64話・ご勘弁下さい
「プラテーン公爵。ご同行願います」
「何事だ?」
「至急、連行せよとの陛下の命です」
ウルリックは王宮からやって来た兵達を前にして、不快な様子を隠そうともしなかった。お昼下がりのことで、パルミラと遅い朝食を摂っていたところに、彼らが先触れもなく訪れたのだ。
それも止めようとする執事を振り切り、慌ただしく踏み込んできた彼らから出た言葉は連行。彼を罪人として捕らえに来たと言っているようなものだ。陛下の命でと言うことは、彼を捕らえるように陛下が命じたということで間違いない。
大人しく従うほかないと思っているウルリックの横でパルミラが声を上げた。
「彼をどうしようと言うの?」
「パルミラ。おまえはここで待っていてくれ」
「リック」
「すぐ戻って来る」
「うん」
「サーセット。あとは頼む」
「はっ」
ウルリックは執事にパルミラの事を頼むと、兵に促されて部屋を出て行った。それを見送ったパルミラのもとへ、彼が戻ってくることはなかった。
「喉が渇いたな。きみ、水を持ってきてくれないか?」
「はい。ただいま」
ウルリックは、王宮の陛下の前に連れて来られていたが、いつもの事と気にしていなかった。彼にとっては連行され、陛下に叱られるのは日常茶飯事のことで別段、気にすることでもなかったのである。
「ウルリック。おまえはなぜ、捕らえられたか分かっているな?」
「さあな。何の事でしょう? 陛下に何がご不興を買ったことやら」
「ウルリックッ」
ウルリックは、王座に腰掛ける陛下からねめつけるような目線を受けても、平然としていた。使用人がお盆に載せて運んできた杯に入った水を一気に飲み干し、陛下と向き合った。
「おまえは何と言うことをしてくれたのだっ。プレシオザ国ではご禁制の麻薬を持ち込み、その薬を販売していたばかりか、一部の貴族を洗脳状態にして、乗っ取りを企んでいたとはどういうつもりだ?」
「別に。あの薬が禁じられているとは知らなかっただけです」
「禁じられていたのが知らないだと? 王弟であるおまえが、姪の王女が迎える婿君の国の情報を知らない訳があるまい? そんな理由がまかり通るとでも思っているのか?」
「本当に知らなかったのです。ご勘弁下さい」
陛下は激高していた。ウルリックはのらりくらりと躱そうとする。いつも彼が問題を起こすと兄王は激怒するが、二人きりの兄弟と言うこともあり対応は甘かった。最後には「次からは二度とするなよ」と、言い含めて弟のプラテーン公爵を解放してきたので、今回もそうであろうとウルリックは兄王を舐めていた。




