今日も蝶は舞う〜私は可愛い婚約者のために剣を振るいます〜
初めて書いたので下手ですが、温かい目で見てくださると幸いです。
「なぁ聞いたか?騎士団長のご子息が闘技大会で優勝したっていう!剣さばきも身のこなしも流石は騎士団長のご子息って感じだったらしいじゃん」
「何言ってるの?闘技大会を優勝したのは、騎士団長のご令嬢の方だよ?ご子息の方は平凡だけど、ご令嬢の方がお父上に似て健の才能があったみたいだね」
「え?ご令嬢の方なのか?騎士団長の子供としか聞いてなかったからご子息だと思ってたよ」
「まぁ普通はご子息よりご令嬢が強いなんて思うわけないよな。確か名前は………」
この国の王族筆頭騎士を数多く輩出してきたハルステッド侯爵家が王家から授かったとされる剣の紋章を付けた馬車がガラガラと音を立てながら街の中を走っている。
行き先は、国有数の名門校ヘブンティアーカレッジ。多くの貴族の令息令嬢が通う寄宿学校だ。この国の貴族が通う学校は二通りと言っても差し支えない。一つ目は、今まさに向かっているヘブンティアーカレッジ。もう一つは、王族筆頭騎士、近衛騎士を数多く輩出しているダルフェ騎士養成学校。どちらも歴史に名を残した逸材を育て上げたと貴族の令息令嬢はこぞってこの学校へ通わされるのだ。そして、私エミリア・ハルステッドもその中の一人である。そんな訳で私はヘブンティアーカレッジへ向かう馬車に乗っているのだ。
「そう言えば、エミリーは何でダルフェの方に行かなかったの?エミリーのお父様もお兄様もダルフェ出身じゃなかった?」
「そうだけど、お母様はヘブンティアーカレッジの卒業生だから何も問題ないのよ?それにダルフェに通っているのはほとんど男の人じゃない」
「あ!確かに。エミリーがダルフェ行ってたら僕毎日エミリーに会えないし、他の男に取られちゃうよ!それは嫌だ。エミリーがヘブンティアーカレッジに通うことにしてくれて良かったよ!昔からエミリーは、お父様やお兄様の様になりたいって言ってたからダルフェに行くんじゃないかと思ってたんだ」
この早とちりしている少々あどけなさが残る少年は私の婚約者で、アルフィ・クレメンス。
彼とは、お互いの父親が学友だった事もあり、幼少の頃より婚約を交わしている。
さらさらな髪は、日が傾き徐々に夜に変わるのを思わせるような深みがある青紫色で、大きな瞳はサファイアを連想させる。小柄な上肌も白く儚い印象を受けるのは、自然なことだと思われる。
実際彼の容姿はとても人の目につき易い。そして、華奢な体。彼は幾度となく危険な目に合ってきたのは仕方ないことなのかもしれない。
「エミリー、学校だからって気を抜いちゃダメだよ?エミリーはかわいいから何処かの誰かが襲ってくるかも知れないからね!いざと言う時は僕が助けてあげるからね」
「ありがとう。でもアルも気をつけるのよ?」
「うん!勿論だよ」
今まで襲われてきたのは私の方ではなくアルの方なのに、アルは自分は全く問題ないと言う様な顔をしている。この子は本当に理解しているのだろうか?この国の中枢を補っている宰相の息子とは到底思えないなと思っていると、私が今後の学校生活を不安に思っていると思ったのか、
「僕が守ってあげるからね!」
っと言いながら満面の笑みを向けてきた。
………っ!笑顔がかわいい。そして眩しい。
笑顔がかわいすぎて咄嗟に顔を逸らしてしまった。彼の笑顔を見た人はみんな腰を抜かすと聞いた事がある。私は流石に腰を抜かす何てした事はないけど、アルの笑顔は花が咲いた様だと思う。
「えっ?ちょっと、何で顔を逸らすの!エミリーのかわいい顔が見れないじゃないか!」
そう言い、頬を膨らませながら私の顔を覗いてくる。
かわいいのはアルの方だ!何て言うと怒るから言わないけど、私が顔を見せないから何かダメだったのか考えている様で表情がくるくると変わっていく。
私はそう言うところが我が婚約者のかわいいところだななんて考えながら窓の外を見るのだった。
学校に着くと入学前に入寮を済ませておこうと早めに来た学生達でいっぱいだった。
寮は男女別で、爵位ごとに階が分かれていて、基本爵位が高い方が階も上階になる。
この国の貴族は5等級で成り立ってるから、上から王族、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順番で一番下の階は使用人や、稀にいる平民の子が使用している。
