55話・シルヴィオの過去
「ジオ~」
「お帰りなさい。マリー」
教室に戻ってくると、マリーザにとって一番の癒やしであるジオヴァナが出迎えた。今は放課後。誰もいない教室で一人、彼女は待っていてくれた。
「お兄さまについて何か聞けた?」
「ううん。全然駄目」
「そうよね」
彼女は殿下の許嫁だ。だれより兄の身を案じているはずの彼女が、殿下に聞かないわけがない。マリーザが生徒会室に行くと言ったとき、彼女は止めなかったが大体の事情は、殿下から聞いてはいたのだろう。
「ごめんね。ジオ。私、思わず先走ってしまったけど、あなたの方がヴィオのことを心配しているのに……」
「いいのよ。マリーがそれだけお兄さまのことを、気に掛けてくれていると分かって嬉しいわ」
ジオヴァナは微笑んで見せた。心の底からそう思っているようだった。その彼女はポツリと零した。
「私ね、狡いのよ」
「ジオ?」
「子供の頃に前世の記憶が蘇ってから、私は行方不明の双子の兄が、どこにいるのか知っていながら、両親になかなか言い出せなかった。前世の記憶があるなんて言ったら気味悪く思われるだろうと思ったから。やっと伝えられたのは自分が学園に入学する前のことなの」
「それまでジオは、ヴィオと一緒に暮らしてなかったの?」
打ち明ける機会なんていくらでもあったのにね。と言う彼女に自虐的なものを感じる。彼女の言葉に、マリーザは気にかかることがあった。
「ええ。私達は赤子の時から離れて暮らしていたのよ」
「どうして? この国では双子は忌むべき存在ではないでしょう?」
他国のある国では双子を忌む傾向があって、双子が生まれると片方を密かに処分したり、どこか遠くに追いやって、存在をなかったことにすると聞いたことがあった。
でもこのプレシオザ国では、双子の神が守護神として祀られていることもあって、双子は瑞兆の象徴とも呼ばれて祝福されている。幸運が二倍舞い込むと信じられているからだ。
その国で貴族の中でも高位の、しかも筆頭公爵家が我が子であるシルヴィオを自ら手放すとは考えにくかった。マリーザが怪訝に思っていると、ジオヴァナは言いにくそうに告げた。
「……ヴィオは赤子の頃に攫われたの」
「……!」
「乳母と一緒に、赤子の私達を世話していた侍女の一人が、ヴィオを連れ去ったのよ」
「その人はどうしてそんなことを?」
「その侍女は結婚して5年目で、子供が出来なかったそうなの。その事で夫や親族に責められていたと聞くわ。頼みとする夫は他の女性に夢中で妻を顧みなかった」
「そんな……! だからといって仕える主人の子を攫って良い言い訳にはならないわ」
そこまで侍女は追い詰められていたのだろうと、ジオヴァナは言った。それでも主人の子を攫うなんてあってはならないことだ。マリーザは、その名前も姿も知らない相手に苛立ちを覚えた。




