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第7.5話 歩み出し ミアベラ視点

ミアベラ視点です。

 領主様交代後の3年前の11月、私が12歳のとき、通行税が大きく引き上げられた。

 町の外に魔物の数が増えていて危険だから人の行き来を少なくさせる目的と、領内を活性化させる目的があるって発表があった。


 だけど先代の領主様が力を入れていた、孤児院から始まり発明家や研究者、芸術家への支援の減額や打ち切りはどういうことなんだろう。

 領内の活性化に大事な感じがする。

 う~ん、2年経った今もよくわかんない。



 お家はというと、予約のキャンセルが殺到して、アークイラ亭に入る人はどんどん少なくなった。

 すごく不安だったのを覚えてる。


 間もなくフレッドがやってきて、衛兵さんたちが来てくれるようになった。


 でも慣れちゃったのかな。

 それから長く続いているからいつしか大丈夫なんだと思い違いをしていた。



 今年は、収穫祭の前に関税があがるとか、今までのとは別に河を渡るときに通行税が発生するようになるとか、噂が立ってる。


 ちょうどその噂が立ち始めたとき、お父さんは料理人の道に進んだ友人から声をかけられた。


「うちで働かないか」


 お父さんは少し時間を空ける。


「店じまいしたら」


 それだけ言った。

 お父さんは、もともと結婚前は宿屋を継ぐ気はなくて、料理人になるつもりだったんだって。



 その後、お母さんがお父さんと話していた。


「関税が上がるだけでも、商品の売れ行きが悪くなるわ。

 さらに河川通行税ができてしまったら商会の方も私の両親も

 来ないかもしれないわね。噂で終わればいいけれど。

 店舗税はどうしようかしらね……」


 店舗税は、商いをしている中で、市場に出ていないお店に発生する税金のこと。

 他の所だと市場に出店していても取られることがあるみたい。


 今は後払いで1年分を払っているってお母さんが言ってた。


 お父さんも私も、数字に強くない。

 計算はできても仕入値や利益の話になるともう、ちんぷんかんぷん。

 それでもわかった。これは後がないって。



 それなのに、どうしたらいいのかわからない私は足を踏み出せずにいた。



 そんなとき、ヴィーちゃんはやってきた。


 顔は髪でほとんど隠れていて体は土で汚れていた。

 一目見たときは、決して綺麗ではなかったけど、独特な雰囲気があったんだよね。

 綺麗になった後のごはんの最中、私は手伝いたくなってウズウズするのをぐっとこらえて、一生懸命食べているのを見守ってた。

 お父さんもお母さんも、気になって見に来てた。

 そのくらいはどこか惹きつけられるような感じだった。


 私がたくさん話しかけるから戸惑ってたヴィーちゃんだけど、すぐにお話してくれるようになった。

 小さいときの私はよく「聞いて聞いて!」っておしゃべりしてたし、お客さんたちにもお話をせがんでた。


 ヴィーちゃんと私は全然違うなって比べていたら、ヴィーちゃんが来てもなお、静かなこのお家にやっぱり寂しくなる。



 雨だからお家の中をお散歩していたとき、ヴィーちゃんは話の切れ目で、何かに気づいたのか通り過ぎた階段をパッと見た。


「ヴィーちゃん、どうしたの?」

「いえ、何でもありません。それよりも……」


 ヴィーちゃんはよく見てて、人が何を感じているかに鋭かった。

 私を見上げて、ヴィーちゃんは言った。


「おねえさま、なんだかうかない顔です」

「え、そんな顔してたかな!?」


 全然そんな顔をしていたつもりがなくて、ビックリした。


「悲しいことがあったのですか?」

「ううん! なんにもなかったよ、なんにも!」


 悲しいこと、ここ最近はないかなあ……と漠然と思った。

 でもヴィーちゃんは、尋ねてはいけないことなのかなという顔をする。


 きっと偶然だけど、ヴィーちゃんはふと周りを見回して、私もそれに自然とつられた。

 部屋番号が振られた扉が連なった、ガランとした廊下が、ここにある。


「あ……」


 声がもれて足が止まって、雨の音が大きくなったみたいに聞こえる。


「ねえ、ヴィーちゃん」

「はい」


 ヴィーちゃんは、お母さんの真似か優しく微笑んで、でも少しだけ緊張した声で返事をする。


「毎日、静かなのと、廊下を通るだけでも笑い声がいっぱいなの、

 ヴィーちゃんはどっちが好き?」

「静けさを素敵に感じる場面であれば静かな時間も好きですけど、

 笑い声で溢れている方が好きです」


 ヴィーちゃんもそうなんだ。

 見せてあげたかったな、と頭に浮かべたときにすかさず明るくヴィーちゃんは口を開いた。


「活気というのは、前に進もうとする人がいなければ生まれませんから」


 あぁ……ヴィーちゃんが見たいのは、ただ賑やかな場面じゃないんだ。

 そうだよね、私が幼いときも言葉にはできなかったけど、そういう活き活きした人でいっぱいなのが大好きだった。


「それに、笑いが溢れるほどある場所は、何よりお金回りがいいですから!

 皆さまのお財布の紐が緩みます! 素晴らしいですね!」


 清々しい笑顔に、つい吹き出しちゃった。

 お祭りとかはそうだよね。


「もう、ヴィーちゃんったら、途中まですっごくいいこと言ってたのに、

 最後でドーンって落とすなんて……!」


 ヴィーちゃんは不思議そうな顔をしてから、いつもの表情に戻る。


「ただ思ったことを言っただけですので、

 むしろ言葉の中にいいことが混ざっていたことに驚きです」


 そっか。全部思ったことなんだよね。


 まずは何でもいいから動いてみよう。

 私が前に進んで賑わいが戻ってくるほど甘くはないかもだけど、それでも。

 私はヴィーちゃんのお姉ちゃんだもん、見せてあげなきゃ。


 足を前に出して、あとからどこに向かうか悩んでもいいよね。


「ヴィーちゃん! ありがと、元気出てきた!」

「なんだかよくわかりませんけど、光栄です」


 ヴィーちゃんはニコニコとかわいい笑顔になってくれた。



 どうしていいかわからないなら、わからないなりに何か考えてみなくちゃ。

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