私は、侯爵令嬢なので五階に部屋がある事になる。アルは勿論男子寮だが、公爵子息なので私より一階上の六階だ。あの筋肉のない体で自分の部屋に行くだけで六階まで登らないと行けない何て、アルには辛いだろう。
「アル、寮は男女別だから私こっち行くね?」
「え!エミリーもう行っちゃうの?僕もっとエミリーと一緒に居たいんだけどなぁ。まぁ寮だから仕方ないよね。じゃあ、また明日ね!」
「うん。また、明日!知らない人にはついて行ってはダメよ!」
「僕はもう子供じゃ無いんだから大丈夫だよ。」
そうアルは言い、大きく手を振りながら使用人を引き連れて寮へ入っていった。
アルと別れた後、私は自分の部屋へ行き荷解きを行なっていると、クレメンス家のメイドで、小さい頃からアルの教育係をしていた事から顔馴染みであるルナが血相を変えて私の部屋に入ってきた。
「エミリア様大変です!またアルフィ様が誘拐されました!」
「っ何ですって!?」
アルがまだ誘拐されたらしい。きっといつもの如く使用人も付けずに一人で出歩いたのだろう。
私は侍女のマリアにお茶を用意するよう頼み、ルナを落ち着かせるように椅子に座らせてから何故そんな事になってしまったのか聞くことにした。
「ルナ、また何でアルが誘拐されたの?」
「はい。先程我々使用人がアルフィ様の荷ほどきをしていたのですが、手が空いてる使用人が居らずアルフィ様が暇を持て余してしまい、使用人の隙を突いて逃げ出し、敷地内を見学しようしていた様なのですが、敷地内は現在入学式前なので警備が緩く、賊が侵入していたらしく、いつもの如くアルフィ様は誘拐されたと。」
「そう。アルの居場所は特定できているの?」
「はい。影のものが跡をつけたので、居場所は分かっているのですが、敵が思いの外多く突入できないらしく、こちらもアルフィ様が何かされていないかと気が気でないのです。」
「分かったわ。敵はどれくらいかしら?」
「手馴れが五人、他二十人ほど居るそうです。こちらの戦力は騎士が三名、影のものが三名です。」
「それなら大丈夫ね。今すぐにアルを迎えに行きましょう。」
「今からでございますか?敵に手馴れが五人もいるのでこちらの戦力では太刀打ちしても勝敗は五分五分でございますよ?」
「大丈夫よ。だって私がいるんだから」
私は、不安そうなルナを安心させる様に微笑みながら、まだ片付けの終わってない荷物の中から剣を出すのだった。
今日学校へ着いた時はまだ日が高く登っていたのに、その日はすっかり沈んで秋の肌寒さをより強調させる。
敵地は思いの外遠くなかった。
学校から森の方へ馬車で約十五分ほど行ったところで、森の外れにある廃墟が敵の本拠地になっているようだ。
敵の本拠地の廃墟は一昔前の貴族の屋敷らしく、割と大きい作りをしており、たくさん部屋があるので、アルの居場所特定するのは少々骨が折れそうだ。
なんて考えていると、クレメンス家の騎士長のフランキーがどう突破するかの説明を始めた。
「ドア付近に手馴れ一人と、雑魚五人人。中に入れば手馴れがあと四人と雑魚が十五人いる。最初のドアは一番経験のある俺が請け負うからあとの手馴れはカイとルカ、影のもの達で頼む。エミリア嬢は、俺たちに着いてきてくれ。基本は戦わないでくれて良い。こちらが手に負えなくなったら闘ってくれ」
「「了解!」」
「「「御意に」」」
「ええ。分かったわ。アルに会ったとき怪我でもしてたら逆に心配かけてしまうものね」
「ああ。そうしてくれ。だが、いざと言うときの為に剣の準備もしておいてくれ」
「勿論よ。私はいつでも闘えるわ」
私の言葉を聞いてフランキーは分かったと頷き、全員の顔を見てから小声で行くぞと声をかけた。
するとフランキーが一気に敵のいる玄関へ走り、敵が気付くのを確認してからこちらが屋敷に侵入出来るように森の奥へ遠ざかって行った。
しばらくすると玄関にいた敵は手馴れとその他三名がフランキーを追い森の方へ走って行った。
フランキーが手馴れを釣ってくれたおかげでこちらは難なく見張りの二人を倒して屋敷に入る事に成功した。
屋敷の中は灯りが少なく点々として視界は不晴明だ。
それが返って神経を敏感にさせ、少しの物音をも聞き取ってしまう。
