Jealousy
昨夜の記者会見の反響は凄まじいものであったそうだ。月曜日の朝から社の電話は鳴りっぱなし、取材の問い合わせも殺到しているとの事。
社長をはじめとする『信玄の幻の湯』探索隊が山梨県の景徳山の中腹で発見した露天湯はあっという間にネットの検索数一位となり我が社は一時的に『時の社』となる。
記者会見と祝勝会で昨夜は山梨の旅館で過ごした小さな旅行代理店『鳥の羽』の企画部部員と俺たちは今朝旅館を立ち、そのまま有楽町にある会社に出社した。
昼過ぎには取材の記者達が社に押し寄せ、その対応にてんてこ舞いだった。専務取締役でありこの企画の総責任者の俺も幾つか取材に応じたりする。TVカメラでの取材にも応じざるを得ない状況である。
一方で本業の予約件数は創立以来の最多を記録し、師走の忙しい日々にも増して、今日一日全社員が途轍もない忙しさを体験した特筆すべき日となった。
* * * * * *
三日ぶりに帰宅するとお袋と一人娘の葵が玄関まで駆けつけて来て
「TV観たわよアンタ! ビックリしたじゃないさ!」
「パパっ 超カッコ良かったし!」
こんな迎えられかたは初めてだ、ちょっと緊張してしまう。
「お、おお。取り敢えず、ただいま。疲れたわー」
「ハイハイハイっ ビールねっ」
「洗濯物出しなさい、ちゃちゃって洗っておくからさ」
かつて経験の無いもてなしを家族から受け、少し照れる。いつもは俺は最後に風呂を使わされるのだが今宵は珍しく一番風呂を堪能する。パパの浸かった後は流さなくちゃ入れない、中三の受験を控えたナイーヴな葵の言うがままに風呂を使ってきたが、今宵は特別らしい。まあ、有難くゆっくり入らせて貰おう。
父親の入った風呂には入れない! 一時期は『俺が稼いできた金で養ってやってるんだ。生意気言うな!』と叱りつけていたのだが、ある知り合いにこう窘められた…
「それはね、近親相姦防止の為に思春期の女子に備わった特殊能力なんだよ」
「は… 何だって?」
「父親の匂いに拒否反応を示すホルモンが出るんだって。娘に激しく拒否されれば父親は娘に手を出さなくなるでしょ?」
いやいやいや… 俺はコイツのオムツを替えた事あるんだぞ、確か。覚えてないけど。いくら年頃となったってオンナを感じる訳ないって…
「でもキンちゃん、葵のこと余り構ってなかったでしょ?」
今の旅行代理店の前は銀行員だった俺は忙しさに感け、育児を殆ど手伝わなかった…
「年少期にかけた愛情と思春期の反抗は反比例すんだって。どーするキンちゃん」
甘んじてその反抗を受けよう。その覚悟はできている。気がする。もう既にこの春頃から俺に嘘はつく、本当の事を言わない、言葉遣いが悪くなる、父を蔑ろにする、等々立派な反抗期の真っ只中である。
そんな彼女が今夜ばかりは俺を父と認め、崇め奉ってくれている。
「もーさー、さっきからトモダチからの連絡引っ切りなしだし! 葵のパパ、ニュースに出てるよって! メチャ渋くてカッケーって! チョー気分いいんですけどっ」
「はー。里子ちゃんに見せてあげたかったわー」
「それは言わない約束よ、お婆ちゃん…」
三年前に急逝した妻をネタに漫才するなし。疲れ切った俺は笑う元気もなく、冷えたビールをただただ喉に流し込む。
久し振りのお袋の夕食を平らげた後、『居酒屋 しまだ』に行くべく家を出る。四ヶ月前に骨折した左足のリハビリを兼ねて、ゆっくりと歩いて行く。昨日までの厳しい山梨の夜の寒さとは無縁の東京下町のホッとする寒さの中、ポツポツ見える星を見上げながら両脚に均等に力がかかるように歩く。
二十分ほどで店に着く。この四月から通い始めた居酒屋。この四月から知り合った女店主。そして今や俺の無くてはならないパートナーとなった、島田光子の一献を受けるべく、暖簾を潜る。
「へいらっしゃい! キンちゃんお疲れ様だったね! TV観たよ!」
威勢のいい声で俺を迎えてくれる従業員の小林忍。大昔この地域の伝説の不良だった光子の舎弟、いや舎妹として光子に付き添い始め、今に至る。下町気質の面倒見のいいオバはんだ。
「いよっ キング様! すっかり有名人になっちまってよお。お、今日は奢りか? ごっつあんでーす!」
