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第22話 届け出なしイベントの当日

古いメモを見て過去3話分を書いていたみたいで、市場の衛兵の人数が全然足りていませんでした。

修正済みです。わかりにくくなってしまい、申し訳ありません。

 怪しげな手紙からスリグループの拠点が判明した日は、曲芸が開催されると予想された日の3日前だった。

 急いで捜査を進め、とある酒屋へと曲芸師とスリグループの両者が揃って入っていくところを見たという証言を手に入れた。

 実際、衛兵たちも目撃し、両者に関わりがあることは明らかとなった。


 手紙から判明したスリグループは5人。普段はコソドロ系の手口を使う者たちのようだ。

 だとすると、市場でイベントを開催するような目立つ手を打つとは考えにくい。

 おそらく首謀者は曲芸師側で、足止めを手配しているのはスリ側だろう。


 また、曲芸師側の拠点と思しき集合住宅の一室に行き着いた。

 市場での目撃情報によると曲芸を行っていたのは2人だったのだが、拠点を遠目から観察してもう1人いることがわかった。

 おそらくリーダーが拠点に常駐していて、表に出て何かをしには来ないのだろう。



 今回の衛兵たちの動きは、リーダーを最優先で逮捕して残りはできるだけ多く、という方向性でまとまっている。グレゴリオ隊長とディーノ補佐官の意見の折衷案だ。


 調査結果を踏まえて、4つの班分けがされている。

 1つ目は、市場を避けて見回りを行う班だ。他の所の警戒が薄くならないように人員を割く必要がある。

 2つ目は、貧民街で見つかったスリグループの拠点で待ち構える班だ。ドゥラン分隊長が率いる地域担当の衛兵が窃盗犯たちをまとめて逮捕する。人数的にかなり厳しいので協力が得られるのは大きい。

