第33話 大事な人たちだから
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ヴィートが悪夢を見て叫んだ次の朝、俺は支度を済ませた状態で、部屋を出る前にヴィートに提案した。
「あのさ、『俺がヴィーの面倒を見る代わりに、ヴィーは人を騙してご飯とかお金とかをもらわない』っていう約束、変えないか?」
「どうしてですか?」
「今は交換条件みたいになってて、それをやめたいんだ。 相手に何かしてもらえなくなると困るから仕方なくやる、みたいになるだろ?」
ヴィートは、さも当然そうな顔で頷く。
「そうだよな……。でも、この約束は、仕方なく守るよりも、もっと自主的に守る気持ちでいてほしいんだ。
俺は、ヴィーが悪いことに巻き込まれてほしくなくて、悪いこととかそれに繋がりそうなことをしないでほしいと思ってる。
嘘つきは泥棒の始まりって言葉もあるくらいだ。ちょっとくらいいいだろうっていうのは最初は良くてもエスカレートしていって危ない。
だから、交換条件みたいな形式じゃなくて、ヴィーは『人を騙してご飯とかお金とかをもらわない』、俺は『ヴィーの面倒を見る』の、2つに分けたいんだ。
あ、もちろん、俺がこの約束を破ることはないから、安心してくれ」
「言いたいことはわかりました。
もしわたしがこの決めごとを破ったらどうするのですか?」
「叱る。
ヴィーが破ったときは、ヴィーがどんなことをしたのか、何が悪かったのか、悪いことをしてほしくない理由を、わかってくれるまで説明するから」
「……それは長くかかりそうですね」
ヴィートが引き気味の声で言うので、俺は焦った。
「もしかして、これ、面倒臭い説教だったりするか……?」
「さあ?
遠回しな文句でも怒られるでもなく、わたしをおもんばかったお説教など受けたことがないのでよく知りません」
「そ、そうか……」
ツッコミづらいことを聞いてしまった。
「ですけど……わかりました。それでいいですよ」
「え、それでいいのか!?」
「わたしには内容はあまり重要ではないので……」
「いや、重要だろ。話をしても聞いてくれないなら意味ないぞ」
「してくれるお話は最後まで聞きます。
叱られるという内容だとしても、わたしのために割いてもらう時間を無下にはしません。
愛してくれても守ってくれても側にいてくれないということもあります。ですからそういう時間は貴重なものです」
そう言って、ヴィートは思いの外あっさりと承諾してくれた。
***
1階に降りて朝ごはんを食べた後、ヴィートはおもむろに立ち上がり、サムエレさんとオリアーナさんの近くに行った。
「おとうさま、おかあさま」
「ヴィート君、なあに?」
オリアーナさんが優しく聞くと、ヴィートは言い出しづらそうにしてから口を開いた。
「……謝りたいことがあります。
わたしがこのお家に来た日のことです。
おとうさまとおかあさまがわたしを養子にしてくれるという話をおにいさまから聞いたとき、失礼にも、しめたと思っていました。
ご飯も安全な寝場所も、新しく身分まで提供してくれると言うのですから。
それからもしばらくは、もしまた状況が変わってご飯も水ももらえなくなったら、何もかも捨てて出ていけばいいと思っていました」
サムエレさんが珍しく険しい表情をした。それを見て、ヴィートは目を伏せた。
「おとうさまもおかあさまもそういったことなどするつもりはなく、その上、お家のお金事情を考えればわたしを受け入れることには覚悟が必要だったでしょう。
それなのにわたしは感謝するどころか自分に得がなくなったら出ていこうという気持ちしかありませんでした。
利用することばかり考えていて、本当に申しわけありません」
オリアーナさんはヴィートに言う。
「私達は、ヴィート君が生きるために必死だったことも、家族というものへの印象も少しはわかっているもの。
ヴィート君がどんな風に考えていても受け入れるつもりだったのよ。だから安心して」
オリアーナさんは、次にサムエレさんに向けて言う。
「ほら貴方……怖い顔しないのよ。気持ちはわかるけれど、ヴィート君が怖がってしまうわ」
サムエレさんは、オリアーナさんの言葉を受けて表情を緩めた。
緩めたと言っても無表情に戻った、という感じだ。
サムエレさんはボソリと呟くような声量で、しかしはっきりと口を動かした。
「元の家でのヴィートの扱いが許せない」
ヴィートは顔を上げた。驚いたのか、目が何回か瞬いた。
そんなヴィートに、オリアーナさんはしゃがんで目線を合わせて聞く。
「ヴィート君、今はどう思っているの?」
「ご飯も寝床も身分も、わたしをわたしとして見てくれる人たちも、手放したくありません。
まだ利用したいという気持ちもあります。それに抗うのもまだ難しいです。
ですけど、それ以上に他の誰かに利用されてほしくないと思っています。利用しようとすることにおいてわたしと他の誰かが似たもの同士であっても、わたしが相手を虫けらのように叩き落として見せます」
虫けらって……。
ヴィートの言葉選びが、たまにどこぞの敵役みたいになるのは、なんとかならないだろうか……。
「ヴィート君。前はどう思っていて、今はどういう風に思っているのかを話してくれてありがとう。
ヴィート君がここにいたいと思ってくれたことも、大事に思ってくれたことも、守りたいと思ってくれたことも、私達は嬉しいわ。ね、貴方」
オリアーナさんの言葉に、サムエレさんは頷く。
ヴィートは、不思議そうに質問する。
「どうしてわたしの気持ちを話したら、嬉しいのですか?」
「自分の気持ちを話すのって、ヴィート君にとってはきっと緊張して、勇気が必要なことよね。だから、その勇気を出して話してくれたことが嬉しいのよ」
ヴィートはモジモジと小さく身体を動かしてから、ニコッと笑って頷いた。耳は熱されたみたいに赤い。
***
数日後、ペルリタさんたちのその後を聞く機会があった。
ペルリタさんとルチアちゃんと、友人のノーラさんの3人でアークイラ亭へやって来て、アクセサリーの件がどうなったのか話してくれた。
ペルリタさんとチェルソーさんは、ノーラさんと協力してアクセサリーを作っているらしい。
というのも、子ども向けのアクセサリー作りにあたって素材の見直しをした結果、布地も視野に入れたからだ。もともと女性は髪を括るために紐を使っているため、子どもに着けてあげるにも心理的抵抗が少なくなるのではないか、という予想だ。
ノーラさんは服のデザインができ、それを活かして、布地を使った装飾作りに協力している。
ノーラさんは貸衣装屋なので、収穫祭の時期に子供が仮装するための衣装として貸し出すアクセサリーにしようと判断したとか。
そのため、収穫祭の時期までアクセサリーの準備をして、周知を兼ねて収穫祭で試験的に使ってもらい、好評であれば売り出す、と教えてくれた。
もちろん布地だけではなく、金属や宝石も使った物も用意するようだ。
うまくいったら、アクセサリーを身に着ける人も増えていくだろう。
街ゆく人々がアクセサリーを着けて歩くような日が来る、か。
新しい風の予感がする。
口を動かしながら小説を書けるようにならないかなとずっと思っていたのでやってみました。
理想は、口では大熱唱、手では物語の清書、です。
現実は、歌に置いていかれる口、画面には支離滅裂な文字の羅列……。
思ったよりできないことがわかりました。
皆さんも試してみてくださいね(?)