中学からの幼馴染、左官屋の大将、高橋健太。俺と光子の『結びの神』だ。下町気質の面倒見のいいオッさんだ。
そして厨房の奥から、ゆっくりと現れるその姿… バンダナを巻いた後ろから垂れ下がる金色のポニーテール。化粧っ気ゼロなのに美しく整った細面。胸はアレだが抜群のスタイル。どれをとっても53歳になったとは到底思えない。
「おっ アンタ。お疲れさん。お袋さんに飯食わしてもらったか?」
「ああ。ずっとここで夕飯食ってたから、久々にお袋の味堪能してきたわ。」
「そか。よし、まあ飲め。ジョッキ一杯だけだぞ」
骨折治療期間中は彼女によって摂取アルコール量をコントロールされている。もしこれを破ると容赦ない制裁があるので俺はしっかりと守る。
彼らに会社でのてんやわんやの騒動を話し、ちょっぴり同情してもらう。従業員五十名程の規模の会社に突如舞い降りた幸運。社長以下、それで天狗になる者はいないと信じているがこれからしばらくは落ち着かない日々となるだろう。
「ま、アンタも少しのんびりしなよ。年末だからって忙しかねーんだろ、重役っつーのは?」
「まあな。リハビリもサボりがちだったし、ちょっと仕事から離れてノンビリするかな」
「いーねーキンちゃん。あ、私クリスマス彼と旅行だからさ、その間ここ宜しくね!」
ドサクサに紛れてとんでもない事を言いだす忍に
「あのなあ。俺がこの店で何の戦力になるというんだ。自慢じゃないが、コメも炊けないぞ…」
光子の目がキラリと光る。
「ふふふ。アタシがキッチリ仕込んでやるよっ アンタに炊事、掃除の極意をさ。ひひひ」
「あっ 姐さん、それって『アタシ色に染める』ってヤツですかっ いーっすねえ!」
「あれ? 軍司そういうの出来なかったっけ? まあ、教えればキッチリやりそーだな」
自慢じゃないが、中学の家庭科の授業は得意であった。料理もやれと言われればそこそこやれる自信は、まあある。筈だ。
「健太お前、意外にやりそうだな、料理とか?」
「やるよー。得意だよー。お前にはつくらねーけどなっ 今度、葵ちゃんに…」
「人の娘に手出すな。口出すな。皿出すな!」
若い女が大好きな健太は最近色気付いてきた葵にちょっかいをかけようとしている。ま、実際手を出したら、俺より先に光子が健太をバラバラ死体にして木場のシャコに食わせるだろうが……
「そー言えばアオジル、翔と一緒にちょくちょくなんか作ってんぞ、ここで」
「すまんな、花嫁修行みたいな事させ… って、はあ? おま… ハアー。ま、いっか…」
「そそ。アタシに作りかた聞いて。結構マジでガチに料理してるよー」
「うんうん。中々味付けとかいいぞ、葵ちゃん」
家では一ミリも家事をしない葵。意外な形で家事を覚えている様子に苦笑いしか出ない。
「おい… アイツ高校受験するのやめて、ココで働くとか言いださないだろうな?」
「おっ それいいじゃん! ついでに翔と所帯持ってよ、深川一の若夫ふ… イテっ」
右の掌をオシボリで冷やしながら、ふとそんな未来もアリなのかな、なんて思ったりする。
* * * * * *
翌日。会社に行くと想像よりもずっと落ち着いている。何でもこれ以上取材を受け付けないと営業部の三ツ矢部長がストップをかけたそうだ。幻の湯を発見したとかで浮ついていると本業が疎かになるぞ、と活を入れたらしい。
「いやマジ俺らを目の敵にしてますよ、あの人。俺らが上げた手柄掻っ攫われないように気をつけねば…」
「わざわざ取材断るとか、あり得なくない〜? マジウザっ」
然し乍ら、俺から見れば三ツ矢部長の檄はそれ程理不尽ではない。本業の旅行ネット販売がこの会社の根本なのだから、いつまでも偶然の産物に寄りかかっていてはこの先の成長は見込めない。
「さあオマエら。折角の順風だ。これを利用して成績伸ばしていかないと会社の成長はないぞ! 年明けにまた面白い企画出すからな! みんな正月休みに考えておけよー」
俺が大声で檄を飛ばすと、
「うわー キン様、イケイケモード入っちゃったよぉ」
「キンさん、本気出さないでくださいよ〜」
「まあ、それも致し方ありませんね…」
これだけの大仕事をやり遂げたのだから少しゆっくりさせてやりたいのだが、何せ彼らはまだ若い。やれば出来る子だらけだ。ヤル気を失わない程度にケツをひっぱたくのは上司の役割だ。
