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第29話 印刷

皆様お元気でしょうか?

作者は熱が出ました。皆様は健康にお気を付けください。

本日もよろしくお願いします!

 木の版の製作は、過去に仕事で色々と彫ったことがあるのでできた。

 素材の違いや彫り方の違いはあったものの、応用がきく範囲内だった。


 しかし、この先の作業の印刷は、俺が今までやったこととはかすっていない。

 木版印刷をするにあたって必要な物や工程がわからないのだ。


「そういうわけで、今日は別の場所に移動するぞ。

 現地にマテオがいて、教えてくれる。

 1時間くらいしたら出るから、今のうちに着替えておこうか」


 少し不服そうな顔でヴィートは言う。


「知らない人がいるならもっと早く言ってほしかったです」

「ごめん。伝えようと思ったときにヴィーが寝てて、そのまま話し忘れた……。

 それと、ヴィートが覚えてないだけで、知らない人ってわけじゃないからな?」


 ヴィートの着替えを手伝って……と。



 着替えが終わったので次は、ヴィートが分けていた、きれいな状態の羊皮紙の端切れをなるべく丁寧に箱にしまう。

 ヴィートも手伝ってくれた。


 詰めたのは、綺麗な状態の羊皮紙の端切れの、さらに半分。全体の4分の1くらいだ。

 最初なので、まずはこれくらいにするという話になっている。


 これで羊皮紙の端切れは持っていけるな。

 あと必要なものは……。


 ヴィートが机へ向かい、椅子に乗って、何かを取って戻ってきた。


「おにいさま、彫った板たちです」

「あ。ヴィー、ありがとう」

「……はい。机の上に置いたままで気になりました」


 昨日彫った板を3枚とも荷物に入れた。

 これがないと何もできないので忘れるわけにはいかない。



 時間が迫ってきたので、帽子を被ったヴィートと1階に降りる。

 ミアベラがもう出るだけの状態で待っていた。


「フレッド、ヴィーちゃん! 行こう?」

「ああ」

「はい」


 ヴィートはミアベラに駆け寄ってスカートの裾を掴み、こちらに向けて頷いて見せた。


 もしかしなくても迷子対策だ。主にミアベラの。




 フリッジ印刷所という建物に着いたら、女の人が建物の奥の方にある部屋まで案内してくれた。


 部屋の前の廊下には、はねあげ式の乾燥棚が数多くあり、建物の端まで並んでいるようだ。

 棚の下は滑車がついていて動かせるようになっている。


 案内してくれた、オレンジ色の髪をした女の人が、部屋のドアを手で軽く叩いて言う。


「この部屋、インクが飛んでも気にする必要はないから好きに使って!!

 ついでに中にいる弟も好きに使って。

 私はこれで作業に戻るよ。それじゃ!!」


 たちまち、女の人は立ち去ろうと背中を向けたので、俺たちは慌ててお礼を言った。

 女の人は振り返らず、歩きながら手を軽く上げた。



 あれ? ……弟?

 部屋で待ってるのはおそらくマテオで……。


 今の人は、マテオのお姉さんだったのか!?


 言われてみれば、髪の色が似ている……!


 マテオは3人きょうだいで、姉が2人だ。

 上のお姉さんが羊皮紙ギルドを継いでいる。

 ここで働いていそうな雰囲気だったので、今のはおそらく2番目のお姉さんだろう。



 ドアを開けると、予想通りマテオがいた。

 この部屋には机と乾燥棚が2個ある。

 机の上には、印刷に使うであろう道具が乗せられていた。


 ミアベラとヴィートにも入ってもらって、ドアを閉じる。


 マテオはこちらに手を挙げて笑いかけると、威勢の良い声で挨拶をしてくれた。


「ミアベラちゃん、フレッド、そしてヴィートくん!! おはよう!!」


 ヴィートはマテオの発する声の大きさに驚いたらしく肩が跳ねた。


 ミアベラは元気よく、俺はいつもと同じように挨拶を返す。


「おはよう、マテオさん!」

「おはよう、マテオ」


 ミアベラは、ビックリしたままのヴィートに声をかける。


「ほら、ヴィーちゃんも!」


 声をかけられてハッとしたのか、ヴィートも挨拶をした。


「おはようございます」


 俺は、マテオへお礼を言う。


「今日はよろしく、というかありがとな、マテオ。

 ここまで本格的な場所を借りるとは思ってなかっーー」


 マテオは俺から羊皮紙の端切れの入った箱を受け取り、机に乗せてくれた。


「この印刷所は何かと縁がある取引先なんだ!!

