第21話 それぞれの一手
お待たせいたしました。
お納めください。
アークイラ亭、営業後の片付け中。
「オリアーナさん、これ、ずっと台の上にあったんだ。このままでいいのか?」
帰ってきたら受付台の上に町内を詳しくまとめた地図帳が置かれていたので、それについて質問する。
「あら、今片付けるわね。急いでいたものだから、しまい忘れてしまったの」
「そうなのか」
「手紙をね、出すそうよ」
「え、誰が?」
「ヴィート君。
あの様子だと文字の読み方も知らないみたいなのよ。ペンの持ち方だけを聞いて、何を書くつもりなのかしら……」
ヴィーは字を読めないのか!?
3歳だからおかしくはないが、読めているような雰囲気に見えた。
商店街にある店のドアノブにかかった営業中プレートを、ミアベラに知らせていたこともあったし。
確かに、なんと書いてあるかまでは言ってなかったか……。
ミアベラが描いた立て看板に関しては、絵にしか触れていなかった。
ま、紛らわしい。
しかし、今までは知らないと言える環境にいなかったのだろう。
仕方のないことかもしれない。
俺は片付けを終えて部屋へ戻ってきた。
考えて来るように言われた作戦の案は、そうだな……。
寝る支度もしたことだし、横になって考えるか。
コケコッコー!
鶏の鳴き声で目が覚める。
「作戦……!」
どうやら俺は眠ってしまったらしい。何も考えられていない。
まずいと思い、飛び起きる。
あれ、起きた勢いで上に乗っていた何かが落ちた……?
滑り落ちたような感覚があった左手側を見ると、うつ伏せのようになったヴィートが驚いたのか顔を上げる。
「うわ、ヴィー!? ごめん! 痛くなかったか?」
ヴィートは体を起こして座り、瞬いた。
「おにいさま、なんだかベッドが揺れませんでしたか?
地揺れですか? 世界の終わりですか?」
ヴィートは瞳を好奇の色に染める。
その顔、もっと違う話の流れで見たかった。
「なんで嬉しそうなんだ」
「誰も見たことがないのですから、面白そうです」
世界の終わりという言葉の規模が大きすぎて、ピンと来ないだけだと信じておこう。
「おにいさま、どうして頭が痛そうな顔をしているのですか? お仕事をおやすみしますか?」
「しない」
「……。
そうですか。応援しているので頑張ってください」
平坦な声で言われた。
さっきのテンションはどこに行ったのか。
「そういえばなんだか慌てていたみたいですけど、寝過ごしてしまったのですか?」
「いや、犯行グループを捕まえられるような案を考えてこいって言われたのに、気付いたら寝ててさ……。どうしよう」
って、ヴィーに言っても仕方ないよな……。
支度しながら考えよう。
「そうですね……油断させるといいですよ」
「お、おお、なるほど?」
「わたしも、まさかのこのことついていった相手が服を着ていないだけの衛兵さまだったとは思いませんでした」
「兵服を、な。裸だったみたいに言わないでくれ」
「久しぶりに騙されました」
「騙してない」
まさかそこが注目ポイントだったとは思わなかった。
「あとは慢心しているところを狙うのです」
「ほぼ同じことを言ってないか?」
「大丈夫だと思っている方が裏をかきやすいです。
それでは、頑張って作戦だか案だかを捏ねて頭を捻ってください」
「……油断させる、か」
服ーー。
そういえば、ルイーザ監査官が私服衛兵のテストをしていたと言っていた。
「思い付いたかもしれない! ヴィー、ありがとな」
「……」
え、顔はこっちを向いているのに無視?
「ヴィー?」
「おにいさまが考えたことでしょう?