「いいかー。あの営業部長を悶絶させるような凄い企画、楽しみにしてるぞ!」
企画部員は爆笑しながら、
「ギャハハー いい、それいいっ」
「一昨日のあの部長の呆然振り、サイコーでしたねー」
「はあー 専務ほんま鬼ちゃいますやろな…?」
ふと視線を感じる。営業部の方から三ツ矢が俺を睨んでいる。何だろう、この高揚感…
この会社に入る前、俺は某大手都市銀行の支店長をしていた。あの頃は先輩、同期を引き摺り下ろし、部下を蹴落とし、出世の鬼と化していた。
きっとあの三ツ矢もそうだったのだろう。彼の前職は大手商社マン。営業で相当鳴らしたようだ。あの会社で揉まれてきたのだから、この会社で目の上のタンコブを払いのけるのは朝飯前なのだろう、それが俺以外ならば。
これまで何人も引きずり蹴落としてきた俺の勘が訴える。
『やらなければ、やられる』
転籍先のこんな小さな会社でこんな事になろうとは。たまったもんじゃない…
「キンさん、何笑ってんですか? キモいですよ」
あれ。無意識に頬が緩んでいたようだ。気持ち的には穏やかに過ごしたいのだが、俺の本能と本性が追いつ追われつの権力闘争を欲しているようだ…
「いや。やられる前にやっちまおうかなって。それもアリかなって」
そんな大企業内の出世競争地獄には無縁の山本くんが、
「……何言ってるんですか。あ、それより常務が探してましたよー」
「おー、ありがと。」
この会社の役員の一人である田所常務の所に行く。彼は営業担当であり、元は社長の登山仲間だったと言う。姪っ子である田所理恵は今回の企画の功労者の一人だ。類い稀な古文書読解能力を有し、知られざる幻の秘湯発見のキッカケを作ったのは彼女であった。
「金光専務、どうもすみません… 三ツ矢がまた…」
「ハハハ、気にしないでくださいよ。彼の言っている事は正論です」
「ですが… 評判も良くないようで。困ったもんですよ」
「ま、相手にとって不足は… いやいや。中々やり甲斐ありますよ」
田所はキョトンとして、
「へ? やり甲斐? あーーーそれよりーー 僕も行きたかったな、景徳山。久々に雪山とか登りたかったなあー」
遥けき雪山を想像し、蕩けるような表情となる。登山家にとっての山とはかつての俺にとっての若い巨乳の女性と同じなのだろうか、と不遜な理解をする。俺は空咳をしつつ、
「田所さんも登山部だったんですよね、社長とはどこで知り合ったの?」
「大学連合でヒマラヤ行った時かな。最初は真面目で大人しい奴だな〜なんて思ってたのですけど、登り始めたらスゴイ、の一言。パーティーへの気配り、天候の読み、ルートの選択。どれも僕らが束になっても敵わなかったです」
ああ、鳥羽らしい。最近になってようやく社の面々の内面が見えてくるようになった。まあ今までは見ようともしなかったのだが。
「そうなんだ。あれ? 俺の前の専務も同じ登山仲間だよね?」
「はい。立川も大学連合の仲間でした。鳥羽、僕、立川の三人で始めたのがこの会社です」
なんでも俺の前任者の立川専務は山が恋しくなって一昨年退社したという。今頃アルプスかヒマラヤかアラスカか…
「でね… 三ツ矢は立川の後に専務になると思っていたらしく… そこにね、金光さんがサラッと入社して専務になって。メインバンクの要請って事で渋々諦めたようです」
「…何かスマンね。何処でも色々あるなあ…」
「銀行もさぞや色々…」
「ハハハ… 思い出すだけで血が滾る… おっと失敬」
田所は顔を引き攣らせながら、
「ハハハ… 元銀行マン対元商社マン… 恐ろしや恐ろしやー ああ山が恋しい…」
師走真っ只中、退社時間になっても誰一人席を立たない。俺はデスクの上を片付け、お先に、と言って席を立つ。
エレベーターを待っていると後ろから三ツ矢部長が近付いてくる。
「専務、駅までご一緒しませんか?」
「構わないが」
「私を悶絶させるような企画、楽しみにしていますよ」
「一昨日の様に、かい?」
軽いジャブの応酬。相手の出方を窺う。エレベータに乗ると三ツ矢が低い声音で、
「ただね、専務。もう少し本業をしっかり見た方がいいんじゃないですかね。色々企画立てられるのはいいのですが」