 姉の1人はここで仕事をしている!!

 今日はその姉に頼み、部屋を貸してもらえるように交渉してもらった!!」


 ミアベラは、納得の表情と声で言う。


「案内してくれたのは、やっぱりマテオさんのお姉さんだよね!」


 マテオはミアベラの言葉に「まさしく!!」と言い、力強く頷く。


 部屋まで案内してもらったお礼は言ったが……。


「部屋を借りてもらってたことのお礼は言いそびれたな……」

「昨日は姉の仕事を手伝ったので、この件について姉は納得している!!

 もし伝えたければ、昼休みか終業の時間に行おう!!」


 マテオの言う事はもっともだ。作業中は良くない。

 昼休みにお礼を言いに行こう。



 マテオはヴィートに体を向けた。


「ヴィートくん!

 お店の宣伝に羊皮紙の端切れを使う案は、君が思いついたとフレッドが話していた!!

 改めて1度、会ってみたかった!!

 よろしく頼む!!」


 普段のマテオなら握手するところだが、ヴィートが手を怖がることは伝えてある。

 手を差し出すのは避けてくれた。


 マテオからの素直な笑顔を受けて、ヴィートは目を瞬いた。


 ヴィートはミアベラのスカートから手を離して一歩前に出る。

 さらに、左足を引いて、右手を左胸に添えて軽く頭を下げた。


「マテオさま、お久しぶりです。お会いできてとても嬉しいです。

 本日はよろしくお願いします」


 最後まで言うと、ヴィートは顔を上げて笑って見せた。


 マテオは目を見開き、横で見ていたミアベラは「わ〜!」と歓声を上げた。


「これは驚いた!! 丁寧な挨拶をありがとう、ヴィートくん!!」

「ヴィーちゃん、かっこよかったよ!」

「驚かせられてよかったです」


 アークイラ亭を出る前、マテオを知らない人扱いしていたのは誰だったのか……。

 あと、今の優雅なお辞儀は、いったいーー。


「これが印刷に使う道具ですか?」


 ヴィートは笑顔を保ったまま、机に近づいていった。

 マテオは、「その通りだ!!」と肯定した。


 机は天板以外が木でできている。天板には磨かれた白い石が使われており、キラリと太陽光を反射した。

 机の上にある道具は、羊皮紙の端切れが入った箱を除くと、合計5つだ。

 円筒形のビンに詰められた黒のインクが1つ、四角形にカットされた重石が2つ、それと、広げた手の平が収まってしまうほどの大きさをした丸のスタンプが2つ。

 ここで言うスタンプは模様をつけるものではなく、板にインクをつけるための道具のようだ。押し付ける面には滑らかな革が使われていて、ツヤツヤとしている。


「早速、印刷の流れを説明しよう!!」


 マテオによると、工程はこうだ。


1. インクを机に出し、スタンプにインクを付ける

2. スタンプから板へ、満遍なくインクを乗せる

3. 板に紙を乗せて、重石を乗せる

4. そのまま10秒ほど待つ

5. 紙から重石を外して乾燥棚へ運ぶ

6. 乾いたら出来上がり


 これをミアベラ、ヴィート、マテオ、俺の4人で分業する予定だ。



 ヴィートが、分業の前に全部の工程を通してやってみたいと言ったので、まずは1人1枚、片面を練習で刷ってみることになった。


 広告のオモテ面には、ミアベラ考案の女子会プランの宣伝とアークイラ亭の名前が入る。

 印刷に使う版は2枚だ。

 今回の場合は、間をあけずに刷ってしまっていいらしい。単色刷りなので色が混ざる心配がないからだとマテオが説明してくれた。



 刷ってみると、あっと言う間にオモテ面ができてしまった。

 真っ白だった紙にはもう文字と絵があり、宣伝を始めている。


 ただし、羊皮紙の端切れは形が一定ではないためか、バランスよく印刷するのは案外難しいことがわかった。


『お友だちと夜までおしゃべりしちゃいませんか?

