60話・ウルリックの嘘
全ては彼女がお膳立てしようにも、その娘が自ら潰したようなものだ。母親は犯罪にまで手を染めて、娘を何とか王子妃にしようと頑張っていたというのに。その苦労は水の泡となった。しかも、プレシオザ国の王家はさっさとパルミラを処分しようとした。
それが彼には許せなかった。娘の為に人生を無駄にしようとした女が哀れだった。本人はそんなことすら気がついていない。メローネはウルリックから見れば、甘やかされたただの馬鹿娘だ。そんな娘の幸福な未来を願い、母娘二人この世を生き抜くために、好きでもない男達に体を差し出して来たパルミラが哀れでならない。
もう彼女は自分自身の幸せを手にしてもいいはずだ。
「どうしたの? リック? やはり難しい?」
「そうだね。難しいと思うよ。でも、修道院に入ったからといってきみの娘が不幸とは限らないよ」
「どういう意味?」
「戒律の厳しい修道院というと、罪を犯した者の収容先と考えやすいけど、実際には未婚の高位貴族女性達が、花嫁修業先として預けられることもあるんだ。そこで彼女らと親しくなったら、メローネも知り合いが増えるし、どこかのそれこそ王家の血筋を汲むご令嬢と、知り合いになってどこかの王子さまを紹介されることもあるかも知れない」
「そうなの?」
ウルリックの嘘に、単純なパルミラは目を輝かせた。彼女にとってメローネが、どこかの国の王子さまに見初められて結婚することが夢のようで、それが叶えられるものと信じ込んでいた。
実際、教養も無く高位貴族令嬢でもないメローネが王子妃になるなんて無理がある。王家に嫁ぐのならそれなりの身分と教養が必要となるが、あのメローネはマナー一つ身についてなかった。ただ見目が良いだけであれでは愛妾くらいにはなれるだろうが、側妃としても認められるはずもない。運良くなれたとしても周囲に馬鹿にされるのがおちで、公式な場には出させてももらえないだろう。
──愛玩としてはいいだろうが。
パルミラが望む展開にならないのは明らかだ。本当のことを告げて、この愛しい女性の機嫌を損ねることは良しと思わないウルリックは、彼女が勝手に誤解するような言葉を使った。
ウルリックとしては彼女の娘の事なんてどうでも良かった。彼にとってはパルミラが第一だ。彼女さえ側にいてくれたならそれでいい。他の男との間に出来た娘など邪魔なだけだった。
「だから無理に出そうとしない方が良いかもしれない。そのうち彼女には、王族のご息女と知り合う縁が出来るかも知れないからね」
「さすがウルリックね」
そんなことあるわけがない。王族や高位貴族のご令嬢方が一時的に身を寄せる修道院と、罪を犯した者が送られる修道院には天と地ほどの差がある。高位貴族のご令嬢達が身を寄せる修道院は、お金さえ積めば修道女としての作業を免除してもらえるばかりか、使用人も連れて行けるので、令嬢が苦痛な思いをすることはない。
それとは反対に罪を犯した者は、それも償いの一部として促されるので、ミサに参加は当然のこと、自給自足の生活を送らざるを得なくなる。贅沢は出来ないし、質素倹約が当然なので、メローネのような我が儘放題に育った娘には、いつまで耐えられるかが微妙なところだ。
下手すると命に関わってくるが、それは自業自得だ。メローネは、今まで母親の苦労の上に生きてきた。それを享受してきて、母親が生活の為に苦労するのは当たり前だと思っていた節がある。それをまたパルミラが許し続けていることにも納得がいかなかった。




