36話・郊外のお屋敷の女主人
「ちょっと、出しなさいよ! うちの人がここにいるのは分かっているのよ」
「困ります。あなたさまはどちらさまですか?」
それから数時間後。郊外のお屋敷前で髪振り乱して喚く中年女性を前にして門番は困り果てていた。ここに押しかけてきた中年女性は、この屋敷を管理しているサロモネ男爵の妻を名乗り、この屋敷に住む女狐を出せと喚く。
門番を始め、この屋敷に仕える者達は、この屋敷に住むことになった女性との面接で採用が決まった者達だ。雇用主からは、その女性はいずれサロモネ男爵の元へ嫁ぐと聞かされていた。
「出しなさいよ! 気が利かないわね」
「どうしたの?」
「ロッサーナさま」
そこに姿を見せたのは、一人の中年女性で淡い栗毛にココナッツブラウン色の瞳で、顔立ちの整った女性だった。門番やここのお屋敷の使用人達が仕えている御方だ。見た目は三十代半ばくらい。門扉の向こう側で喚いている女性とは、同じ世代のように思われた。
でも二人は対照的だった。喚く女性は桃色の髪に空色の瞳をしていたが、派手なメイクで着ているドレスは赤色。胸元が強調されていて娼婦にしか思えない。
それに対し、ロッサーナは以前、ガヴァネスをしていたとかで所作は上品で、若草色のドレスにレースで首元まで隠れた洗練されたドレスを身に纏っていた。
どこをどう見ても傍から見れば男爵夫人とは、当家の女主人のような人の事を言うのではと門番は思った。この女主人の手を煩わせることなく、早急に自称サロモネ男爵夫人を追い返そうとしていたのに、運悪く女主人に見つかってしまったようだ。
ロクサーナは門扉に手をかけた。それを見て門番は慌てた。
「奥さま。危険です」
お下がり下さいと言いかけた門番を、ロッサーナは止めた。
「いいのよ。ここで騒がれていても近所迷惑になるわ。こちらの御方を中にお通しして」
「宜しいのですか?」
「構わないわ。いずれこちらのご夫人とは話をしなくてはならないと思っていたの」
「あんたがうちの人を誘惑したのね?」
「その事も含め、中でお話し致しましょう。どうぞお入り下さい」
門扉越しに睨み付けてくる女を軽くいなし、ロッサーナは門を開くと屋敷の中へと案内した。




