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第24話 宿泊客を増やそう①

 6月始めの休日。

 朝食の時間、食事処では、ヴィートが慣れない手つきでフォークにパスタを巻いていた。

 麺なので食べるのが難しいらしい。


 俺や他の人は既に朝食を食べ終わっている。


 今日のメニューはズッキーニとベーコンが入ったパスタだ。


 うまかったな。

 ズッキーニは厚みがあるのにやわらかくジューシーで、なぜかバジルの香りが染みていた。

 思い出すと、食べたのにお腹が減る……。


 ふとヴィートが顔を上げた。

 ヴィートの隣に座って「頑張ってヴィーちゃん!」と応援していたミアベラに話しかける。


「おねえさま、お昼に来てくれる人の数が増えましたね」

「うん、そうだね! 嬉しいよね!」


 心底嬉しそうに笑うミアベラに、ヴィートも笑顔で頷いた。

 最近、アークイラ亭は昼食時に半分以上の席が埋まるようになったそうだ。

 0から過半数。かなり大きな進歩だ。


「それにですね、次の手を打つためのお金と時間もできました」

「次の手?」

「はい、アークイラ亭をお客さまで満たす手です。

 賑やかになったのはまだ1階だけです」


 1階だけ、というのは、食事をとりに来る客が増えたということだろう。

 2、3階の宿泊部屋は埋まっていないのが現状だ。


「おねえさまはそれだけでいいのですか?」

「ううん、まだだよ。だからね、うん。次を考えなくちゃ!」


 ミアベラが意気込む。

 ヴィートは、その回答を待っていたとばかりに笑顔で頷いた。


「まずは、ええっと……?」


 ミアベラは考えてみて、困った様子になる。


「何から考えたらいいのかな?」

「おねえさま、今はどうしてお泊まりするお客さまがいないのですか?」


 直球だ……。

 直球でヴィートはミアベラに質問した。


「それはね、宿屋に泊まりたい人が減っちゃったからだよ」

「宿屋に泊まりたい人はどのような人でしたか?」

「外から来る人かな」


 ヴィートは、ハッとしたようにこちらを見た。


「おにいさま、外から来る人が減ったのは、通行税が高いからですよね?」

「まあ、そうとも言うかもしれないけどな?」

「ひらめきました」


 前にも聞いたことあるな、このセリフ。

 聞いておこう。


「何を?」

「やはり不満を持つ人を集めて、領主のお城に攻め入れば――」

「それはやめろ。どうしてそうなるんだ……」


 俺が否定したので、ヴィートは残念そうな表情を浮かべた。


 もしかして、通行税を高くした領主様のことを悪い人だと思っているのか?


「いいか、ヴィー?

 ここ数年、市壁の外にいる魔物の数が増えてるから、領主様は人の出入りを減らしたんだ」

「どうしてですか?」

「そうした方が道中で怪我をする人とか亡くなる人が減るだろ?」

「へー」


 うわ、興味がなさそうだ。

 いつもは教えたことを素直に聞いてくれるのに。


 ヴィートは仕方がなさそうに口を開いた。


「いけないのですか。では違う方法にします」


 どんな言葉が飛び出してくるやら……。


 ヴィートは少し間を開けてから「それではおねえさま」と口にする。


「外から来なくても泊まりたい人はいないのでしょうか」


 あ、まともだ。

 どうしてこういうアイデアより先に過激な方が出てくるのか。


「え? う〜ん、そう言われてみるといそう?

