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第11話 解は街中にあり

「帽子屋は……と」


 この先にあるはずだ。

 歩き出そうとしたが、ヴィートが動かなかった。


「ヴィー、行くぞ?」

「おにいさま、帽子はいりません」

「急にどうしたんだ?」

「まだ日が強くないので想定よりも暑くなかったのです」

「そうか?」


 しかし後々必要になるなら、今買ってもいいだろう。昼にかけて気温だってあがるのだから。


 そう言おうとすると、ヴィートはすかさず続ける。


「今回の目的はそれではないので置いておきましょう。

 それよりもおねえさま、昼間の集客の方法は見つけられそうですか?」

「うん! それにね、もしはっきりした答えが見つからなくても、

 ヒントは見つかると思うよ! 今はうちと比べてみてるの!」

「そうなのですね。とてもいいと思います」


 ヴィートは少しの間考えると、スンと鼻を鳴らす。


「おにいさま、あちらにお食事屋さんがありますか?」

「隣の通りにあるぞ。行くか?」

「はい」


 ヴィートは俺から離れて、そっと薄紅のスカートの裾を引く。

 少し羨ましそうにこちらを見ていたミアベラは嬉しさを笑顔に滲ませた。


「おねえさま、行列ができていたり入りたくなったりするようなお店を

 探してみましょう」

「うん、そうだね!」

「おにいさま、先導は頼みますね」


 ヴィートが手で示す前方へと俺は出る。定期的に振り返って、2人が来ているか確かめつつ進む。




 食べ物を売る店舗が並ぶ通りにやって来た。

 がっつりと量を提供するところと軽食や菓子を売っている飲食店が混在している印象だ。

 数多くの建物から飛ばされる声は人々の耳へ、漂う食べ物の匂いは鼻へと届き、興味を引かれた人はその店内に入る。




 俺たちが何軒かを横切った際、どこからかオリーブオイルの匂いがした。何かを炒めるのに使っているのだろうか。


「おにいさま、おねえさま、シュワシュワと音がしませんでしたか?」


 俺とミアベラが耳をそばだてるが、人の話し声と足音で埋もれてしまっている。

 子どもなので耳がいいのか、背の高さも関係あるのか。


「聞き取れないな……」

「ごめんね、ヴィーちゃん……」


 何故かヴィートは慌てた顔になる。


「……いい匂いはしました……よね?」

「したな」

「うん!」


 俺とミアベラが肯定したのを認めて、ようやく一呼吸ついて質問してきた。


「どのお店からだったのでしょうか?」

「えっと……」


 俺は後方を向き、ミアベラは辺りを見渡す。

 それらしい看板を探そうとしたときに

「オリーブオイルでじっくり火を通した焼き野菜!

 野菜本来の甘みと旨み、それにイワシの内蔵の塩漬けとニンニクを使ったソースがクセになる! うまいよ!」

と聞こえてきた。

 店の前にいた人が、他や行き交う人の靴音に負けじと威勢よく声を張り上げていたのだ。味に自信があると顔に書いてある。


「だって、ヴィーちゃん。聞こえた?」

「はい。焼き野菜だったのですね」


 ヴィートはそこで一旦言葉を区切った。


 そして改めてミアベラを見上げる。


「あちらは賑わいがありましたよね。おねえさま、どうしてだと思いますか?」

「おいしいから……だけじゃないよね。

 あの店員さんの声を聞いて、食べてみたいと思ったから?」

「そうですね。聞いてどのようなものが提供されるのか想像がつきますからね」

「焼き野菜が好きな人も、ソースの味付けが気になった人も、

 入ってみたくなるってことだよね」


 ミアベラの言葉を聞いて、ヴィートは頷きながら返す。


「では声かけをしていなかったらどうだったでしょうか?」

「う〜ん……いい匂いがしたのはどこかわかんなかったかも?」

「お客さまにこういったお料理があると主張しながら、

 お店の存在を認識してもらっているということですね」

「そっかあ……知ってもらってるんだね」


 ミアベラの納得したような発言に、ヴィートはもう一度胸をなでおろした。



「人が多いところがあるね」


 ミアベラが指差す先には、列ができている。長くはないが、店内には収まらないらしい。


「高価そうな外見のお食事屋さんです」


 こじんまりとしていながら、色ガラスがついたドアと、惜しみなく使われたレンガが特徴的だ。


 そうして見ていると、ジュウウウッといういい音が建物内から立つ。

 思わずお腹が空くような、肉を焼く音だ。


 呼び込みの声が耳に飛び込んでくる。


「ルビーベアのステーキはいかがですか!

