50話(閑話)・黒のサンタクロース
サンタクロースは、高笑いをその場に残して馬車を走らせた。どんどん見送るノアの姿が小さくなっていく。
トナカイの引く馬車なんて、シルヴィオは初めて乗ったので興奮した。こんな経験、後にも先にもないだろう。
御者台からは、ご機嫌なサンタの鼻歌らしきものが聞こえてくる。馬車から見える景色は、どんどん横に流れていった。これが深夜でなかったなら、なお良かったのにと思いながら、しばらく景色を堪能していたら、ビューンと何かが馬車と並行して飛んで来た。
「シルヴィオ、頭を下げるんだ!」
懐に手を入れて飛び道具を出すよりも先に、サンタクロースの声が飛んでくる。御者台のサンタクロースは鞭を勢いよく振るった。次々と後方より飛んで来た矢が鞭によって叩き落とされていく。
「しっかり捕まれ、振り落とされないようにな。スピードを上げる」
馬車は縦横無尽に駆け抜けた。シルヴィオは必死に馬車の背にしがみついた。
「ハイよ──ッ」
サンタクロースが振るう鞭が空気を裂く。ビュンビュン音を立てて走る馬車はどんどん加速する。それでも追撃の手は緩まなかった。
「しつこいのう」
サンタクロースが呆れた声を上げると、脇から黒い集団が姿を見せた。
「敵襲かっ」
「……!」
多勢に無勢。こちらの一台の馬車を、あちらは数十騎で追って来る。これ以上、撒くのは時間の問題のように思われた。全力疾走する馬車に、追っ手が後一歩と迫ろうとしていた。
そこへ数騎のサンタクロースが現れた。彼らの姿に違和感を覚える。皆、黒馬に乗り、黒い衣装を着ていた。
サンタクロースと言えば赤い服じゃないのか? と、疑問に思うシルヴィオの横を、黒いサンタクロース達が駆け抜け、追っ手に鞭を振りかざしていた。
「黒のサンタクロース?」
「彼らは悪い子にお仕置きをするサンタじゃよ」
「悪い子?」
「まあ、あいつらもかつて子供だった頃もあるじゃろうて。フォッフォッフォ」
御者台のサンタクロースは、可笑しそうに笑った。背後の追っ手は黒いサンタに鞭で打たれ、次々落馬していった。
「そろそろ国境を越える」
サンタの声に前方を見れば、遠くの山間から日が顔を見せ始めていた。




