いた時には遅かった。修道院長は陛下の前でシルヴィオに証言させようとしていた。
「あなたの手の者に彼は襲われたそうです。そうですね? クラレンス卿?」
「はい。私は我が国で外国人のオーナーが経営している酒場を調べておりました。そこでご禁制の麻薬が販売されているばかりか、その麻薬を用いて客人を虜にし、常用させて意のままに操っていたことが分かりました。そのことで摘発しようとしたところ、その前に自分が相手の手の者に捕まり、牢に捕らえていた女は死んだように見せかけられて、その犯人に仕立て上げられました」
「嘘だ。私はそのようなことはしておりません」
「あなたの配下の者達はすでに捕らえております」
修道院長がそう言うと、ウルリックが指示を出した後、戻って来なかった配下数名の者達が、後ろ手に縛られて出て来た。
「わたし達は、嘘は申しません。神に誓って正直に申し上げます。わたし達はプラテーン公爵に命じられて、パルミラという女を救い、その女を捕らえたシルヴィオ卿を捕らえました」
「おまえ達……」
ウルリックの配下の者達は、瞬きもせずに一点を見つめてハッキリと言い放った。その態度にウルリックは苛立ちを覚えた。
「プラテーン公爵。彼らのように正直になった方が宜しいですよ。神はあなたを見ていらっしゃいます。神は全てをご存じなのです」
「いきなり何を……?」
修道院長は胸の前で十字を切った。そこでウルリックは異変を感じた。