 値段はなんと、銅貨8枚! 銅貨8枚です!

 当店自慢のステーキは、タマネギのすりおろしを塗り込んでいて

 やわらかく仕上がってます!」


 一般的なランチが銅貨6枚なので銅貨2枚分は高いが、ステーキと考えるとかなり良心的な価格設定だ。

 朝ごはんと昼ごはんを1食にまとめてとるにもまだ早い時間帯だというのに、もう人が並んでいる。ということは昼になると相当混み合うのだろう。


「銅貨8枚だと、うちと同じだね」

「あの店構えだと、初めて来たときには先に値段がわかった方が安心ですね」

「そうだね! ……あ、確かにそうだよね!」


 ミアベラは後半、何かに気づいたような声でそう口にした。



「あちらは人を集めているのではありませんけど、工夫のひとつだと思いますよ」


 ヴィートが眩しそうに手で目もとに影を作りつつ眺めるのは、『準備中』の札をドアに掛けている店舗だ。


「それじゃあ、あの看板もそうかな?」


 外に出されている立て看板を、ミアベラは指し示す。

 両面に情報が掲載できるタイプだ。片面には店名と営業時間が、裏面にはメニューが書かれている。

 その前には3人組の客が、どれを頼もうか悩んでいる。



 そうやって、あれはこれはとアイデアを探し当てているうちに、もう商店街の端まで辿り着いてしまった。


「ミア、まだ見たいものはあるか?」

「もう大丈夫かな!」


 大きな収穫があったようだ。良かった。


「でもね、買って帰りたいものがあって――」


 ミアベラの話す横で、ヴィートはあくびをした。


「あ……失礼しました……」

「いいんだよ〜。疲れたよね、まっすぐ帰ろ!」

「何か買うのではないのですか?」

「あとで買うからいいの!」



 俺たちは道を戻り、目に馴染んだ白と明るいオレンジの壁を視認した。

 鷲が羽を広げた姿を描いた旗が揺らめいている。


 すっかり疲れてしまったヴィートは、髪に籠もった熱を逃がすように手でかきあげていた。

 やはり熱いのではないだろうか。


 アークイラ亭の扉を開けて、まだまだ元気なミアベラとぼーっとした様子のヴィートを入れる。


「ただいま!」


 ミアベラが言うと、オリアーナさんが返す。


「おかえりなさい」


 そのやり取りをしている傍を、ヴィートが脇目も振らずに歩いて過ぎた。

 あれはきっと部屋を目指している。


「あら……ヴィート君たら、とても眠いみたいね」

「鍵を開けてくる」

「フレッド君も忙しいわね」



 ヴィートは淡々と階段を上りきり、立ち止まって足を休める。


「大丈夫か?」


 まぶたが半分閉じている状態のヴィートは頷いて、廊下を歩き出した。


 俺が角部屋の鍵を開けると、ヴィートは部屋に入って靴を脱ぐ。


「外から帰ってきたら、手を洗ってうがいをするんだぞ」

「……はい」


 俺とヴィートは部屋にある洗面所で手洗いとうがいを済ませる。

 まだ身長が低くて洗面台に届かないヴィートには、踏み台を用意している。

 ヴィートは一直線にベッドに向かった。


「堅牢な……。お布団です……」


 何が言いたいのか理解はできないが、それだけヘトヘトになっているのだろう。


 ヴィートはベッドに乗って倒れ込む。


「ヴィー、お疲れ」


 間もなく返事の代わりに寝息が聞こえた。


 ヴィートはミアベラにとって発見があることに重きを置いて行動していた。

 一足先に見つけた事柄を、ミアベラに伝えていたように思える。

 その優れた観察眼は、自分の安全を確保するために養ってきたのだろうか。

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