「本業、ね。是非その辺のところは色々ご教授頂けると助かるのだが?」
彼の言っていることは至極真っ当なことだ。俺は素直に頭を下げる。
「はは、そう来ますか。まあ足元はよく注意した方がいいですよ」
三ツ矢がニヤリと笑いながらエレベーターのドアの開くボタンを押し続ける。
「足元、ね。覚えておくよ」
俺は片手をあげて礼を示し、先にエレベーターを降りる。その後は互いに無言で歩を進め。会社から駅の改札口まで徒歩三分。あっという間だ。
「ではこれで。お疲れ様でした」
三ツ矢は軽く頭を下げると改札口に消えて行く。
三ツ矢の背中を眺めながら、先程の会話をリプレイする。『足元はよく注意した方がいいですよ』か。明確な『宣戦布告』と捉えて良いだろう。この戦いは勝っても得るものは何もなく負ければ恐らく職を失う。これまでの戦いでは勝てば『出世』という戦利品を得てきた。今回の戦いにそれは無い。
即ち、『絶対に勝たねばならない』というよりも、『絶対に負けられない』戦いである。青い武士と一緒だ。最悪引き分けでも良い、兎に角勝ち点を得ねばならない。
どうやら試合開始のホイッスルは既に鳴っている様だ。試合の序盤は相手の動きをよく見る事にしよう。
* * * * * *
「アンタ… なんか活き活きとしてない? なんかいい事でもあったのかい?」
『居酒屋 しまだ』のカウンターでカウンターメジャーを色々考えていると光子が話しかけてくる。忘年会シーズン真っ只中で今夜も店は満席だ。
「別に。ちょっと仕事のことで、な」
「そか。ま、あんま無理すんなよ。歳なんだからよ」
柔らかな笑顔。今までこんな表情はあまり見た事がない。そう言えば最近コイツは少し丸くなってきた感じがするのは俺だけであろうか。
「あんまりお前に言われたか無いわ」
「へん。ま、ゆっくりしてけや」
と言い、すぐに厨房に入っていく。その後ろ姿に見惚れながらジョッキを口に持っていく。揚げ出し豆腐をつまむ。そして再び、今後の三ツ矢部長対策を色々考える。
のだが、今日の客は中学の同級だった者が多く、やたらあちこちから声をかけられ、やれ足は良くなったのか、やれ今度の同級での団体旅行は何処だの、気がつくと遅くまで彼らと楽しく時を過ごしてしまう。
そんな彼らも帰って行き、残りの客は俺一人になる。時計を見上げると十二時過ぎである。あー疲れたと言いながら光子が酎ハイを片手に俺の隣に座り、iQOSを咥える。春までは普通の紙巻きタバコを吸っていたが、タバコの匂いが嫌いな俺に合わせてこの電子タバコに変えたのだ。まあ、臭いは臭いのだがその心意気や良し、である。
「なんかすっかりこの店は西中の溜まり場になってきたな」
「そうだなー でもよ、もっと先輩とか後輩とかも来ねえかなー」
それ全員不良仲間だよな、とは言わずに、
「欲張りになってきたな。近くに支店でも出すか?」
「ムリムリー ここで十分だわ。この狭さでじゅーぶん…」
そう言うと俺の瞳をじっと見つめる。俺も見つめ返す。瞳と瞳の距離が徐々に近づいてくる。鼻と鼻が触れそうにn―
その時、入り口の扉が遠慮がちに開かれる。ほぼ片付けを終えた忍が迷惑そうな顔でもう閉店なんですよー と言い放った時。
「今晩は」
低く渋い男の声がした。
光子のiQOSが指から転げ落ちる
「うそ… チアキさん…」
「光子ちゃん、久しぶりだね。元気そうじゃないか」
年頃は俺らよりも少し上か。白髪混じりの豊かな髪をオールバックにし、ハイネックのカシミアセーターに高級そうなジャケット。どう見てもサラリーマンには見えない。
忍の目を伺うと驚きの表情で両肩をすくみ上げている。どうやら彼女も知っている人のようだ。そして光子の挙動がいつもと違う〜 言葉遣い、表情、これはいつも彼女が昔の彼氏を語る時の姿そのままであるー 即ちー
「あの… こちら、相模チアキさん… 隼人の父なの…」
光子の三人目の元彼は俺に向き直り右手を差し出しながら、
「相模です。初めまして」
俺はカウンターから立ち上がり、右手を差し出す。
「金光です。光子さんの中学の同級生です」
対面してそこで気付いた… 理知的で端正な顔立ち。意思の強そうな眉に顎、だが繊細な心を表す瞑らな瞳…… 俺はこの男を知っている… 嘘だろ?
