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第12話 立て看板作り

 ヴィートが眠った後、ミアベラが立て看板を作ろうと思い立った。


 とりあえず俺は、材木屋と鉄工所と画材屋に案内をしつつ、板や角材などのかさばる物を持っている。

 今は画材屋を出たところだ。


 必要なものは揃っただろうかと頭の中で確認していて、自然と前を歩くミアベラに続いた。


 はたと気づく。


 ミアベラが、前を? それは、まずい。


「ミア?」

「なあに?」

「これはどこへ向かってるんだ?」

「え? わかんない……」


 そうだよな……知ってた。


「帰るか?」

「そうだね! お買い物は終わったもんね」


 ここまでの道のりを頭の中で辿る。


「アークイラ亭はあっちだな」

「後ろ? そっか〜、遠ざかってたんだね」

「よし、引き返すぞ」

「うん!」


 危なかった。

 道を知らなくてもズンズン進むのは何故なのだろうか……。




 アークイラ亭に着いて早々、ミアベラはいても立ってもいられないという様子で外へ出た。

 では、立て看板作りにいそしむとしよう。邪魔にならないよう入口付近は避けて作業開始だ。


 2枚の板のささくれ立った部分と表面をサメ皮で滑らかにして、俺とミアベラは全体をハケで黒く塗った。


 その2枚を乾かしているうちに、8本の角材の切断面にある毛羽立ちを整えた。

 板から水気のあるツヤが完全になくなったことを確認して黒色をもう一度塗る。


 触れても塗料が手に付かない頃合いになったので、1枚の板に長い角材を縦に並べ、錐で下穴を開けてビスで固定した。

 補強するため、板の横の長さと揃えた角材を同じようにビス留めする。

 この工程をもう1枚の板でも繰り返す。


「これで組み立ては一旦中断だ」

「この二つをつなげるのは?」

「それは後だ。先に描き込まないとな。組み立ててからだと大変だぞ」

「あ、忘れてた! できあがりの想像がついて、ついワクワクしちゃって。

 絵の具用意してくるね!」



 ミアベラは、太めの字で『トマトリゾット』と書き、あとで絵を描くのか、間を開けて横に『銅貨8枚』と書く。

 さらに、下には『本日のリゾット』『本日のパスタ』と日替わりの料理が足されていく。


 次に、ミアベラは赤の絵の具を多めに使って筆を走らせる。


「私ね、こういう風に物を作るのって、初めてなんだ〜」

「そうなのか?」

「うん!」


 確かに木工などはやったことがなさそうだった。


「買い物に行く前に、フレッドが作ろうか聞いてくれたでしょ?

 それまでは職人さんに頼んで看板だけ作ってもらおうと思ってたんだ~」


 依頼側の視点だ。


「発注した方が良かったか?」

「ううん、楽しいからいいの!」


 ミアベラは鼻歌混じりに手を動かす。


 定番メニューでありおすすめメニューであるトマトリゾットが、みるみるそこに再現されていく。

 見事だ。


 最後に、下にあった空白に『アークイラ亭』という文字と、トレードマークとなっている旗と同じ鷲が描かれた。


「どうかな?」

「すごい……」

「そう? ありがとう!」

「熟練の職人みたいだ……!」

「大げさだよ~。……あ、でも、広告なら作ったことあるよ!」

「そうなのか?」

「うん! ほら、お客さんって他の領から来ることがほとんどでしょ?

 だからね、ここにはこういう宿屋があるよって伝えてたの!」

「なるほど」


 当然だが、数年前までは客層も集客方法も宿屋としてのものだったのだ。

 しかし通行税の上昇により、経営方法や戦略などの長年培ったノウハウが通用しなくなったということか。


「あ、でも今はもうやってないよ。

 色々なことを教えてもらう前にうちがこうなっちゃったからよくわからないけど、広告を置いてもらうにはかなりお金がかかるみたいで……。

 いつかまたできたらいいな〜!」

「……そうだな」



 それから、他愛のない話をしながら乾くのを待っていると、アークイラ亭の扉が開きオリアーナさんが昼食を伝えてくれた。



 食事の後は、作業を再開した。


 蝶番をビスで取りつけて、角度を調整する。


「これくらい開いていてほしいかな。

 あれ? このままだと、パタンッて広がって立ってくれないみたい」

「この金具を付ければ、立たせられるぞ」


 先の曲がった金属棒とヒートンが、輪のように丸められた部分で連結されているものだ。


「これは?」

「あおり止めっていうストッパーだ。今回は立て看板が開きすぎないようにする」

「どう使うの?」


 ミアベラに手順を説明した。


 看板を横に向けた。

 元角材の真ん中に、あおり止めのヒートン部分とヒートンをねじりながら挿した。


「これであってる?」

「あってるぞ。こうやって――」


 あおり止めの金属棒の曲がった先を、もう一方のヒートンの輪に引っ掛けると、開き幅が固定されて自立した。


 これで完成である。


「できた~! ヴィーちゃんビックリするかな?」

「ああ、きっと驚くぞ」




 ヴィートは5時ごろ、夕食にようやく起きてきた。

 寝ぼけ眼だったが、ごはんを食べて言葉数が戻ってきた。


「ヴィーちゃん、来て!」


 ミアベラはヴィートを外へと誘う。


 扉を開けると、外に設置した立て看板がある。

 裏には何も書いていないので、表側に回る。


 横からだと『A』の形をしている、スタンダードな四本足の看板だ。

 ヴィートよりも20センチくらい高い。


「おおー……素敵です! おねえさまが作ったのですか?」

「フレッドと一緒に作ったよ!」

「俺はやり方を教えただけなんだ。ほとんどミアが組み立てたんだぞ。

 絵とか字もすごいだろ? これを描いたのもミアなんだ」


 食べたばかりだというのに、見ていたらお腹が減ってきた。

 それほどのクオリティだ。


「素晴らしい表現力です。肖像画や壁画を依頼されてもおかしくありません」

「本物と見間違えそうなくらい上手だ」


 ミアベラは軽く頬をかいた。


「そんなに褒められたら照れちゃうよ……えへへ……」


 そしてミアベラは目を細める。


「ありがとう、嬉しいな〜!」


 暗くなりかけた空の下で、赤く頬を染めて笑顔を輝かせた。



「それにしても、ヴィーちゃん、よく知ってるね! 肖像画とか壁画とか!」

「……通りすがりの衛兵さまが話しているのを聞きました。聞いたことはなかなか忘れませんので」


 ヴィートはニコニコとしながら、玄関の扉を引いた。

 しかし、この扉は重いので、どんなに体重をかけてもヴィートひとりでは開けられないようだった。


「おにいさま、開けてください。少しも動きません」

「はいはい……」


 開いてあげると、ヴィートは即座に本格的な寝る支度を行うのだった。

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