 んん〜? ヴィーちゃん、お家があるのに、宿屋に泊まりたいって人はいるのかな?」

「います。

 そういう話をしていたというよりは、そういう方向へ持っていけそうな人たちですけど、いますよ。

 例えば、よくお昼を食べに来る2人の女の人がそうです」




 昼過ぎにルイーザ監査官とメリタ補佐官が来店し、窓側の奥の席についた。


「プハーッ! 昼から飲むの最っ高だわ!」

「っはぁ……美味しいね」


 窓側の扉に近い隅の席に俺とヴィートがいて、ルイーザ監査官とメリタ補佐官のいる席からは少し離れた位置だ。

 昼食を求める客足が緩やかになっているため、ここまで会話が聞こえてくる。


 余談だが、俺とヴィートはヤギの乳にイチゴのジャムを溶かして飲んでいる。

 ヴィートには慣れてもらおうと思って膝の上に座ってもらったが、飲み物のおいしさに気がまぎれているようだ。緊張状態ではない。


「ミアちゃん、もう1本もらえるかい」

「はーい!」


 ルイーザ監査官とメリタ補佐官は、あっという間にワインを1瓶空けてしまったようだ。

 しかしまだできあがってはいない。

 ミアベラは元気よく返事をして奥に戻っていく。


「昼間からゆっくりと入り浸れる場所があるのはとても良いね」

「ダラダラ話したいだけのときもあるのに意外と長居できるトコってないわよね」

「お待たせしました! ワインの赤です!」


 ミアベラは、赤ワインの瓶を置きながら尋ねる。


「あの、もしかして女子会の場所を探してるんですか?」

「そうなのよ!」

「行きたいお店も場所も尽きてはいない。

 それはそれとして話すことを目的に会いたいんだ。話題は次々と生まれてくるものだからね」


 ルイーザ監査官は前のめりになって、メリタ補佐官は熱のある声で答えた。


***


 次の日の朝ごはんの後、昨日のようにミアベラとヴィートと俺は食卓に残っていた。


「あのね、フレッド、ヴィーちゃん。

 私、ルイーザさんとメリタさんの話を聞いてね、寝る前に考えてみたの。

 お泊まりで女子会をしてもらえるようにするのはどうかな?」


 ミアベラは俺とヴィートに話す。


「いいですね」


 ヴィートは瞳を輝かせながらミアベラを見つめている。


「……なあ、最初から女性に限定するのは大丈夫なのか?」

「あ! そうだね、減らしちゃう。どうしよう?」


 ミアベラは困ったように下がり眉になった。


「ごめん。案はすごくいいと思うんだ。気になっただけっていうか、詳しくないから、よくわからないんだ……」


 批判したみたいになってしまったので、俺が慌てて弁明していると、ヴィートは不思議そうに言い放った。


「おにいさまもおねえさまも何を言っているのですか?

 限定するところがおねえさまの考えのいいところではないですか」


 ミアベラはキョトンとした。

 おそらく俺も、同じような表情だっただろう。

 だから、ほとんど同時に聞き返した。


「そうなの?」

「そうなのか?」


「そうなのです」


 ヴィートは「例えば」と、話し出す。説明してくれるのだろう。


「おにいさまとおねえさまの前に、甘い飲み物のお店と焼き肉のお店と麦のお粥のお店があるとします。

 どちらに入りますか?」

「飲み物屋さん!」

「焼き肉だな」


 ミアベラと俺は入りたい店が分かれた。


「これが絞る力です」

「え~!?」

「今のがそうなのか?」

「はい。間口を狭くしていますけど、狙ったお客さまの心は掴めています。

 どちらのお店も集めたいお客さまが違うような気はしませんか?」


 そうヴィートに問われ、ミアベラと俺は考える。


「飲み物屋さんは、甘い飲み物だから……あ、女の子を集めてるのかな?」

「焼き肉は男向けか。女の人でも焼き肉好きな人はいるだろうけど、確かにそうだな」

「お粥屋さんは年齢が高めの人かな」

「はい、そうです。正解です。

 おねえさまが考えた、じょしかい、ですか? お話するために集まるお姉さま方向けの案も、絞って心を掴むものです」


 大体、わかった。


「量より質、なんだな」


 ヴィートは頷く。


「そっか〜。そう思うと、なんだかよさそうだね!」


 ミアベラはすっかりいつもの笑顔を取り戻した。

 よかった。



 宿泊客を増やすための方向性は、こうして決まった。

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