「あの、ひょっとして、指揮者の相模千明さん、ですか? ウイーンフィルの…」
相模は困ったような笑顔で、
「あは、元ベルリンフィルです。今はあちこちの楽団の客演ばかりで…」
確かヨーロッパの若手指揮者コンクールで優勝した後、ヨーロッパを中心に活躍している日本人指揮者の第一人者だ。最早嫉妬心なぞ微塵もなく、世界の有名人を目の前にただただ呆然としてたー
「どうしたのいきなり。ビックリしたじゃない…」
…… このモードのお前も十分ビックリだぞ… 忍も口を開けたまま唖然としているし
「隼人からさ、珍しく連絡が入ってね。ちょっと話があるって」
忍を呼び寄せ、確認する
「隼人くんって、あの『ヴォルデモード』のHayatoなんだろ?」
「そーっす、あれーキンちゃん会った事なかったっけ?」
光子の長男、伊豆に在住の龍二くんから大まかな話は聞いていたが。まさかその父親が、あの世界的指揮者だったとは…… それにしても、
「最近聞かないけど、一時期大人気だったよな…」
「そーっすねー、今年に入ってからあんま来なくなったわー」
俺は仰天して、
「え? それまではよく来てたの?」
「てか。この店の開店資金、隼人が出したんだよ。あれ? 姐さんから聞いてなかった?」
アイツ。ほんと昔の事語らない。こちらから聞けばある程度は話してくれるが、こんな重大な過去、アイツから話してくれないと俺は知りようがない…
酔いは完全に吹っ飛び、世界的指揮者である相模に対する興味しか無くなる。
しかし相模が笑いながら光子の肩に手をかけた瞬間、脳のスイッチがオンとなる。
「光子。相模さんとはどんな付き合いだったの?」
相模は肩に置いた手をそっと外す
「僕と光子ちゃんが出会ったのは、僕がオーストリアの指揮者コンクールに出ようかどうか迷っていた頃〜 大学卒業した頃かな」
× × × × ×
当時、有名音大の指揮科を首席で卒業した相模は国内のオーケストラに就職が内定していたのだが、このまま国内に残っていていいのか迷っていた。大学の恩師はオーストリアで三年に一度開催される若手指揮者の登竜門と言えるコンクールへの出場を促していた。
しかし彼には人には言えない悩みがあったのだ。それは、
「その頃の僕、外国人と話すのが怖かったんです…」
何でも子供の頃金髪の女性に道を聞かれしどろもどろとなり、呆れた顔で大声で罵られたのがトラウマとなったそうだ。
「英語、フランス語、話す事は出来たんですが、肝心の外国人と、特に金髪の女性と…」
日本でコツコツ修行すべきか。海外で己の力を試すべきか。悩みに悩んでいたそんな頃、横断歩道が赤信号なのに気付かず渡ろうとしてトラックに轢かれそうになった。間一髪のフルブレーキで事故は免れた。
『テメー、信号赤だろうが! ぶっ殺されて〜かコラ!』
運転席から飛び出してきたのが、金髪の若い女の子だった。彼は腰を抜かしてしまい、あろうことか大声で泣き始めたー
「もう、危うく轢かれそうになった事で心臓が止まりそうだったのに、よりによって僕が苦手な金髪の女性が怒鳴りながら近づいてきたもんだから…」
小さな子供の様に泣き叫ぶ相模に対し、その金髪の女の子は怒鳴り付けるのをやめ、トラックの助手席に乗せて走り出した。そして晴海埠頭近くにトラックを止め、泣き止まない相模の頭をずっと撫でてやっていた。暫くして泣き止んだ相模はその初めて会った金髪の女の子に自分の悩みを全て打ち明けた。
「今思うと、自分でも信じられません。だって僕の事、音楽の事なんて全然知らない女の子に全部話しちゃうなんて…」
その金髪の女の子、そう光子はじっと彼の話を聞いてくれた。
「気付いたら外は真っ暗になっていました。どれくらい喋っていたんでしょうね。そうしたら彼女は最後に
『あなた、海外に行くべきよ。行かなきゃダメ』
って言ってくれて。でも僕は外国人の、金髪の女性が苦手だって言うと
『今ちゃんと話せているじゃない。大丈夫よ』
あ、ホントだ。僕は大笑いしました、心の底から」
× × × × ×
そこから先の二人の話は相模は話さなかった。俺も聞きたくなかった。だが、光子との出会いがなければ相模千明という世界的指揮者は誕生していなかったという事は受け入れねばならない事実だ。
相模が語っている間、光子はじっと下を向いたまま項垂れている。時折俺をチラッと見つつ。
「ところで光子ちゃん、最近隼人と連絡とってる?」