わたしにお礼を言うのは変だと思います」
「ヒントっていうか、ほぼ答えをヴィーがくれたっていうことと、手伝おうとしてくれたことに『ありがとう』なんだ」
ヴィートはいまいちピンと来ないようだった。
「そうだ、手紙書いたってオリアーナさんに聞いたぞ」
「お耳が早いですね。もう出しました」
「何を書いたんだ?」
「どうせ検閲するのですから、後で見たらいいのではないですか?」
「それは俺の仕事じゃないんだ」
「そうですか。残念でした」
ヴィートはくすくす笑ってみせる。
「どっちかというと、ヴィーが頑張って書いてるところが見たかった」
それを聞いたヴィートはなぜかそっと顔を背けた。
* * *
それから何日か過ぎて、ルイーザ監査官とメリタ補佐官による検証の結果が出たらしい。
「今までに曲芸が行われたと思われる日を再現してみるね。
記録によると皆はこの配置になるね」
地図の上に駒を乗せるメリタ補佐官。
「イベントが催されたと思われる9時45分から11時の動きを見てみよう」
木彫りの駒を動かして説明する。
「まずタマーゴ君ペアが市場の中央を抜けると間もなく曲芸師たちが技を披露し始める。
そこで次に市場に来るボーロ君ペアはこの道で物探しをする。
今度はコーキエ君ペアが別のルートから市場に近づくね。その手前で起きた喧嘩を諌めるために足を止めた。
サーブレ君ペアはまだここら辺にいて、次にくるのはグレゴリオ分隊長ペアだね」
「おい」
「はい。ディーノ補佐官、いかがいたしましたか?」
「我々より先にサーブレが市場に着く計算だが?」
「実際には着いておりません。常にグレゴリオ分隊長の方が先に市場を通過しています」
「なんだと!?」
ディーノ補佐官は、俺に見回りの道順を教えてくれた男たちを睨んだ。
「続けてもよろしいですか」
メリタ補佐官はディーノ補佐官に聞いた。
「ふん、好きにしろ」
「かしこまりました。
グレゴリオ分隊長ペアは、女性が男性に絡まれているのを発見するね。事態の解決にそれほど時間は要さなかった。けれども男性の方は八つ当たりか、主にディーノ補佐官にしつこく絡んできたようだ」
メリタ補佐官は「これが全体の動きだね」と一旦締める。
「全員に納得してもらおうとして長くなってしまったね。
要するに約1時間15分は市場に見回りができていないということだね」
ルイーザ監査官は「ディーノ向けの内容だったわ」と呟きながら笑いをこらえ、飲み込んだ。
そして咳払いをする。
「それじゃ、グレゴリオから作戦の発表があるからよく聞きなさい」
曲芸イベントを行っているのは6〜8人という予想がたっている。
また、それに便乗する形でスリが出るらしい。
衛兵側は2つのパターンを予想している。
1つは曲芸師たちが衛兵を足止めしているパターン。それに乗じてスリ犯も現れている可能性がある。
ここまで衛兵に発見されていないことから考えると、この可能性が高そうだ。
もう1つは曲芸師たちが届出を出すことを知らないパターン。その演技を利用して盗みを働くために、スリ犯が衛兵たちが来るのを遅らせている可能性も捨てきれないだろう。
どちらが妨害しているにせよ、足りていない証拠を集めることになった。
2日後。
順調に証言や証拠が集まってきて、貧民街のスリと共謀している線が浮かび上がってきた頃。
貧民街のスリグループの拠点が判明した。
紛失物リストに載っている、曲芸を見た人の失くし物がそこで何点か見つかったのだ。
慎重に捜査しているため、まだスリたちには勘付かれていないらしい。
拠点特定のきっかけは、貧民街の空き家の住所だけ封筒に書かれた手紙だったらしい。
中身は白紙で、怪しいと踏んだ衛兵が炙るなど手を尽くしたが、文字が書かれていることは認められなかったそうだ。
そこで宛先の場所に行って張り込んだら、スリグループの出入りが確認できたのだそうだ。
まさかとは思うが、それを書いたのは……。
ちょっと横になるだけはフラグ(経験談)




