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第18話 ゴミ拾い

 本日の仕事は、清掃活動である。

 貧民街には、ゴミが多いのだ。


「見ろ、女がいるぜ」

「急にやる気出てきた」

「俺も」

「危なくね? ここガラ悪いからよ……」


 12人の男たちがザワザワと清掃活動に来てくれた人の話で盛り上がっている。

 隊長と補佐官を除いた、俺が所属している分隊の面々だ。


 いつもは5分前のところ今日は10分前に、市壁にある塔の1つへ集合した。

 隊長と補佐官がやってきて、出勤状況を確認する。

 次々と名前を呼ぶ声と返事が長短繰り返す独特のリズムを生む。


 すると、俺たちの横で小さく集まった5人が円になって何か話し始めた。

 こちらの5人は、協力してくれる他部隊の人たちだ。


 よそ見をしていたら、隊長に名を呼ばれた。


「フレッド・ムラトーレ!」

「……あ、はい!」

「緊張感を持て!」

「はい、申し訳ありません!」


 隊長は次の名前を挙げ、最後にマテオの張りのある声が隣で響いた。


 隊長のもとへ女性がやってきた。


 緩いうねりのある緑色の髪は尻尾の付いたお団子にしてあり、横から見ると「9」のような形をしている。

 兵服をアレンジしているようで、ショートパンツに回したベルトでスカートのように広がる腰布を押さえている。


「ドゥラン分隊長、申告いたします。

 私達『第1南城壁塔周辺区域における清掃活動のための補填兵』は1名を除き全員が揃っています」

「その1名は――」


 隊長が言い終わる前に、扉が開く。


 胸元に菱形と菱形を曲線で繋いだような模様があしらわれた鎧を、白い兵服の上から着ている女の人だ。

 この人も兵服をアレンジしている。

 高い位置に1つ結んだ赤い髪と、裏地が赤のマントとミニスカートが歩くたびに遅れて揺れる。


 皆の前まで来ると、全体に向けて「おはよう!」と挨拶する。


「ドゥラン、全隊員揃ってるかしら?」

「はい」


 隊長も敬礼して返事をした。


「ご苦労」


 再びその人はこちらへ話し出す。


「アタシはルイーザ。

 今日は『第1南城壁塔周辺区域における清掃活動のための補填兵』を取りまとめるわ。

 ……長いからこれ以降はお助け隊で統一しようかしら。アンタたちもアタシのことはお助け隊長って呼んでいいわよ。

 ドゥラン隊、お助け隊、よろしく頼むわね!」


 どこかで聞いたことのある名前だ。でも名前被りはよくあることなので気のせいかもしれない。


 ルイーザお助け隊長は歯が見えるニッとした笑顔を全員に送ってから、補填員に向けて言う。


「お助け隊!

 アタシの指示じゃベテランに敵わないわ。ってことでドゥランに従いなさい」


 お助け隊の5人は声を揃えて返事をした。




 俺たちの部隊の隊長であるドゥランさんの指示に従って、持つところが2つあるカゴと銀色に反射するトングを手に清掃を開始する。


 お助け隊は警備要員ではない。

 しかし俺たちはこの区域の警備要員だ。半々になって役割分担をする。掃除に取り掛かり、残りは巡回に勤しむことになった。



 俺とマテオは示された通りの場所へ行った。

 ここは、俺が異動したばかりの頃にはまだ道として成立していた家と家の間の路地だ。

 すっかりゴミ捨て場と化している。

 通る人がいなくなったのか踏み固められてはいないらしく、先端が平にされたトングを使えば砂と虫食いだらけの布がズルリと持ち上がる。


 角が壊れた木箱や木片、ススだらけになったボロ布、藁……



 あっという間に配られたカゴの中が埋まった時、空のカゴを持ったルイーザお助け隊長ともう一人の女性がやって来る。


「そこのドゥラン隊の2人、順調かしら?」

「はい!!」

「はい!」


 お助け隊長へ、俺とマテオは敬礼を向ける。


「カッソが、建物の解体許可が降りても通れない道がありすぎてできないってボヤいてたから、なるたけ今日で片すわよ!」


 カッソさんは、ドゥラン分隊長の上の階級で、小隊長だ。噂によると代々衛兵をしているため、新人のときから小隊長が約束された準貴族らしい。


 お助け隊長は小隊長にも対等に会話をしていそうな雰囲気だ。呼び捨てだし、仲が良いのかもしれない。

 親しみやすい雰囲気を持ち、包み隠さない口振りだが、この人も同じ身分の可能性が高い。


 さっきもドゥラン分隊長に注意されたことだし、いつも以上に気を引き締めないとな。



 お助け隊長は緑色の髪の女性に言う。


「メリタ、アタシの代わりに質問してくれるかしら?」

「私もそう提案しようとしていたところです」


 緑髪の女性は一礼してから、俺とマテオに言う。


「紹介が遅れたね。私はメリタ。ルイーザ監査官、もとい一日お助け隊長の補佐をしているよ。5月からは専ら市場に張っているかな。よろしくね」


 市場の……!