「それが… 今年はお店に一回も顔を見せないの。メールも来ないし…」
「そうか。僕、年末年始はウイーンでコンサートだから日本にはいないんだ。隼人に連絡しておくからこっちで面倒見てやってくれないかな?」
かつては『ヴォルデモード』の曲が流れない日はない程だったが、この数年そう言えば彼らの曲を聴く事は無くなったかもしれない。
「うん。わかった。私からも連絡しておく」
「よろしくね。僕、そろそろホテルに戻るから…」
何故だか少しホッとする自分がいる……
「あ、うん。タクシー呼ぼうか?」
「外で拾うから大丈夫。年明けには日本に戻るから、その時にまた。光子ちゃん、良いお年を!」
「ありがとう、あなたも…」
「では、皆さん、お邪魔しました。金光さん、また、いつか」
光子が店の外まで相模を送っていく。
「キンちゃん、大丈夫? 顔、真っ青だよ」
「はーーー、ビクッたー 忍〜 ビールくれー」
すっかり素に戻った光子がカウンターに倒れ込む。
「ね、姐さん… 」
「あん? ああ、アンタ、ビックリしたろ… 」
「まあな」
あの男か、光子が付き合った男…
「何だかなあ、急に来てなあ、まあ」
「…」
あの男が、光子を… 数十年前かも知れないが、光子と裸で……
「何…だよ…?」
「別に」
光子を裸で抱きしめ、そして光子にむしゃぶりつき……
「し、仕方ねーだろ! こんな急に来るなんて…」
「今でも…」
「え?」
「今でも、付き合ってるのか?」
それは無い。自分でも分かっていても、動揺している俺はつい口にしてしまう
「だからっ! 突然、久しぶりだって!」
「でも、今でも繋がってるんだ?」
身体の繋がりは無いのだろう、だがそれよりももっと固い心の繋がりが…
「仕方ねーだろ、隼人の父親なんだしっ」
「会ってるのか?」
分かっている。会っても身体の関係が無いことは。分かっている。
「…」
「しょっちゅう、会ってるのか?」
「た、たまに…」
思わずカッとなってしまう。
「何だよそれ! 聞いてねえよ、全然っ」
「…アンタに… 関係ねーだろ…」
「そうか。ああ、そうだな、関係ないよ。年明けも会うんだもんな…」
「そ、それは…」
「帰る」
光子が、元彼と会っている。それを俺に黙っていた…
どうやって自宅に戻ったか、覚えていない……
* * * * * *
すっかりぬるんだ湯に入り、寝床に入るも目と心は冴え切ったままである。まさか光子が元彼といまだに交流があるとは想像もしていなかった。アイツは絶対に嘘は付かない。なので、頻繁に会っている訳では無いのだろう、ましてや身体の関係なぞ全く無いに違いない。
だが。
相模は光子を抱いたのだ。避妊もせずに欲望のままに光子を蹂躙したのだ。その結果隼人を妊娠したのだ、いや胎まされたのだ。まだ若い女子になんと無責任な事をしたのだろうか。
そして相模は光子を捨て、一人ヨーロッパで才能を開花させ世界的な指揮者として歩いてきたのだ。光子と隼人を犠牲にして、一人王道を歩んできたのだ!
どうして光子は恨まないのだろう。自分と子供を捨てた男に、何故あんな態度で接するのであろう。
相模を罵っていたなら、俺は溜飲を下げていただろう。だが光子は彼を気遣い優しく接していた、あろう事か「下町ヤンキーモード」でなく「上品セレブモード」で応接したのだ。
未だ、光子の胸の奥には相模への想いが炭火の如く密かに残っているのではないのか? 相模が自分の元へ戻って来るのを待っているのではないのか?
この春、初恋の相手だという俺と偶々出逢い、付き合い始めたのだが、実は心の奥底では世界的指揮者であり成功者である相模を求めていたのではないのか?
もし完全に恋心が無ければ時々会うような事はしない性根の筈だ。面倒見が良いとか情に熱いとか言われているが、自分を捨てた元彼にまで情をかけれるだろうか、答えは否だ。
もし光子が移り気で男を次々と乗り換える、あの間宮由子のようなタイプであれば元彼とワンチャン、とか言い出すかも知れない。だが、光子のような性格の場合、スパッとそこは一線を引くはずだ。元彼とは別れたのだからそれが縁の切れ目、二度と会うことはないぜ、と言うであろう。
それなのに相模とは別れた後も会い続けるー それは、光子の心の中ではまだ終わった恋ではないのじゃないだろうか? 元彼というよりも、ずっと好きな男友達的な感情なのではないだろうか?
