39話・サロモネ男爵の事情
「あの方は、口数は少ないですがしっかりした御方ですわよ」
「そうね。あの人はむっつりスケベだけどね。でも最近はご無沙汰かなぁ」
ロッサーナの言葉に、女は何やら思い出すように言った。
「あら。ごめんなさい。あんたのようなお堅い人には無縁の話だったわよね? 経験なさそうだものね」
その言葉で、女が何を言いたいのか察したロッサーナは羞恥と言う言葉さえ、この女は知らなさそうで吐き気がした。彼はロッサーナと、再会した時に言っていた。
自分は判断を間違えてしまった。自分が選ぶべき人は誰なのかいま分かったと。
その言葉には思わず涙が出た。あれから何年経とうとロッサーナは、彼を忘れられなかった。何かの折りにふと、彼と過ごした学園での日々を思い出し、辛い日々を乗り越えてきた。
幼い妹を抱えて結婚なんてしている場合ではない、妹を成人させるまでは……と、自分のことは二の次で良いなどと言い訳をしながらも、心の中にいる彼以外の人と結ばれる幸せなんて考えてなかった。
だから結婚とは疎遠のまま独身で一生を終えるのだろうと決めつけていた。それなのに神さまは見捨てなかったのだ。
遠回りしたけど、きみのことを僕も忘れられなかったと告白されては、平静でいられなくて泣いてしまった。貴族令嬢の家庭教師としては失敗したのかも知れない。異性の前で感情を晒すなんて。
でも、そのおかげで二人の仲は深まったし、後日、サロモネ男爵やマリーザから真相を聞かされて、男爵から正式なプロポーズを受けることになった。
サロモネ男爵はある薬を盛られていて一時、正常な判断が出来なくなっていた時期があるのだと告白した。それを聞いた時は耳を疑ったが、その事はマリーザも証明してくれた。
男爵は過去自分の身に起きたことをロッサーナに語った。彼は前妻に嫌われていた。前妻は結婚してからも学園時代に懇意にしていた彼と別れる様子はなく、男爵に隠すことなく堂々と逢瀬を繰り返していた。相手の男にも妻がおり、赤子も生まれていた。
そんなある日、妻は情事の最中に相手の男の妻にナイフで刺され、男共々即死した。男の妻は殺人容疑で捕縛され、このことを公にしたくなかった男の実家と、サロモネ男爵は、病死した事で隠し通した。
妻が寝取られた頃から、世の中の何もかもが嫌になり、自虐するように酒場へ通うようになった。自分の領地では目に付くと思い、隣の領地の酒場を選んだことであの女に出会ってしまったと男爵は項垂れた。
そこで飲んだお酒に麻薬が盛られていて意識が朦朧としている間に、女と愛人関係になり、女とその娘を屋敷に連れ込んでいた。男爵が薬を盛られていると気がついたのはマリーザで、女に操られていた男爵は、女に促されて女の娘と仲よくして欲しいとマリーザに頼みに行った。そこで男爵の発言がおかしかったことから薬でも盛られているのでは? と、疑ったマリーザが、自分の屋敷で働いている侍女を男爵家の使用人として送り込んで事情が分かったという話だった。