 あれ、また聞き覚えのある名前なような……と記憶を漁る前にマテオの声が狭い路地でこだまする。


「マテオ・ペルガメと申します!!」


 そうだ、俺も名乗らないといけない。


「フレッド・ムラトーレであります!」

「君達は元気有り進捗良しでとてもいいね」


 メリタ補佐官は「さて」と話題を切り替える。


「3ついいかい。

 いくつかの通路が不用品置き場になってしまっているようだね。経路は正しく守れているのかな」

「実は……」


 マテオと俺が来た頃に巡回警備に使っていた道が2箇所ほど通れなくなったこと、迂回していることを説明する。


「その内の1つはこの道なのかい」

「はい!!」

「この先には何があるのかな」

「空き家であります」


 腰のベルトに付けたポシェットから巻かれた紙を取り出すメリタ補佐官。


「屋根が落ちている家とベランダからツタが伸びてしまっている家かな」

「違いありません!!」

「次は清掃活動の頻度についてだね。どのくらいのペースがいいかな。

 人数が増えたから、上はここに注力したいみたいだ。

 意見を聞かせてくれるかい」


 俺は「月に1、2回とか……?」とお茶を濁した言い方をして、マテオも特に思いつかなかったのか頷いた。


「参考にしよう。

 最後に。どうやらここでは職務妨害に特徴があると聞いてね。知っていることがあれば教えてくれるかな」


 それなら、と昨日の出来事である、強盗に脅されて来た女の子のことを説明した。


「そういうこと! わかったわ!

 アタシたちを止めておけば、その間に悪さできるってわけね。いい度胸じゃない」

「記録書を読む限り忙しいほど手が回らない印象だったから充分に因果関係が疑われるね」


 記録書に書かれるのは、事件事故を始め、物探しを頼まれた、迷子を案内した、ケンカを仲裁した、などのその日にあった出来事だ。

 文字でいっぱいになることは、それだけ忙しいことを意味している。


「実際をしゃべれるのがドゥラン以外にもいてよかったわ。

 そっちから質問はないかしら? 体重以外ならどんなのでもいいわよ」


 ……体重を聞かれたことがあるのだろうか。


 マテオはすかさず口を開いた。


「近頃、市場はいかがですか!!」

「先月の窃盗件数、ここを抜いてダントツになったわ」

「月間件数の最大値を更新し続けているよ」

「他はあるかしら?」


 マテオには答えたからか、主に俺に向けてお助け隊長は問う。


「届出のないイベントとか……ありますか?」

「よく起きるわよ」

「近頃問題になっているのは曲芸師たちだね。催している日が特定できていないんだ」


 やはり例の曲芸には手を焼いているらしい。


「あ、肩幅がある衛兵と眉間にシワのある衛兵! ……を知ってますか?」


 変な質問の仕方をしてしまった……。


「よく知ってるわ。友だち?」

「あ、いや……」

「その二人なら心配しなくてもすぐ会えるわよ。話したいことがあるならその時しなさい」


 メリタ補佐官がお助け隊長に告げる。


「ドゥラン分隊長に話をつけるなら早めに戻ることを提案いたします」

「そうね。

 っと、その前に……」


 お助け隊長は、ずっと持っていた空の編みカゴを2つ地べたに置いた。


「満タンなのは渡しなさい。持ってくわ」


 お助け隊長は、俺とマテオの両方からずっしりと重くなったカゴを取って、軽々と持ち上げる。


「メリタ、行くわよ」

「かしこまりました。

 後輩達。私達はこれで失礼するね」


 肩幅がある衛兵と眉間にシワのある衛兵に、すぐ会える?

 それはいったいどういう意味なのだろうかという疑問を払拭する前に、華やかな女性の衛兵2人は遠ざかっていった。




 今日は、午前と午後でメンバーを交代して一日が終わった。

 まだまだ綺麗とは程遠いが、多少は通りやすく見晴らしも良くなっただろう。

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