40話・黙れ! 淫売
「あなたは酒場で働いていたそうですね? 綺麗な顔立ちをしているし、かなりの人気者だったのでしょうね?」
「分かる? あそこのお店では一番の稼ぎ頭だったのよ。でもあそこにいつまでも居続けるわけにもいかなかったから、男爵夫人になれて良かったと思うわ」
「あなたはサロモネ男爵さまのことを愛しているの?」
「当然じゃない。男爵と言えばお貴族さまだし、あたしのような平民から見ればお金はいっぱいあるし、生活には困らないしね。最近、屋敷には帰ってこないのが気になるけどあとは大した問題ではないわ」
「あなたがいた酒場の店主は、この国の人ではなかったらしいわね?」
「そうよ。隣国の人。それが何か?」
外国人でもこの国では店を持てるはずでしょう。そこに何の問題があるの?と、女は言った。
「この国では許されていない麻薬を隠れて販売し、取り扱っていたのをあなたは知っていましたの?」
「麻薬? ああ、気持ちよくなる薬でしょう? お店では気分良くなりたいときにお酒に入れたり、快感を得るために使っていたけど、あれって使っちゃいけない物なの? 知らなかったわ」
「知らなかったではすまされないでしょうね」
「そんなこと言われても、いまあたしは男爵夫人。あのお店とは何の関係もないわ」
「果たしてそうでしょうか?」
「何を言いたいわけ?」
そこへドアが荒々しく開き、エスメラルダ公爵令嬢によく似た男性が、兵らしき者達を数名伴って入ってきた。
「話は聞かせてもらった。自称サロモネ男爵夫人。拘束させてもらうぞ」
「自称? 違うわよ。あたしはサロモネ男爵夫人よっ。こんなことして只じゃすまないわよ」
2名の兵に両脇を拘束され大声で喚く女の脇を、大股で通り過ぎた者がいた。
「ロッサーナッ」
「あなた……!」
その二人を見て女は目を剥いた。拘束される自分の脇を通り過ぎていったのがサロモネ男爵で、ロッサーナを抱きしめているからだ。
「ちょっと、あんた、何しているの? あたしと言うものがありながら浮気していたの?」
「黙れ。淫売」
「……あんた?」
罵る女に返ってきたのは、夫と思っていた男からの冷たい目線だった。
「良くも今まで薬で洗脳してくれていたな。どことなりと消え失せろ。おまえの顔など見たくもない」
「そんな、あたしはあんたの妻なのに……!」
「僕にとってはただの同居人だ。おまえが僕に薬を盛っていた間のことは、頭に靄のようなものがかかった状態で、正常に頭が働いていなかった。ミラジェン子爵令嬢のおかげで解毒できて良かった。そうでなければ今も常習していて、廃人になりかけただろうな」
「あいつのせいなの? だからあんた、あたしの言うこと聞かなくなったんだ」
「やはりおまえが薬を盛っていたのか?」
「あれはあたしを幸福に導く薬なの。あれさえあれば男達はあたしの言うことを何でも聞いてくれる」
「おまえはとんでもないことをしでかした。自分で犯した罪を娘共々、償って来るんだな」
「……!」
てっきり庇ってくれるものだと思っていたサロモネ男爵から否定され、女は青ざめた。その女に慈悲もなく兵を指揮している銀髪の男が命じた。
「連行しろ!」
「うそ。こんなはずじゃない……」
兵は意気消沈した女を、遠慮なく強引に引きずるようにして退出していった。後にはサロモネ男爵とその正式な夫人となる予定のロッサーナだけが残された。