少し歩くと、ドアの隙間から灯りが漏れてるのを見つけた。そこの部屋には、手馴れ二人とその部下であろうもの二人が晩酌をしているようで、手馴れ二人の話し声が廊下まで聞こえてきた。
「今回の獲物は上玉だったなぁ。流石はお貴族様だよなぁ。」
「ギャハハハ。本当傑作だぜ。何処の貴族の子供がしりゃあせんが、あれはマニアには高く売れそうだ」
「今頃、ボスがたっぷり可愛がってる頃だろうよ」
「そらぁいいや。俺も後で可愛がりにでも行こうかねぇ」
「それ良いっすね。俺もお共しますぜ」
ん?今なんて言った?手をつける?それってやばいんじゃ。
驚いて周りを見ると騎士の二人も影の三人も苦渋に満ちた顔をしていた。
どうしようか騎士に尋ねようとした瞬間
「誰だ!」
手馴れの一人がこちらを見ながら叫んだ。
すると、他もこちらに気づいたようで、剣を抜いていた。
次の瞬間騎士の二人手馴れと一対一で闘い始めた、手馴れの部下は五人いた様で影二人と闘っていた。
カキンッカキンッと音が鳴り響く中、私は的に見つからないように身を潜めながら、ざっと周りを見渡しアルがいない事を確認して、一人私を守るために残ったであろう影と共に先へ急ぐ事にした。
アルが危ない。アルを助けなきゃ。
焦っては敵の思う壺だと、焦るのを押し殺しながらもでも、やっぱり早くアルのもとへ駆けつけたいと思ってしまうのだ。
私と影の一人が先に進むと、先ほどの部屋で闘ってる音が他の階にも聞こえていたのか上の階から三人ほど剣を持って降りてきた。
階段を降り切った途端全員一斉に倒れた。影のものを見るとニッコリ笑いながら、寝ているだけですよと教えてくれた。
この人はクレメンス家の影の中でも一番強いらしく、その技術には感服だと思ってしまったのは多分私だけでは無いはずだ。
二階に上がると、そこには報告に無かった影の様な者たちが五人も暗器を構えて待ち構えていた。
きっとこの人たちもさっき手馴れの一人が言っていたボスの配下なのだろう。
どうするのかと、横にいる影を見ると真剣な表情をしてこちらを見ていた。
「エミリア様、この者たちを一気に排すことは少々難しいと思われます。まだ、この先影の様な者達はいないとしても、手馴れ一人と、部下七名ほどいると思われます。貴方様なら行けますよね?」
「ええ、勿論よ。ここは任せたわ」
頷いて見せると、影のものは満足と言った顔で、暗器を構え出した。
「さぁここは私が相手だ。五人まとめて掛かって来なさい」
そう言うと影のものは一気に敵との差を縮め、敵の首に暗器を当てていく。
「さぁエミリア様行きなさい。アルフィ様がお待ちです」
そう言われながら私は、アルがいるであろう屋敷の奥へ進んで行った。
「先輩からの指導の時間と行きましょう」
そう遠くで聞こえている気がした。
私は影の一人と別れ一人になると、手馴れの部下であろう男達が八人待ち構えており、その奥には扉が一つあるのが窺える。多分この扉の向こうにボスと言われる男と、アルが居るのだ。
そう考察していると、手馴れの部下達が話しかけて来た。
「何だよ。女じゃんか。俺ら八人もここに居なくて良かったんじゃない?何なら俺一人でも問題ないっしょ」
「それなぁ。どうせ闘っても結果見えてるからお嬢ちゃんも観念しなよ」
「剣なんてまともに握ったことも無いのに頑張っちゃって、かわいいねぇ」
手馴れの部下達は検討外れな事を私に言ってくる。
正直言うと、こっちの方が聞きたい。私一人で問題ないでしょって。まぁ、怒らせるだけだから言わないけど。
「では、証明していただきましょう。私が闘って負けると言う」
「っん、あっ当たり前だろ!」
きっと、私がにこやかに笑いながら闘う宣言をしたから度肝を抜かれたのだろう。
そう言ってられるのは今のうち。
「ッフ」
敵が度肝を抜かれている間の一瞬で敵に近寄り急所を突く。その横手馴れの部下も仲間に気を取られている間に突く。流れる様に背後から襲ってくる敵を斬り、舞を舞うかの様に右、左、後ろ、と次々に敵を斬っていく。
剣を切る音ビュンビュン鳴っている。
そして、最後の一人が左から襲ってくるの軽く躱し、流れる様に斬った。
気付くと辺一面真っ赤に染まっていた。
「あと、手馴れ一人かしら」
