41話・夫婦とはそういうものでしょう?
「きみが無事で良かった……」
「心配してくれたの?」
「勿論だよ。きみは僕の妻になる人だから」
サロモネ男爵の言葉に、ロッサーナは頬を赤らめた。そんな彼女を愛らしく思いながらも、男爵は彼女の身に何も無くて良かったと思った。
陛下の命を受け特殊部隊が動いていたとは知らなかったが、門番からあの女がロッサーナのいる屋敷にやって来たと知らされて、気が気でなかった。
ロッサーナが害されたなら大変だと、気持ちが急いた。あの女は危険だ。生かしておいては何をしでかすか分からない。ミラジェン子爵令嬢のおかげで悪夢から目が覚めることが出来た。
「あなたを諦めないでいて良かった」
「僕も同じ思いだよ。マリーザ嬢のおかげだね」
「そうね、感謝してもしきれない」
二人はミラジェン子爵令嬢に感謝していた。彼女は二人のキューピッドだ。彼女も貴族令嬢らしくそこには、なにか彼女なりの思惑もあったかも知れないが、二人は素直に感謝の気持ちを抱いていた。
お互い諦めきっていた恋だった。それが再燃し、結ばれることになろうとはあの頃の自分達は夢にも思わなかっただろう。
──あの女との結婚が認められなくて良かった。
男爵は親戚中からあの女との結婚を認められなかった。この国の貴族法により、貴族の結婚には、保証人が3人必要となる。男爵とメローネの母親の再婚を親族の誰もが良く思わなかった。保証人になるのを皆に拒まれた為、メローネ母娘は、書類上ではただの同居人でしか無かった。
親族皆が彼女らを疑っていた。男爵は根が真面目だっただけに、あのような品のない女を、後妻として迎えようだなんてどうかしている。何かあの女に脅されてでもいるのではないか? 頭がいかれてしまったのではないかと心配していた。
皆は男爵が薬を盛られていた事には気がついてなかったようだが、彼らから見ても、常識を逸脱した女の態度は目に余っていたらしい。
ようやく薬が抜けて意識が回復した男爵は、すぐに親戚中や、迷惑をかけたセレビリダーデ侯爵家にお詫びに行き、王妃殿下の前でも謝罪した。
男爵の意識がおかしかったことはマリーザ始め、親族達が陛下の前で証言したので、意識を操られていた状態で自称サロモネ男爵夫人を止められなかったのは仕方ないとされたが、社交界を騒がせたことで所領の一部を返上することと、しばらく宮殿への出仕が停止となっていた。
これであの女とも縁が切れる。陛下の手の者に拘束されたと言うことは、今頃、学園にいる彼女の娘にも手が伸びていることだろう。あの母娘は、サロモネ男爵とは何の縁もないことが陛下の前で証明されているので、自らが犯した罪で裁かれる事になるだろう。
サロモネ男爵が険しい顔をすると、その手をロッサーナが握ってきた。
「一人で何でも抱え込もうとしないで。これからはわたくしがいます」
「すまないな。面倒をかける」
「夫婦とはそういうものでしょう?」
ロッサーナに微笑まれて、男爵は心強く感じた。男爵の意識がまともに戻ったのは、ロッサーナの協力もあった。薬が切れて一時、離脱症状に苦しんだが、その時は彼女が側にいてくれて励まし続けてくれた。一人ではとても乗り越えられそうになく感じたが、彼女がいてくれるだけで気が楽になった。
ロッサーナを紹介してくれたのは、ミラジェン子爵令嬢だが、あの女の洗脳から解いてくれたのはロッサーナだ。彼女がいなかったなら今頃、どうしていただろうと考えるとゾッとする。
「きみは僕の命を救ってくれた。ありがとう」
「これからもずっと一緒にいてくれますか?」
「勿論だよ。こちらこそ宜しく。奥さん」
サロモネ男爵は、心から愛する人を手に入れることが出来て心の底から晴れやかな笑みを浮かべた。