 7月限定 お泊まり女子会プラン! 予約受付中

  お菓子付きかお酒付きかを選択できます

 7月1日〜7月末日まで』

という文言と、ウサギ耳のあるプリンの絵、ワインボトルの絵が左上へ少し傾いている。

 その下にある、『宿屋アークイラ亭』という文字と鷲の絵は右上に傾いて刷れている。


 やってみたいと言い出したヴィートはというと、スタンプが大きくて重みも1キログラムほどあるのでうまく扱えず、インクの付き方に偏りができている。

 乾くのには時間がかかりそうだ。


 ミアベラは、女子会の宣伝もアークイラ亭の文字も、しっかりと紙の真ん中にまっすぐ配置できていて上手だ。


 マテオは、俺たち3人に説明してくれたり、補佐をしてくれたりした。



 試しに刷ることはできたので、ここからは分業する。


 紙を渡すのが1人、印刷するのが2人、乾かす場所に運ぶのが1人という具合に分かれる。

 この分担方法だと印刷する人の負担が大きいので、定期的に交代をする予定だ。

 ヴィートはスタンプを扱うのが難しかったので、紙を渡すか乾かす場所に運ぶ係なのが決定している。


「感覚は掴めただろうか!! いざ、本格的に始めよう!!」


 マテオの気合いの入る掛け声で、俺たちは作業を開始した。


 * * *


「箱の中は空になりました」


 ヴィートは、オモテ面の印刷が終わったことを告げた。


 割とあっという間だった。


 1人でやっていたら結構きつかったかもしれないが、会話しながら作業できる。

 おしゃべりが好きなミアベラと、末っ子だからか結構話す方のマテオがいるので、それはそれは盛り上がった。


 ヴィートは自分に振られなければ会話を聞いているだけだったが、その代わりにサポートに徹していた。

 全体を見てインクを足していた。

 また、ミアベラの作業方法を観察して、紙に対してまっすぐ印刷するコツを見つけて教えてくれた。

 途中からは綺麗に印刷ができたと思う。



「そろそろ昼時だ!!」


 マテオの言葉で窓の外を見ると、植木の影が短くなっている。日が高い。

 まだお昼の鐘は鳴っていないが、もう4時間くらい経っていたようだ。


 腕も疲れてきていたから、休憩にするにもいいタイミングだ。


「あれ!? もうお昼!? ごめんね、私、お店のお手伝いしてくる!」


 ミアベラがスタンプを置いて立ち上がった。


「それなら俺が送ってーー」


 俺も席を立つと、ヴィートにズボンの横側を掴まれた。

 見ると首を横に振っている。


「わたしもお家に戻ります」


 そこまで言うと、ヴィートは目を擦った。


 頑張って続けて起きてるから、眠くなってきているのか。

 行く前の準備もあったし、起きている時間はもう5時間を超えている。

 体力がついて、少し長く起きていられるようになっているみたいだが、もうそろそろ限界だろう。


「ヴィーは疲れたなら、休んできてくれ。

 あと、ミアから離れないようにな。頼んだぞ」


 ミアベラを無事にアークイラ亭まで連れて帰ってくれ。


 ヴィートは頷いた。


「おねえさまとわたしがいない間の作業はお願いします」

「ああ」


 ヴィートはミアベラの近くへ再び駆けていき、スカートの裾を掴む。


「おねえさま、わたしもお家に帰ります」

「うん! 一緒に戻ろっか~!」

「はい!」


 ミアベラはドアを開けて、振り返る。


「フレッド、マテオさん、後でまた来るね!」


 ミアベラとヴィートは部屋から出て、ドアが閉まる。



 話が飲み込めなかったらしいマテオは、閉まったドアに慌てた。


「フレッド!!」

「どうしたんだ?」

「2人だけで行かせてしまって大丈夫なのだろうか!!

