4話・ピンク頭よりは子リスの方が可愛い
半年前の入学式当日。入学生代表の挨拶の練習をしていたマリーザは、たまたま二人が入れ替わる場面を目撃してしまった。その秘密を知った事からシルヴィオには警戒され、その妹とは親友になった。ジオヴァナは綺麗でとても優しい子だ。高位貴族令嬢だからといって、偉ぶることもない。
マリーザは自分の見た目に自信が無い。今までメローネや、その取り巻き達から、黒髪に焦げ茶色の瞳を「地味だ」と、馬鹿にされてきたからだ。ところがジオヴァナは、「マリーザさまは、なんて可愛いの。私の大好きな子リスみたい。お友達になってくれる?」と、初対面の時から好意を持ってくれた。
シルヴィオは、マリーザが妹のジオヴァナの関心を引いたのが面白くなかったようで、時々、こうしてからかってくる。
ジオヴァナの姿をしたシルヴィオの言うあの子とは、この場にいない「ジオヴァナ」のことだ。彼女のお茶会はきっと、許婚のサンドリーノ殿下とのものだろう。以前、エスメラルダ公爵家のお屋敷に紹かれた時に、サンドリーノ殿下と引き合わされたことがあった。金髪に新緑色の瞳をした殿下と、ジオヴァナは美男美女の二人でよくお似合いだった。
席に着いてその二人を思い浮かべていると、額を指で弾かれる。ジオヴァナの席はマリーザの目の前。振り返った彼女と同じ顔が、にやりと笑った。
「痛い、なに?」
「何をふて腐れているの? 食べ物の事でも考えていた?」
「そんなはずないじゃない。もう何なの?」
シルヴィオは抜かりない。ジオヴァナの声音で話しかけてくる。額を手で撫でていると「ごめん、ごめん」と、笑いを抑えたような声が返ってきた。もう跡が残ったらどうしてくれるのやら。
しかし見れば見るほど、ジオヴァナに良く似ている。ここの学園の制服がハイネックのものなので、彼の喉仏も隠れているが、それを抜きにしても彼女の声音で話しかけられていると、彼がシルヴィオだと言うことを忘れそうだ。そのシルヴィオが、ジオヴァナの声音で聞いてきた。
「そう言えば、あのメローネが言っていた、お助けキャラってどういう意味? 何だかマリーが自分の宿題をやって、当然な言い方をしていたけど?」
「良く分からない。私にも意味不明よ。領地にいたときから、あの子、あんな感じなの。空想癖が強いんだと思うわ」
「空想癖ね」
「だって妄想が凄かったから。男の子達はそれに騙されていたけどね。ヴィオ(あなた)も騙されないと良いけど」
「ヴィオ(自分)なら大丈夫。見る目があるから」
「そう?」
「現実が見えてないピンク頭よりは、子リスの方が絶対、可愛いと思っていると思うわ」
ヴィオとはシルヴィオの愛称だ。クラスメイト達はそれぞれ集まって話に夢中で、こちらには注目していない。それでも二人の入れ替わりのことを気付かれては困るので、誰に聞かれても言いように、他の人のことのように話していた。
そのシルヴィオから、不意打ちのようにメローネよりもマリーザの方が好ましいと言われて、気恥ずかしく思った。




