29話・王妃さまに告げ口したの?
「マリー。話がある」
「珍しいこともあるものですね? 学園での接触を避けてきたあなたが私に何の用ですか?」
シルヴィオに、指輪の件を託してから一ヶ月ほどが過ぎようとしていた。校門前で馬車を降りたマリーザは、遠目に人待ちをしているらしいニコラスが見えて、迂回して教室へ向かおうとしたのに見つかってしまった。
ニコラスにいきなり腕を掴まれて、それを強く振り払うと彼は傷ついたような顔をした。その横にはメローネがいた。
「マリーちゃん、冷たいわ。ニコラスはね、ずっとあなたを待っていたと言うのに」
「メローネ。悪いが少し黙っていてくれないか?」
横から口を挟んできたメローネに注意すると、ニコラスはマリーザと向き合った。メローネは不服そうに口を噤む。今までにない彼の態度にマリーザは何があったのだろう? と、思いつつも、彼の目的は分かっているのであしらうことにした。
彼としては王妃さまにお膳立てされたとはいえ、父親も望んでいた婚約を、自らの行動で潰した形となり大目玉を食らったのだろう。無駄にプライド高い彼の事だ。その鬱憤を晴らしに来たのかも知れなかった。
マリーザは眉根を寄せた。
「セレビリダーデ侯爵子息さま。あなたさまのご希望通りに、私達の婚約は解消されましたので、私を愛称で呼ぶのは止めて頂けますか? あなたとはもはや何の係わりもないので」
「僕はきみと別れる気なんてなかった」
一線を引いたようなマリーザの態度に、ニコラスは戸惑いを見せた。思ってもみない言葉が返って来たが、もともと彼に対し、良い印象を抱いてなかったマリーザは今更何だと言いたかった。
「あなたさまがどう思おうと、もう決まったことです。王妃さまは嘆かれていましたよ。あなたさまが私に対してやらかした数々のことを聞いて」
「……!」
「あなたさまがこの婚約を良く思ってなかったこともお話いたしました。その為、王妃さまからは謝罪を受けております」
「王妃さまが……!」
「マリーちゃん、酷い。王妃さまに告げ口したの? まるでニコラスが悪い事をしたみたいになっているじゃない」
愕然とするニコラスの横で、メローネが批難してきた。おまえが言うなと言いたい。でもそれをぐっとマリーザは飲み込んだ。
「実際に悪いことをしたのだから当然でしょう? サロモネ男爵令嬢。あなたがもともとの発端じゃない。あなたの元へもお咎めがあると思うわよ」
「どうしてわたしが? 何もしていないのに?」
「私達、貴族の婚約はお互いの家長が取り結んだ決まり事で、最終的に陛下の承認でもって決定的となる。それが破談となった場合には、賠償金や慰謝料が発生するわ」「それって大袈裟に言っているだけでしょう?」
メローネはマリーザの発言に納得がいかないようで、隣に立つニコラスを仰ぎ見る。彼は青ざめ、メローネを見ることもなかった。