 ミアベラちゃんは道に迷ってしまうのではないか!!」


 あ、傍から見ていると、道を覚えるのが苦手なミアベラがヴィートを家に連れて帰るようにしか見えないか。


「ヴィーが道を覚えてて、ミアを案内してくれるんだ。大丈夫だぞ」

「ヴィートくんが!!」


 マテオは、驚きを隠せないという表情だ。


「覚えるのは得意みたいで……」

「そうか!! 聡明な子だ!!」


 マテオは乾燥棚を、おそらくは刷った広告を指して言う。


「ひょっとして、広告に羊皮紙の端切れを使うアイデアだけでなく、『女子会プラン』というものを考案したのも、ヴィートくんなのではないか!!」

「いや、それを考えたのはミアだ」

「ミアベラちゃんか!! 失礼した!!」


 俺は付け足す。


「ヴィーは、この町の中でも宿屋で泊まりたい人がいるんじゃないかって、ミアに言ったんだ。

 それでミアが考えたのが――」

「この『女子会プラン』というものか!!」

「ああ!」


 マテオは大きく頷いた。


「ヴィートくんの気付きをミアベラちゃんが発展させた!!

 俺も見習わなくては!!」


 マテオがそう言ったとき、ちょうど昼を知らせる鐘が鳴った。


 マテオのお姉さんにお礼を言いに行き、その後、俺とマテオも昼食を済ませた。




 午後からは、ウラ面に地図を印刷した。


 昼の時間が過ぎて、ミアベラは戻ってきたが、ヴィートは起きられなかったのでいなかった。

 この印刷所まではオリアーナさんが送ってくれたらしい。ありがたい。

 ミアベラが印刷所の建物内で迷子になるというアクシデントはあったものの、その後の作業は順調に進んでいった。




 そして、とうとう。


「最後の1枚だよ!」


 ミアベラが、乾燥棚から取ってきた羊皮紙の端切れをマテオに渡した。

 マテオはスタンプをグルグルと回すように板へ押し付けて、インクを付ける。

 オモテ面が印刷された紙を、インクが付いた板に乗せて重石を上に置く。


 10秒待って……。


 マテオは重石を取り、印刷できていることを確認した。


「完成だ!!」


 マテオがそう言う。


 ひとまず広告作りは完了だ!


 ミアベラ、俺、マテオは「お疲れ」とお互いに労い合った。



 後片付けと部屋の掃除をして道具を返却し、帰る頃には夕飯の時間が近くなっていた。


 ミアベラと俺は印刷所の入り口にいた受付の人にお礼を言い、建物を出た。

 マテオはお姉さんから「買い物するから荷物持ちして」と言われていた。



 印刷物は乾かす必要があるので、今日は印刷所の乾燥棚に置かせてもらった。


 * * *


 ミアベラとヴィートが広告を受け取り、配り始めた数日後には、その甲斐あって宿泊の予約者が増えた。

 まだ予約の入っていない日もあり、満室にもなっていないが、また一歩、ミアベラの目指しているところに近づいたのは確かだ。


 ミアベラによると、印刷されているお菓子の絵が可愛くて気になったという人が多くいたのだそうだ。

 そのため、お酒付きよりもウサギプリン付きの予約数が圧倒的だった。


 あの細かな曲線……板を彫るときに実は苦戦したけど、興味を持ってもらうのに一役買っているみたいでよかった……。

 もちろん、元々のプリンの見た目が魅力的なことや下絵が上手だったことは言うまでもないだろう。




 ついに7月になると、久々というか半年以上ぶりに、俺の他にもお客さんが泊まっているアークイラ亭になった。

 去年の収穫祭以来だ。



 さっき廊下で、サムエレさん特製のウサギプリンを持って話しながら歩く女の子たちとすれ違った。


 もう既に、シンと静まった廊下は卒業したようだ。

せっかくなので裏話を。

マテオに羊皮紙の端切れを箱で買わせて、マテオの部屋を在庫置き場にしようとした主犯格はこの話に出てくる2番目のお姉さんです。

その後、1番上のお姉さんにバレて怒られて、2番目のお姉さんは2箱買い取らされてます。

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