分からない。光子の気持ちが、奥底にある乙女心がさっぱり理解出来ない。すぐにでも光子に問いただすべきなのだろうが、当分彼女と会う気分になれない。話す気分になれない。
相模と光子が裸で抱き合うシーンを想像し、トイレに駆け込み胃の内容物を吐瀉する。涙を拭い口を拭き、寝床で身体を丸くする。
「あんた、目の下にクマが出来てるよ、ちゃんと寝なかったのかい?」
翌朝、お袋が味噌汁を作りながら目を丸くしている。
「夕べ、みっちゃんとなんかあったのかい?」
ううう… 流石俺のお袋である。全てを見通されている気がする…
「何にせよ、間違ってるのはアンタの方なんだよ。でもまあ、いい機会だからしっかりと悩む事だね。そんで雨降って地固まるのならめっけもんさ。ああ、こんなんどうかね、『眠れずに あの子の事を 信じたい』 おおお、会心の出来だわ…」
だから、季語がねえっつうの……
朝食はそんな訳だからいらない、と言って着替えて家を出る。師走の柔らかい日差しが目に眩しい。くしゃみが一つ出る。鼻を啜り、ゆっくりと駅へ向かった。
水曜日なので本当は午前中は八月に骨折し手術した左足のリハビリの日であったが、とても行く気になれなかった。真っ直ぐに会社へ向かい、そう言えば朝から会議室で会議だったと思い出し8階のボタンを押す。
エレベーターから降りると、企画部の会議はとっくに始まっている。皆と目礼し自分の席につきノートパソコンを開く。皆が何かについて意見を出し合っているがまるで耳に入ってこない。
相模の事をパソコンのグーグルで調べてみると、過去に二度結婚、離婚を繰り返しており、現在はさる女流ピアニストとパートナー関係らしい。法的には『独身』という事になる。
俺は大きく溜め息を吐き出す。
という事は、事と場合によっては光子と再再々婚の可能性があるではないか。隼人という認知している息子も存在するのだ。やはり光子はそれを狙って、いや待っているのではないだろうか… だとすると今後俺と光子はどんな関係となるのだろうか、光子にとっての俺は一体どうなってしまうのだろうか……
「…専務、金光さんっ 聞いてます?」
山本くんが心配そうな声をかけてくる。俺は慌ててグーグルを閉じ、
「ああ、すまん。何だって?」
「大丈夫ですか… 顔真っ青ですよ。体調悪いのでは?」
一睡も出来ず、朝飯も喉を通らなかったとは言えず、
「ああ、大丈夫。ごめん、続けて…」
「ハイ… で。この記事について、当社はどう対応すれば良いですかね…」
「どの記事?」
周りの溜息を聞きつつ、正面のモニターに映し出された記事を眺める。
『幻の湯発見の裏側〜 平成最後の師走に発表された武田信玄の幻の隠し湯発見の大ニュースの裏側にあった薄汚れた人間模様〜 先日東京有楽町の旅行代理店『鳥の羽』が山梨県の景徳山中腹で発見した信玄の幻の隠し湯。このニュースは瞬く間に全国に知れ渡り、同社の名前と功績は全国に知れ渡る事となった』
これがつい数日前の出来事とは到底思えない。空な心のまま俺はモニターを眺め続ける。
『幕末の台風と地震で消滅した登山道を同社の山岳チームが発見、その道沿いに古文書通りの湯治場の跡地を探り当てたのだ。だが、その快挙の裏側でドロドロの人間模様があった事は世間には知られていない』
ドロドロの人間模様? 一体何の事だろう…
『この日の登山は雪山であり、非常に危険を伴うミッションであるのに何と同社はその登山メンバーに今年の新入社員、しかも女子社員を任命したのだ。うら若き命を社名の名の下に危険に晒させたのである』
ちょっと待て。任命した? 晒させた? 何のことだ…
『「ちょっとビックリしましたよ。元登山部とは言え、か弱い新人女子社員にこんな危険な事をさせるなんて」とは同社の関係者。呆れ顔でこう続ける〜 「恐らく嫌とは言えなかったんじゃないですか、何しろ社長の大学の後輩ですから。休みの日も社長の私用に付き合わされたり。公私混同も甚だしく社長は社内でも評判悪いんじゃないですかね」何ともブラックな話である』
同社の関係者… これはまさか…
『それだけでは無い。何と同社の役員が愛人を堂々と連れて高級旅館にちゃっかり宿泊していたのだ! 「これはその場の社員も唖然呆然でしたよ。皆が必死で探索している中、愛人を隠そうともせず居座らせて。でもこの役員は銀行から派遣された曰く付きの人なので、誰も何も言えなかったんです」 社長といいこの役員といい。呆れ果てた経営陣に酷使される若き有能な社員達の悲哀を泉下の武田信玄はどう思うだろうか〜』
昨夜のことがあり、且つ一睡もしていない俺はただ呆然としてしまう。普段なら激怒しすぐに対応策を講ずるのだが、今日に限ってはその力が湧いて来ない。
「流石にこのまま、って訳にはいきませんよ… ね…」
「そりゃそう… 全く事実に反する… かな…」
「まあ、そうだよな…」