 3つ目は、曲芸師の拠点に乗り込む班だ。手下が宝を持ち帰る時を待っている曲芸師のリーダーを捕らえる。追加で借りた3人の衛兵たちはここに組み込まれた。

 4つ目は、市場で手下の曲芸師たちを捕らえる班だ。


 俺は4つ目の班で、作戦としては単純だ。

 市場で曲芸師の逃げ道を1ヶ所以外塞ぐ。

 陽動の衛兵が追いかけて、塞いでいない道に逃げ込んだところを私服の衛兵が捕まえる。


 向こうのリーダーは現地にいない。ということは大抵、トカゲの尻尾切りのように手下を切るつもりがあるリーダーだ。

 逆に切るつもりの手下だけならこの手に引っかかる可能性がかなり高い、とディーノ補佐官は踏んでいる。


 もちろん、兵服を身に着けた衛兵の横を強行突破しようとする場合も考慮されている。

 最終的に誰が捕まえるかは相手の逃げた方向次第になる。


 俺の担当は、私服の方だ。言い出しっぺということでそうなった。



 皆が訓練の時間にトーナメント戦をしている中で、俺はドゥラン分隊長に教わった動きを練習していた。

 見回りの道順を教えてくれたサーブレという衛兵が、暇になったのか話しかけてきた。


「おいおい、使わないかもしれないことをそんなマジメにやらなくても。それに服の中に鎧着るんだぜ?」

「それでも一応な……」


 俺は、自分の要領の悪さをカバーしないといけない。


 サーブレはトーナメント戦に戻っていくまでの間、「マジメなヤツ」と呆れながらも、刃物を持った犯人役をやってくれた。

 そのため、俺は何も持たない状態での相手への対処が滞りなくできるようになった。


 サーブレも同じ立ち回りなのだが、練習は必要ないようだった。


***


 無許可である曲芸イベントの予想日5月27日。その当日を迎えた。


 サーブレと市場に来た。今回ばかりはミスではなく任務として私服で出勤だ。


 市場の朝は早いので、始業の鐘がなった直後でも既に食欲が刺激される匂いが漂っている。


「そこのサンドイッチ買ってきていいか?」


 サーブレは、俺に呆れ顔で言う。


「朝飯食べなかったのかよ」

「食べたんだけどな……」

「場所もちょうどいいし、ま、行くか」


 中央広場の近くの屋台で、切り込みを入れたパンに味のついた肉を挟んだサンドイッチを買う。

 少なく持ってきた現金をちょうど使い切った。


 通常ならヴィートに言われたとおり荷物も前に持っておいただろう。しかし、大体の荷物は出勤時に城壁塔に置いてきた。

 お金は使い切り、鍵もミアベラに渡してから出てきている。貴重品もない。

 盗られる物もないので仕事に専念できる。


 買い物客の邪魔にならないよう屋台にできた列を避けて、その側面に立った。

 俺たちは、ちょうど曲芸師たちを誘い込む道のすぐ傍にいる。


 曲芸師2人を、俺とサーブレと、少し離れた位置にいるルイーザ監査官とボーロという衛兵の計4人で確保するつもりだ。


「俺たちだけで捕まえられるのにな。俺で1人、フレッドで1人、ほら十分だぜ」


 サーブレはサンドイッチにかぶりついて咀嚼しながら、強気に言う。

 意気込みは十分だ。


 俺もサンドイッチを食べる。

 うまい。



 いくらゆっくり食べても時間が余るので、近くを歩いたり、サーブレと縛りありのしりとりをしたり、街の人と話して時間を潰す。



 すると、案外あっさり2時間くらい経っていた。


「あれ、人が――」


 市場の中央にある円形広場に人が集まって来ている。


 人の輪の中心部には、ピエロか? 膨らみのある派手な縦縞ズボンに、笑顔を模したような白地の仮面を付けた人が2人いた。

 仮面の左目の周りは、緑の少し変わった形の縦長なクラブマークで囲んでいる。よく見るとクラブマークというよりは、野菜のピーマンを逆さにしたような模様だ。


「レディース&ジェントルメン!」


 仮面の男性は高らかにそう告げる。


「本日はこの場を借りて、小物を用いた軽業を皆様へお見せいたしましょう!」


 男性の中では少し高めで聞き取りやすい声だ。

 前情報があるからか、話し方が胡散臭く感じる。


「これはペペローニサーカスに所属するためのオーディション。言わば、無名でいくら集客できるかの腕試しでございます。

 それ故、短時間での終了となっております。ご了承ください」


 逆さにしたピーマンをトレードマークとしているサーカス団の名前を勝手に使っているみたいだ。

 以前、やたらと詳しい酔っ払いの男性から、そのサーカス団は家族経営と聞いた。わざわざ公募なんてしていない。


「ですので、『むむ……これはうまいぞ』と思ったら、拍手を、盛大な拍手をお願いします。

 それでは我らがショーを、ご覧あれ」


 もっともらしく説明をして、曲芸が始まる。


 ショーで技を行う1人と解説が1人。

 360度を相手にするために、技を見せながら歩き回るようだ。


「今行っていますのは、トスジャグリングといって、その名の通り投げるジャグリングでございます!

