第20話 北城壁塔のメンバーと実情
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昼休みの終わり頃、北城壁塔へ一度戻る。
「フレッドのところには、ルイーザ監査官がいたのだろうか!!」
「ああ、いたぞ。
マテオの方にはメリタ補佐官が――」
「いたとも!!
書類を取ってきた後、走り込みなどを皆と共に行っていた!!」
マテオと雑談しながら、昼休憩の終わりを待つ。
ルイーザ監査官とメリタ補佐官は二人で昼食をとったのか、一緒にやって来た。
「癒されたわね」
「心もお腹も充たされたね」
あれ。気のせいか? メリタ補佐官が上官相手に敬語なしで話していたような……。
と思っていると、二人揃ってこちらにまっすぐ来た。
「フレッド、聞いたわよ!」
「え、何を、でありますか!?」
「市場の曲芸について調べてくれたって!」
「誰に聞い……うわ!?」
ルイーザ監査官に横から上腕を引かれ、躓きかける。
「グレゴリオのとこ行くわよ! ほらほら!」
「借りていくね」
そのまま引きずられつつグレゴリオ隊長のもとに連れていかれた。
マテオから手を挙げて送り出された。
グレゴリオ隊長は腕立て伏せをしており、ディーノ補佐官はイライラした様子で横から……いや物理的に上から何か言っている。
ルイーザ監査官とメリタ補佐官は何をするか話をしてあるらしく、短めに言葉を交わす。
「それじゃあメリタ、頼むわよ」
「承りました」
メリタ補佐官は先行してディーノ補佐官へ話しかけに行った。
ポーチから丸められた紙を取り出す。
「ディーノ補佐官、こちらを預かってまいりました」
それを見た途端に、ディーノ補佐官は眉間の皺を深くした。
一方、ルイーザ監査官はグレゴリオ隊長に話しかける。
「グレゴリオ、ビッグニュースだわ!
フレッドが、町の人の安全のために、市場の無認可イベントについて調べてくれてたらしいわよ」
「り、理由がかなり美化されてる気が……」
何か知っていそうなのに黙っているヴィートがいたので聞いただけなのだ。
『アークイラ亭に来ていた客と力になろうとしているミアベラのため』であれば恩着せがましいがまだ間違っていないというくらいで。
『町の人の安全のため』という理由は範囲が大きすぎる。
「謙遜は必要ないとも。どこまで掴んだのか聞かせてもらえないだろうか」
謙遜ではないのだが……。
俺はメモを取り出して、目を通しつつ話す。
そのまま話せない書き方をしているので、そこは読み換える。
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開催する日
・給料日の頃(休日は除く)
・始業開始の鐘の後から昼前までの約5時間のどこか
・グレゴリオ隊長(肩幅があるいかり肩の衛兵)とディーノ補佐官(眉間にしわのある衛兵)の2人が、西門からまっすぐの市場の入口から見回りを始める日
場所
・市場の中央
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「よく調べてきてくれた。あとで予想日を絞っておく」
「ようやく空振り続きから抜け出せたわね。
あとねこういうことは、いつ話そうなんて考えなくていいわ。さっさと言いなさい」
「はい」
いつ話せばいいのかわからなくなっていたのは、ルイーザ監査官にはお見通しだった。
補佐官の2人はこちらの会話から方針をたてたらしい。
「メリタ監査官補佐、あの話を聞く限り、これは保留にして別の手を打ちたい」
「いかがいたしますか」
「増員を頼む」
「上に伺って参ります。調整がついた人数から作戦を編みましょう」
「……相手の人数予想の2倍を見回り班から。開催当日までの5日間借りる」
「最低12人だとしてそれを5日の間、さらに見回り班のみからとなると厳しいかと存じます」
「奴らは逃げ道など疾うに用意しているだろう。万全を期す」