ふと呟くと、ガダンッと音がした。音のした方を見るとボスと言われていた男と思われる人物が驚きの表情を浮かべながらこちらを見ていた。
「これを、お嬢ちゃんがやったのか?ハハハッこれは傑作だ。まさか誘拐した坊ちゃんにこんな猛者が付いていたとは」
「っあ、アルを返しなさい!さっき下にいた男達がボスが今頃可愛がってるって言ってたわよ。手を出したりしていないでしょうね?」
「おぉ、怖い怖い。あの坊ちゃんアルって言うのか。中々良いお顔で、随分と可愛がらせてもらったよ」
その言葉に私の頭が真っ白になったのが分かった。今にも怒り狂いそうだが、それを何とか抑えて、アルを助ける事に集中するのを心がける。
「ふぅ。さっさとアルを返してもらうわよ」
「強い女は嫌いじゃないぜ。処で、こんな人数意図も簡単に倒してくれちゃって、お嬢ちゃん何者だよ」
「デテカルト王国騎士団団長が娘エミリア・ハルステッド」
「んなっ、ハルステッドだと!?はぁー、なるほどな。只者では無いとは思ってたけど、まさかそこまでの猛者だったとは。手加減なんかしてたらこっちが殺されちまう。って事で、手加減なんかしないから」
男はそう言い残すと、私に斬り掛かってきた。
瞬時に躱すと、すぐさま軌道を変えて剣が襲い掛かってくる。
スッと屈みながら間合いに入りすかさず斬る。
斬ることはできた様だが、振りが甘かった様で傷は浅い。
くっ、もっと大きく振れば良かった。
「くっ、っはぁはぁ、流石はハルステッド。やるじゃねぇか」
「っはぁはぁ、ふふっ恐縮ですわ」
私がそう言うと、男が真っ向から斬りかかってくる。
反射的に後方へ跳んで男の一撃を躱す。
着地すると、カランと音がして下を見ると、先ほど闘ったこの男の部下の剣が落ちていた。
さっと拾い、自分の剣を持っている手とは逆の手で、持ち構える。
私が一瞬下を見たのを隙と見た男が襲いかかってくる。
「よそ見してんじゃねぇぞ!それが命取りになるんだぁ!っん!」
男の攻撃を剣を交差し受け止める。
その反動で男の剣を押し返し、右で斬り、流れるに身を任せ左で男をさらに斬る。
「ハアッ!」
「っう、はぁはぁま、まだだ。ハアッ!」
バレエを踊るかの様に身を捻り、男の攻撃を躱す。
最後に男の首を捉える。
「はぁっはぁっはぁ、くっ、まさかこんな歳いかない子供に負けちまうなんてな。」
男がそう言い残すと、背後からクレメンス家の騎士と影のもの達がやって来て、男の剣を取り抵抗できなように手を縄で縛り始めた。
「エミリア様、お怪我は有りませんか?お一人で随分倒した様ですが」
騎士長のフランキーが辺りを見渡しながら話しかけて来た。
周りを見ると、確かにフランキーが言う通り八人の男が倒れている。
「ええ、怪我はないは。それよりアルを!」
慌てて奥の部屋の扉を開けると、そこは随分と豪華な作りをしていて、金と赤で統一された家具が並んでいた。
中は入り奥へ進むと、豪華なベッドでぐっすり眠っているアルの姿があった。
「アル!アル!ねぇ起きて!」
「……っん?」
「ア、アル!良かった。無事だった!アル、男達に何かされてない?」
「…ん?ここは?あれ、僕もしかしてまた誘拐されちゃったの?」
アルは眠そうにまぶたを開けると、周りを見て驚いた顔をしてパッとこちらを見た。
「ええ、誘拐されたって聞いたから助けに来たのよ?それで、何もされて無いのね?」
「うん!勿論だよ。むしろ、寝ていたから誘拐された事にも気づかなかったよ」
本当に何も無かった様で、アルは寝過ぎねって言いながら笑いかけて来た。
相変わらず我が婚約者様はお騒がせだ。
「でも、無事で良かった。」
私がため息混じりでそう呟くと、ふわっと手が何かに包み込まれた。
何かと思い咄嗟にアルを見ると、今にもとろけそうな笑顔で私を見つめていた。
「エミリー、助けてくれてありがとう」
「っう、うん。」
恥ずかしくなった私は頷きながら俯いた。
「あっ!エミリー耳まで真っ赤だよぉ。ふふっ」
そう言うとアルは私の事を抱きしめながら顔を耳元まで持ってきた。
「エミリア、可愛い。愛してるよ」
我が婚約者様は、お騒がせで、天然で、自由奔放だけど、妙なところで鋭い。
これだから私は婚約者様には勝てないと、心の中で思うのだ。
この様子を部屋の外の大人達が生暖かい眼差しで見ているとも知らず。
読んでくださってありがとうございます!