 中でもボールの軌道が左右対称になるものをカスケードと言って……」


 演技に集中できる程度に、技の解説を簡単に入れる。


 演技を行っている人が扱うボールの数は1個から2、3と増えていく。

 通行人が「なんだなんだ」と、さらに集まってきた。


 飽きそうな頃に、投げ方を変えてまた視線を集める。


 ボールの動きを楽しませたら、一度ボールを止める。


「見事です。拍手を!」


 演技を見せていた1人が、ボール持っていない手を挙げてポーズを取る。

 手を叩く音がそこら中で鳴る。



 さて、こちらも行動開始だ。


 追いかける役として、この作戦に参加した中で足が速い2人が任されている。

 マテオとグレゴリオ隊長だ。特にグレゴリオ隊長は筋骨隆々なので、迫ってくると本当に怖いと思う。


 中央広場の近くに衛兵が用意した偽物の屋台がある。そこでマテオたちはしゃがんで隠れて待機している。


 店番のフリをしたメリタ補佐官が合図を出した。

 マテオとグレゴリオ隊長が屋台の裏側からこっそりと出てきて、見通しの良い通路側へ移動する。


 向こうからしてみれば、足止めを手配したはずの見回りが突然現れたように見えただろう。


 仮面をつけた2人が観衆を見渡す。しかし、手を組んだ窃盗犯たちはいない。

 今更そこに気が付くあたり、確かに油断している。


 マテオたちが人ごみの向こう側から声をかける。


「君たち、活動について確認したいことがある!! 少しいいだろうか!!」


 その言葉を聞いて、何を思ったのか曲芸師2人の首は挙動不審に動き、仮面の奥から焦りをにじませた。

 マテオは観衆の一部に頼み、通してもらう。

 衛兵が近づいてきて慌てた様子に変わる曲芸師たちは、思い切った行動に出た。


 2人は縦縞模様のズボンの中に手を突っ込んだ。中から短い刃物を取り出して、「退け!」とお客さんに向けて振り回す。

 どこから取り出しているのかと思いながらも、怪我人が出るかもしれない状況になって緊張感が走る。

 観衆たちは皆、急いで道を開き、そこから曲芸師2人は逃げ出す。


 その時、気づいただろう。

 ほとんどの道に衛兵が立っていることに。


 後ろを気にしながらもキョロキョロと首を動かし、見つけた。衛兵に特徴的な、白い服に赤いたすきをかけた者がいない道を。

 それは俺たちがいる通路だ。俺とサーブレも屋台の側面から道の真ん中に移動してある。


 曲芸師たちは、穴を見つけたとばかりに、したり顔でこちらへ走り出した。

 刃物を向けながら、距離を縮めてくる。



 道を開けさせようと、片方の男が持っている短い刃物が振られた。

 俺の腹の辺りに向けてその切っ先が横から迫る。


 盾もリーチのある剣もないと怖さが倍増する。しかし代わりに服の下に鎧を着ている。

 だから落ち着いて、ドゥラン分隊長に教わった通りに動くんだ。


 まずは、刃物を持った相手の腕を左手で受け止め、右手でも押さえる。

 よし。

 その腕をねじりながら相手側に下ろしてから右手で後ろに引っ張る。

 相手が時計回りに回転するから、俺もその回転に合わせて体の向きを変えつつ相手の手首を引き上げる。

 持ち上がった相手の腕を左脇で抱えて、そのまま地面へ倒れ込む。


 うまく抑え込めた……が、暴れて抜けようとしてくる。


「なにしやが……いてててて!」

「頼む、大人しくしてくれ! 変に動くと腕折れるから!」


 それを聞いた男はピタリと抵抗を止めた。


 手に持っていたのは、投げナイフ用のダガーだということがわかった。

 振り回していただけだったので助かったかもしれない。切る目的で作られていない刃物なので、怪我人が出ている可能性は低そうだ。



 もう1人はどうなったかと目で追う。


 すぐ横の屋台から野菜が転がっており、もう1人の仮面の人は走っているものの、速度を落としていた。

 察するに、体を屋台にぶつけた?



