45話(閑話)・迷子の天使さま
この回で出会った少年少女達は「近衛総隊長である夫から離婚を望まれていますが、天使のような継子と別れたくありません」に出てくるノア君とその妹のクラーラちゃんです。
ガラガラガラガラ……。
遠ざかっていく車輪を草むらの中に隠れてやり過ごし、シルヴィオは体を起こした。あれから彼は牢屋に忍び込んできた間者達に体を拘束され、彼らの用意した馬車の中に押し込まれていた。あの女は口止めの為に殺されてしまった。
これではあの女を殺して、シルヴィオが逃走したようにしか見られてないだろうと思う。仲間の裏切りが思ったよりも堪えた。
あのような状態で、自分の配下が誰も反応しなかったと言うのがおかしなことだ。予め、仲間は買収されていた、もしくは何かが起きていて、自分と切り離されたと考えた方が自然だろうか?
「それにしても、ここはどこなんだ?」
昨晩のうちに馬車に押し込められて、長時間の移動でやつらの隙をついて馬車から飛び降りたのはいいが、孤立無援の立場。その上、現在地が良く分かっていない。辺りは鬱蒼とした森が広がるだけ。
「参ったな。お手上げだ」
沈みゆく西日にため息を漏らしながら、前方に目を向ければ明かりらしきものが見えた。
「あそこまでいけば民家でもあるだろうか?」
前方の明かりに望みをかけ、シルヴィオは歩き出した。数時間後、湖のほとりにたどり着いていた。
「家なんかないか──」
明かりを目指して歩いて来たはずが、森の前が開けて広がるのは大きな湖。誰か人に出会えたらと期待しただけにがっかりした思いが強かった。
「あ──、天使さま!」
すると背後から声があがった。振り返ると6歳くらいの少女と、その兄らしき少年が立っていた。
「きみは誰?」
「私はシルヴィオ・クラレンス。プレシオザ国の者だ。ここはどこかな? 友達と旅行に来たのは良いけれど、ここの森の前で置いて行かれてしまってね、難儀している」
「森の前に置いて行かれたってどうしたの?」
シルヴィオは本当のことは言えずに、誤魔化すことにした。彼らに本当のことを言っても警戒されるだけだし、出来るなら自国にすんなり帰れる方法を使いたい。
自分よりは幾つか年下に思える少年は、胡散臭く思えたのか突っ込んで聞いてきた。
「友人と些細なことで喧嘩したんだ。そしたらおまえなんか知らない。置いていくからって言われて……」
全くの出鱈目だ。自分は置いて行かれたわけじゃないし、どこかに連れ去られようとしていたのから逃れただけ。それでも口にした内容に同情したのか、少年は言った。
「僕の家に来る?」
「良いのかい?」
「お父さまがじきに来るから、明日の朝になったらお父さまに頼んで国元に送ってもらったらいいよ」
「ここはちなみにどこの国なのかな?」
「ここはリギシア国だよ」
「リギシア……?!」
リギシア国はプレシオザ国と、ロキオン国の間にある国だ。シルヴィオを捕らえた彼らはロキオン国まで彼を運ぶ途中だったらしい。あの女が呟いたオーナーの名前は、厄介な相手だった。
「僕はノア・ガーラント。この子はクラーラ・ガーラント。お父さまはこの国の将軍をしている」
「……!」
シルヴィオは驚いた。リギシア国は諜報部隊が有名な国だ。彼らは有能でガーラント将軍の下、動いていると聞いていた。
「天使さま。手を繋いでも良い?」
兄にクラーラと紹介された少女は人懐こかった。始めは兄の後ろに隠れてシルヴィオを窺っていたが、いつの間にか側に来ていてこちらを見上げていた。
「いいよ。でも、僕は天使さまじゃ──」
「クラーラは夢見がちなんだ」
ノアが済まなそうに言う。その言葉には妹に付き合ってくれないか? と、意味が含まれているように思えた。
「分かった。いいよ」
「わあい。嬉しい」
小さな手と手を繋ぐと、キラキラとした目線が返ってきた。
「じゃあ、僕らの家にご招待するね」
シルヴィオがクラーラと手を繋ぐと、ノアが先に立って歩き出した。




