62話・馬鹿な女
「そういう事は、俺以外の男の前では言うなよ。感心しないな」
「あたしはあんた以外にこんなこと言ったことないわ。だからあんただけは、娘の父親にはしたくなかったの」
「おまえの理想とする父親像に、俺は当てはまらなかったか?」
「それもあるけど、あんたを娘に合わせてしまったら、あたしは捨てられると思って……」
「馬鹿だな。そんなことあるわけない」
「だって、あんただってあたしよりも若い女の方が良いでしょう?」
ウルリックは、もしかして自分がリギシア国の王女に求婚しているのがバレたかと思ったが、そうではなさそうだった。ウルリックが王女に結婚を申し込んだのは、ある思惑があってのことだ。そこには愛だの、恋だの、パルミラが嫉妬するようなものは存在しない。
「お店に来ていた男はみんなそうだったわ。薬を使わなくても皆、若い娘に目を向けていた」
彼の経営する酒場でパルミラが人気酌婦でいられたのは、彼女は男への奉仕に色々趣向を凝らしていたせいだ。彼女は娘を養うために、売れない娼婦でいるわけにいかなかった。彼女は必死で男達に媚びて、常連客とした。
「俺にとっておまえ以外の女は、芋やカボチャにしか見えない」
「リック」
「あの店はすぐに閉める予定でいた。気まぐれに開いた店だったからな。でも、おまえが毎日、オーナーのおかげで娘と二人、生きていける。ありがとうだなんて言うから、なかなか閉められなくなってしまった」
「リックは優しいね。あたしが喜ぶような言葉をかけてくれる。もう十分だよ。こうしてあたしの命を助けてくれた。でも、あんたはあたしなんかに、構っていて良い人じゃない。ここでバイバイしよう」
何かを覚悟したような彼女の瞳には、それまでのウルリックを頼り切っていたような様子は見られなかった。
「パルミラ……?」
「あたしね、もういいの。あんたはあんたの世界に戻って。あたしのことがバレたら、あんたが危ない」
何となくパルミラは、ウルリックが自分のような平民では、手が届かない存在だと気がついていたようだった。
「馬鹿だな。俺と別れてこれからおまえはどうする?」
「何とかなるわ。あたしって結構、見た目はいいんだから」
彼女の精一杯の強がりに胸が痛くなる。さっきまでは若い女に負けるのが嫌だと抜かしておきながら、今度は何とかなると言う。ウルリックの為を思い、自分など切り捨てて先を行けと言う馬鹿な女が恋しかった。
「おまえは俺を見捨てて平気なのか? さっき俺は命の恩人だからなんでもするって言わなかったか?」
「だってリック……」
「もう何も言うな。俺は犯罪に手を染めている。ここでおまえを見逃してやるのが良いのかも知れないが、おまえとは別れたくない。俺に付いてきてくれるか?」
「あたしは馬鹿で賢くない女だけど、リックが逃げるときの盾くらいにはなるよ」
「おまえを盾にして逃げるほど、俺は甲斐性なしでもないぞ」
救った命をこんな男にかけると言う女が哀れで滑稽過ぎる。それでもそう思われるぐらいに好かれて悪い気はしなかった。