 ボーロさんが前に出て刃物を持った曲芸師の腕を押さえたものの、どちらも焦っているのか、そのまま見合う状態になってしまった。

 曲芸師の手には、俺が今抑えている者が持っていたダガーと同じものが握られている。


 少し様子を見ていたルイーザ監査官が、流れるように背後を取って、曲芸師の首元に一発お見舞いした。

 曲芸師は意識を失ったのか、がくりと力なくうなだれ、手からはダガーが滑り落ちた。



 その後、彼らは手首を縄で縛られ、運ばれていった。



 こ、怖かった。

 刃物を向けてくる相手が、これで二度目とはいえ怖いものは怖い。


 なんとかなってよかった……。




 衛兵たちは手分けして怪我人が出ていないか確認したり、危ない目に遭った一般の方に謝って回ったりした。


 そして俺は出店していた八百屋から転がってしまった野菜を拾い集めていた。


「――っと。これで大丈夫そうだな。

 数はあってるか?」


 俺は30代くらいの女性に問いかける。

 女性は指を差しながら野菜を数え、顔を上げる。


「あってるよ。いやー、ありがとね。

 台にぶつかってきてどうなるかと思ったけど、助かったよ」

「騒ぎが大きくなって……こちらこそすみません」

「お礼といってはなんだけど、傷ついた野菜、持っていってちょうだい」


 補足しておくと、全く傷のない野菜や果実はそうあるものではない。

 真っ二つに割れてるくらいまでいけば売り物にならないと言われても頷けるが。


「このアスパラガスはともかく、他のは売り物になる。それに、迷惑をかけたのはこっちだ。もらえない」

「そうかい? じゃあアスパラは受け取ってくれるね?」

「ああ、それくらいなら……。どうも」

「あ、そうだ、いいものがあるじゃないか。うちの夫がギックリやっちゃってね。見に行けないからこのチケットもらってちょうだい」

「え……え?」

「いいからいいから。はい」


 踏まれてしまったアスパラガス数本を受け取ろうとしたときに一緒にチケットをグイグイと押し付けられ、握らされていた。



 お礼を言っていると、腰を抜かしていたサーブレがようやく立ち上がれるくらいになっていた。


「なんであんなの冷静に対応できるんだよ!」


 サーブレは投げやりに強い語気でそう言うと、こちらが何か返す間も与えずに他の衛兵のいる円形広場へズンズンと進んでいってしまった。


 俺は全然冷静じゃなかったのだが、そう見えたのだろうか。


***


 その日の午前中は忙しくてグレゴリオ隊長とディーノ補佐官の時間が取れなかったため、午後にまとめて振り返りを行うこととなった。


「作戦は概ね成功した。

 本作戦の被害だが、転倒に寄る擦過傷を負った者が3名。刃物に寄る切創を負った者はいない。

 反省点は、一般の方を危険にさらしてしまったことである」


 珍しく、筋トレを挟まずにグレゴリオ隊長は言った。


 それに続けてディーノ補佐官がメリタ補佐官に尋ねる。


「刃物はダガーだったそうだな、メリタ補佐官」

「その通りでございます」

「ではボーロ、ダガーの特徴を答えろ!」


 名指しされたボーロさんは頭をかく。


「なん……だっけかな……」


 ディーノ補佐官はボーロさんを睨む。


「学んでおけと言っただろう!

 サーブレ!」

「短剣っす!」

「見れば誰でもわかる!

 フレッド! 答えろ!」

「両刃で利き手関係なく使えることであります!」


 答えると、ディーノ補佐官は少し意外そうにしたが、眉間の皺が濃くなった。


「どこの視点から答えている! 客に返答でもしているのか貴様!」

「申し訳ありません!」


 ディーノ補佐官はフンと鼻を鳴らすと、ルイーザ監査官に体を向ける。


「ルイーザ監査官、正解をお願いします」

「ん~、ほぼ何も切れないってことと、刺す投げるだとピカイチってことかしら」


 そうだ、と言わんばかりにディーノ補佐官は大きく頷く。


「いいか! 大衆への被害を減少させるために必要な知識だと何度も言っているだろう!

 武器の特徴がわかれば、対峙した際の留意点が変わると知れ!」


 いつになく「はい」という返事が揃った気がした。




 グレゴリオ隊長が言った通り、曲芸師もスリグループも全員捕まえることに成功していた。

 拠点から押収された物は持ち主へ返却される。持ち主が現れないものは一定期間保管の後、教会に寄付されることとなる。


 取り調べにより、スリグループと曲芸師たちは3年ほどに渡って手を組んでいたことが判明した。

 元々は貧民街で見世物を行って裏で盗みをはたらいていたが、旨味のある金額を持ち歩く層が少ないため場所を変えた。

 市場は見世物をしていても違和感を持たれづらいため選択したそうだ。


 両者から共通で出てきた話はこれくらいだ。

 どちらが話を持ちかけたか、言い出したか、といった問いについては罪のなすりつけ合いを始めてしまいはっきりしていない。


 ただ、逮捕によって、市場からも貧民街からも窃盗の被害件数が大幅に減ったことは紛れもない事実だった。



 市場の衛兵たちには、ルイーザ監査官とメリタ補佐官からの是正勧告が出された。

 サーブレによると、歩行速度に関する注意から上官の目が行き届いていない原因にいたるまで細かく記載されていたらしい。

 指摘を受けて苛立つディーノ補佐官に毎日怒られてげんなりしていると嘆くサーブレだったが、その顔はやる気に満ちているように見えた。

 どうやら今までは、やる意味の分からないものに対してやる気が起きなかったのだそうだ。訓練しても武器の知識を頭に入れても、昇級試験以外で使わなかったから。

 でも、俺が犯人の1人を捕まえてサーブレが腰を抜かしていた状況に、情けないしカッコ悪いと感じた、とサーブレは語った。



 ルイーザ監査官とメリタ補佐官は今回の監査が終わったため、解散した。

 ルイーザ監査官は小隊長の任に、メリタ補佐官は監査官補佐から分隊長補佐と事務の役目に戻った。



 当然、俺とマテオは再びドゥラン隊長の下へ返された。

 スリグループの拠点となった空き家は、俺たちが以前清掃活動をしていた道の先にある。

 空き家の解体のために、返却後しばらくの業務内容は見回りではなくゴミ拾いだ。

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