34話・縁切りなんて聞いてない
「殿下は第3王子ですよ。婿入り先としてエスメラルダ公爵家が選ばれたのです。許婚がいるのにメローネと結ばれることになったなら、殿下の不貞を批難され公爵家に多額の慰謝料を払うことになるでしょう。当然、不貞相手の男爵家にも慰謝料は請求されます。これは王家と公爵家との間で取り結ばれた婚約なので、そこに横槍を入れた男爵家は、公爵家や陛下から睨まれることになるでしょうね。もしもそうなったのなら誰もあなた方を庇う者はいなくなりますよ。最悪、メローネのした責任を問われて、男爵家はお取り潰しになるでしょうし、殿下がサロモネ男爵家に婿入りすることになったとしても不幸でしかないでしょうね。貴族達が一番、嫌がることというのは何かお分かりですか? サロモネ男爵夫人?」
「そんなの知るわけ無いわ」
「では覚えておいた方が身の為ですよ。今後のためにも」
「あんた、わたしを馬鹿にしているの? これだからお貴族さまって嫌いなのよ」
「それぐらい強気でいられるのなら安心ですわね。だから今まで、生き残ってこられたのかも知れませんわね」
マリーザは変な意味で、メローネの母親に感心した。愚鈍だったからこそ気にしなかったのかもしれない。そうでなければ心を病んでいたかも知れないし、人知れず始末されていてもおかしくはない。
「我々、貴族は血統が第一なのです。先祖代々、脈々と繋いできた特権階級の家系に、平民の血が混ざることを良しとしません」
「そんなこと言ったらあんたんとこだって、何代か前の婆さんが没落令嬢で、平民で金持ちの爺さんがそこに婿入りした家でしょう? あんたにだって平民の血は流れているじゃない?」
サロモネ男爵夫人は、マリーザを馬鹿にしたような目で見た。ジオヴァナが夫人の態度を見かねて口を挟んだ。
「マリーザは生粋の貴族よ。一滴も平民の血は流れていないわ」
「そんなはずないわよ。あたし聞いたわよ。確かマリーザの曾祖父が、没落貴族の令嬢を妻に迎えて大商人から貴族に成り上がったって」
「マリーの曾祖父は平民ではありませんから」
「……?!」
ジオヴァナから否定されて夫人はどういうことかと目を剥く。マリーザはそれに答えようとせずに夫人に聞いた。
「まあ、私の事はさておいて、取りあえずお伺いしたいのは、サロモネ男爵さまとあなたさまとの婚儀で、男爵家の親戚の方々は出席されていましたか?」
「そんなの断るに決まっているでしょう。堅苦しいのは苦手だし、あの人が家族のみであげようと言うからメローネと三人で教会に行って式だけあげたわ」
「男爵さまはお優しいのですね? あなたさまが傷つかれないように、親戚の方々からは縁を切られたことを黙っておられただなんて」
「縁切りなんて聞いてないわよ。失礼な事言わないで」
「そうですか? 私の聞き間違いでしょうか? 私も最近知ったばかりだったのですが、サロモネ男爵さまは社交界で下手を打ったと評判らしいですわ。体よく別れるはずだった愛人に、結婚を迫られて手が切れなかったばかりか、親戚に先に縁を切られたと。それで皆さまから失笑を買っていらっしゃると」
「嘘よ。そんなこと聞いたこともない」




