54話・だからどうした?
「殿下は、シルヴィオを庇って下さったのですよね?」
「そうは思っていても証明するには難しい。クラレンス側が、シルヴィオが失踪したと伝えてきた」
「クラレンスって暗部の? 彼はやはり間諜だったのですね?」
クラレンスと言うのは、このプレシオザ国の間諜集団の名だ。時にその集団を束ねている長が、家名として名乗る場合もある。その間諜達から訴えが出た?
「ちなみにシルヴィオは、そのクラレンスの現頭領だ」
「ええっ? つまりシルヴィオは、仲間に裏切られたと言うことですか? リーノさんはどう言っているのですか?」
「リーノから聞く限りでは、クラレンス家は一枚岩ではなくて、彼が若くして頭領になったのを快く思わない反シルヴィオ派なる者達がいるらしい」
「じゃあ、もしかしてその反シルヴィオ派が、彼をどっかに売ったとか?」
「その路線で今、彼の行方を追わせている」
「ヴィオも踏んだり蹴ったりですね。殿下の無茶ぶりに付き合わされて、妹のジオヴァナの影武者をさせられて学園に通わせられて、頭のいかれたメローネの相手をさせられたり、跡継ぎであるエスメラルダ公爵家の嫡男であるはずなのに、間諜として育てられたりして不憫過ぎる」
「おいおい、それでは僕がいかにも鬼畜みたいじゃないか?」
「全く以てその通りじゃないですか? 本来なら彼はエスメラルダ公爵になっていたかもしれないのに、殿下がジオを好きすぎて彼女と添い遂げたいから、兄である彼を公爵家から追い出して、ジオの元へ婿入りすることになったんじゃないのですか?」
「誰だ? そんな出鱈目な嘘をきみに吹き込んだのは?」
「違うんですか? 私が勝手に想像していました」
「止めろ。何でそんな解釈になった?」
殿下がムキになって食い下がってきたが、マリーザは容赦しなかった。シルヴィオが不憫に思えてならなかった。
「だってシルヴィオは公爵家の嫡男なのに、公爵家の跡継ぎからは外れて、殿下がジオの元へ婿入りすることになっていたから」
「僕達の婚約については陛下と、公爵との間で決めたことだ。その頃にはすでにシルヴィオは公爵の後継者からは外れていた。恐らく彼は、間諜の長をしているから、公爵家の跡継ぎから外れたのだと思う」
「体の良い厄介払いに見えますけど?」
「どれだけ僕は、きみの中で信用ならない男になっているんだ?」
「この世界の果てまでですかね」
「酷い。酷すぎる。僕は殿下だよ」
ふざけた殿下の態度に、マリーザとしては、だからどうしたと詰りたくなった。