「期待に添えない可能性もございます。あらかじめご了承ください」
昼休みの終了と午後の仕事開始を告げる鐘が鳴った。
午前訓練チームと午前見回りチームごとに集まり、各々が何をしたのか、何があったかを共有してから交代で仕事をする。
俺がいる方のチームは午前見回りだったので、訓練をする。
「これよりトーナメントを開始する!」
「うおおー!」
共有時に聞いた内容だと、整列行進、駆け足、腕立て伏せ、剣術を行うはずだが、始まってみると聞いていたのと違う……。
訓練側は皆、木剣とバックラーを使ったトーナメント戦を何度もするらしい。
分隊長と補佐官はずっと見回りに徹しているため、監督する人はいない。
「新顔もやろうぜ。監査官は混ざってもいいけど、女だからって容赦しないぜ?」
「いいわよ。全力でかかってきなさい? 一太刀で終わらせてあげるわ」
当然のようについて来たルイーザ監査官はというと、かなり乗り気だった。
さて結果はルイーザ監査官の圧勝だった。
俺はフェイントに引っかかり続けて初戦敗退。
トーナメント戦が終わると、あまりに強かったルイーザ監査官に挑む乱戦に変わり、1対5で皆散った。
勝利後の一言は「ん〜、今度グレゴリオに手合わせ頼もうかしら」だった。
気づいたら身体が宙を舞っていたので判断できる時間がほぼなかったが、真正面から強かった、と思う。
流れるような太刀筋だけはなんとか見ることができた。
徐々に剣なしなどといった無茶なハンディキャップをルイーザ監査官に設けていったが、勝てる者は誰もいなかった。
男たちのプライドが砕かれる直前、終了時間より早く集まるよう指示がされ、1時間早く切り上げた。
昼休み中に話した感じだとマテオのいた方は少なくとも走り込みはしていたみたいだったので、こっちのチームが緩いのかもしれない……。
再び城壁塔に集まると、グレゴリオ隊長は、曲芸について判明したことを全体に共有する。
「……ということがわかった」
今まで停滞していた事柄が進んだらしく周囲からは「やるな!」「作戦会議だ」と声が上がる。
ディーノ補佐官はすかさずメリタ補佐官へ問を投げかける。
「メリタ監査官補佐、何人借りられる予定になった?」
「人数は3人なら2日間借りられるとのことです」
「なんだそれは! 全く足りんではないか!」
メリタ補佐官は、「申し訳ございません」と謝りつつ暖簾に腕押しのような反応で、ディーノ補佐官の怒りを緩く躱している。
グレゴリオ隊長は全体へ呼びかける。
「皆、今こそ好機だろう! 相手のリーダーだけは確実に捕らえられる策が必要になる」
ディーノ補佐官が「それでは足りん。全員を――」と言いかけたことを気にせず、グレゴリオ隊長は続ける。
「そこで明日、作戦会議を行う。各々作戦を考えてきてほしい」
衛兵たちの「おおー!」という声が合わさる。
ここの人たちは全体的にスルー力が高い。
「本日はこれにて解散とする」
***
帰り道にマテオと市場で買い物をしていたら、ルイーザ監査官とメリタ補佐官に声をかけられたので途中まで一緒に帰ることになった。
「フレッド、串焼き肉は買えたか!!」
「ああ。パンも」
「それはよかった!!」
「マテオは買えたのか?」
「無論だ!!」
「マテオは何を買ったのかしら?」
「ブラッドオレンジを購入しました!! 姉達への差し入れです!!」
マテオは、赤茶色がかった厚みのある皮がツヤツヤと反射するオレンジを布袋から出してルイーザ監査官に見せる。
「そろそろシーズン終わるわね。食べたくなってきたわ」
「ジュースが美味しいね」
「ジュースね、ありだわ!」
やはりメリタ補佐官はルイーザ監査官に対して、ちょこちょこ敬語がなくなる気がする。
市場の終わりが近くなってきた。
「俺はここで失礼します!!」
「最近忙しそうだな」
マテオも、マテオのお姉さんたちも、両方とも大変そうだ。
「在庫のため、倉庫整理をしている!!
