32話・dear・R
マリーザは頭が痛くなってきた。リンさんからは聞いていたが、メローネの母親には常識が通じなさそうだ。あのリンさんの娘さんとはとても思えない。リンさんに同情したくなる。そこへ今まで黙っていた優男が声を上げた。
「サロモネ男爵夫人。お久しぶりですね」
「あんたは……!」
「宝石商のカッソでございます。この間はご来店頂きありがとうございました」
「何のお話かしら?」
優男は宝石商のカッソだった。シルヴィオは例の指輪を調べていて、サロモネ男爵夫人が接触したことを突き止めていた。そのカッソをシルヴィオは連れてきていた。
カッソから声をかけられて、サロモネ男爵夫人は顔色を変えた。
「お忘れでしょうか? 私は一度見た美人は忘れない主義なのですが?」
「何のことやらさっぱり分かりませんわ」
カッソは愛想笑いを浮かべていた。サロモネ男爵夫人はメローネに良く似ている。ピンクの髪に空色の瞳の持ち主なんてそういないから、バレてないと思うのは無理があると思うが。
惚けるサロモネ男爵夫人に、カッソはイニシャルを呟いた。
「dear・R」
「……!」
「はした金で彫れと命じられたのには驚きましたよ。私にはお得意様に王族の方や、高位貴族の方々がおられますが皆さま善良な方々ばかりなので、一見さまでいきなりそのような事を、しかも低位貴族の御方から偉そうにもの申されるとは思いませんでした」
カッソはにやりと笑った。サロモネ男爵夫人は自分の指にはまっている薔薇の指輪を、嵌めてない方の手で隠そうとする。
「あんたっ。商人のくせにあたしに逆らう気?」
「見苦しいですよ。サロモネ男爵夫人。それにカッソさまにたいして失礼です。あなたさまは何か勘違いしておられるわ」
「あんたも商人あがりの貴族のくせに偉そうなこと言わないで頂戴」
「なるほど。メローネがあんな風になってしまったのは母親であるあなたの影響が大きかったのですね?」
マリーザが納得すると、忌々しそうにサロモネ男爵夫人が睨み付けてきた。
「カッソさま、申し訳ありません。あなたさまの店のツケで買い物をしていたメローネの分は、私の方からサロモネ男爵には報告させて頂いているので、近々お支払いされると思いますわ」
「ツケで買い物? マリーザ、あんたが払っておいてくれたんじゃないの?」
「なぜ私が払わないといけないのですか? カッソさまから我が家に来ていた請求書の数々は、私の買った覚えの無いものばかりでしたから、確認を取らせて頂いて全てサロモネ男爵さまの元へ送らせて頂きました」
ニコラスはさすがにツケで買い物をすることはなかったが、自分のお小遣い内で彼女に贈った髪飾りや、ブローチでは彼女の気を惹かなかったらしい。物欲の固まりであるメローネはその後、一人で来店してニコラスと来た時に目を付けておいた商品を、マリーザにツケでおいてくれと言って購入していたらしい。店員は不審に思ってカッソに報告したので、すぐにマリーザのもとへ連絡が来ていた。