しかし!! 本当に忙しいのは姉達だ!!」
「そうか……」
「お疲れ様でした!!」
早足で帰るマテオを皆で軽く見送る。
「マテオ、偉いわね。家の手伝いしてるなんて」
「ルイーザのお兄さんはしないのかい」
「何もしてないわよ。彼女にフラれたのまだ引きずってて、それしか言わないわ」
メリタ補佐官から、ごっそり敬語がなくなっていた。しかも名前は呼び捨てだった。
「あ、後輩が、メリタのタメを謎に思ってるわよ。いつも丁寧だから」
「階級を弁えている必要があるからね」
「というのは建前で、オンオフがキッチリしてるってことなのよ。
お酒入れれば完全オフになるわ」
「な、なるほど……?」
「それで、君は兄弟はいるのかな」
「え、俺!?」
こっちにその話が回ってくると思っていなかった。いや、あまり回ってきてほしくなかった話題だった。
「俺は……上と下に2人ずつであります」
「5人なんだね。兄弟がいたらどうなるんだろう。楽しそうだね」
「アタシはいらないからもらってほしいくらいだわ。フレッドのとこは仲いいのかしら?」
「いや……」
「ウチも微妙だわ! そんなにいいモノじゃないわよね」
「そうなのかい。ルイーザから聞いてる分には楽しそうだよ」
「気のせいだわ! デリカシーがなさすぎるのよ、ウチのマッチ棒は」
ルイーザ監査官の方は喧嘩するほどなんとやらな兄妹なのかもしれない。
「君が食べてるのは夕飯なのかい」
「夕飯まで時間があるので先に少し食べておいてる感じであります」
買った串焼き肉とパンを食べきるくらいで、俺はアークイラ亭に着いた。
ルイーザ監査官、メリタ補佐官もいる。
「フレッドも目的地がここだったのかしら?」
「え、ルイーザ監査官たちも、でありますか?」
「せっかくだから同じテーブルに座るかい」
「あー……申し訳ありません。それは……」
ルイーザ監査官は軽く詰め寄ってくる。
「ちょっと? 先輩とは飲めないってことかしら?」
「いや、そんなことは……!」
「理由がありそうだね」
メリタ補佐官が訳を聞こうとしてくれたので話す。
「これから、アークイラ亭で手伝いがあるので」
「今からかい」
「はい」
ルイーザ監査官は驚いたらしく、目を見開いた。
「ドゥランが出し渋るのも納得だわ……! 他に貸したくないわね。
働いた後に働くくらい体力無尽蔵で、素直で、いい部下じゃない」
「いや、貸したくないのは、問題点ばかりで迷惑をかけるからで……」
忘れ物とか、服装とか、遅刻とか……。
「何言ってるのよ。問題だけだったら、あんな危ない地域に配置できるわけないじゃない」
ルイーザ監査官は靴音を鳴らし、アークイラ亭の旗を過ぎて扉を開けた。
メリタ補佐官も続く。
「厳しい故にドゥラン分隊長の下は外れと言われてしまうそうだね。
しかし評価もそうとは限らないんだ」
ルイーザ監査官が扉を開いておいてくれたので、お礼を言い、中へ入る。
受付台にはミアベラがいた。
「いらっしゃいませ!」
薄紫の髪を2つに結ったミアベラは、明るい声と笑顔で迎えてくれる。
「ルイーザさんに、メリタさんに……フレッド!? なんだか珍しい組み合わせだね!」
ミアベラは目をまん丸にして驚いた顔になる。
「アタシとメリタは飲むわ!」
「2名だね」
「ミア、俺は荷物置いたら、手伝いに戻ってくる」
「うん!」
ミアベラは元気よく頷く。
「ルイーザさんとメリタさん、こちらへどうぞ!」
ミアベラは席に案内していった。
『お酒入れれば完全オフ』の意味はすぐにわかった。
メリタ補佐官は笑い上戸だった。ツボが浅めの。
ルイーザ監査官はつられて笑うので、そのテーブルだけはずっと笑っている空間だった。