皆、シーンとしてしまう。新人の庄司をメンバーに選んだのは事実だし、光子を連れて行ったのも事実なのだから。当惑する彼らを他所に俺はこの記事の意図を既に見抜いている。
社長と俺をこの会社から追い落とすための記事。中々上手いやり方だ。全くの嘘や中傷ではなく、言葉巧みに事実を悪意に言い換えている。この記事を読んだ人は果たして〜
「ボチボチ問い合わせが来ています。一応、事実確認中と返事しています…」
「社長や専務と話をさせろ、という問い合わせも…」
という事になる。歯切れの悪い意見しかない中、庄司がスッと手を挙げる。
「この記事は事実は事実でも内容は明らかに間違っています。従って、今後当社としてはハッキリと『このような内容の事実はない』でよろしいのではないでしょうか?」
「成る程。『内容の事実』ね。それなら問題ないんじゃないですか!」
若手社員の有望株、山本がキッパリと言い放つ。一同深く頷く。今後この記事に関する問い合わせにはこの様に対応するというコンセンサスを共有し、会議は休憩に入る。
「しかし、汚ねえやり方しはりますね、あの人は…」
「ホント。サイテー。信じらんない…」
「私ちょっと叔父の所行ってきますよ」
田所が叔父である営業担当の田所常務の所に行こうとするのを俺は止める。今行ってもただ社内が混乱するだけだ。それでなくても忙しい師走なのだから取り敢えずは本業に精を出そう。田所は渋々頷き鋭い視線を営業部に向ける。
こうやって我々企画部と営業部とを分断させる意図もよく見える。三ツ矢の奸計はまだ始まったばかりだ。然し乍ら今のままの俺で凌ぎきれるのだろうか。自販機でブラックコーヒーを買い一気に飲む。そして今の俺の立ち位置をもう一度しっかりと考える事にする。
会社を終え、まっすぐに帰宅する。お袋の夕飯を何も言わず掻き込む。連日家で食べるなぞ数ヶ月ぶりの出来事なので、
「で。みっちゃんと何があったんだい?」
元々鋭いお袋が見抜かぬ訳ないか。
「まあ、ちょっと、色々な」
お袋は目を細くしながら、
「ふぅん。ま、今回はアンタの火遊びが原因じゃないようだね、それだけに」
「それだけに?」
「かなりの重症かもね」
まあ、そうかな。
「みっちゃんが」
「おいっ!」
お袋は吹き出しながら、
「まあ、じっくりと考えることだよ、焦って結果を出そうとするんじゃないよ、あんたは昔からせっかちでさ、高校生の頃にバイト決めてきた時のさーー」
俺も数日ぶりにちょっと吹き出す。
『居酒屋 しまだ』に足が遠のいてから、久しぶりに笑った気がした。
心身共に疲れ切った俺はすぐにベッドに入るのだが、結局朝方までまんじりとしない時を過ごす。光子との事。三ツ矢との事。そしてその周囲の人々の事。
俺はかつて家族や友人、恋人そして政敵との事でこんなに悩んだ経験が無い。基本的に俺の対人関係は『来るもの拒まず去るもの追わず』、プラス『受けた恩は倍返し、受けた屈辱は三倍返し』である。近年流行りの『倍返しだっ!』なんて甘い。あれは小説やドラマだけの世界である。三倍返し以上に叩き潰さないと、敵はゾンビのように復活し又攻撃を仕掛けてくる、故に叩く時には骨にして土に還す位の勢いが必然なのだ。
あの頃の俺ならば、さてどうやって三ツ矢を地獄に叩き落としてやろうか、とニヤニヤしながら眠れない夜を過ごしただろう。だが今は。
光子との事が、棘どころか呪いの五寸釘の如く俺の胸に深く突き刺さり、活力が全く湧いてこないのだ。俺の胸中に泥のように渦巻く思いー どうしてこうなってしまったのだろう、どうしてあの夜俺は相模千秋氏と会ってしまったのだろう。どうして俺は光子の過去にこれほど執着してしまうのだろう、等々。
どうして光子は肝心なこと、大事なことを俺に黙っているのだろう。どうして相模氏と会っていることを隠していたのだろう。どうして光子は自身の過去を俺に話そうとしないのだろう。考えれば考えるほど胸が苦しくなってくる。
その一方で、『居酒屋 しまだ』の皆はどうしているのだ、健太はさぞや激怒しているだろうな、しろぶ… 忍はキレまくって毎晩包丁を研いでいるのでは? 翔は呆れ果てて俺の事を軽蔑しているだろうな、葵は… お袋は…
目覚まし時計が味気なく寝室に鳴り響く。カーテンの外はすっかり明るくなっている、俺は重い身体をゆっくりと起き上がらせ、重い心を引き摺りながら洗面所へ向かう。
師走の為だろうか、遅い朝なのに電車が混んでいる。ぶつかり合う他人の肩にうんざりしながら、明日こそは脚のリハビリに行かねば、と薄ぼんやりと思う。
出社すると企画部の皆が集まり輪になっている。皆重い表情でヒソヒソと話し合っている、苦情の処理が破綻をきたしたのか、と推察し近づくと課長の上村が、
「お、おはようございます専務…… あの、これが…」
ノートパソコンを俺に向ける。昨日の一般向けのネットニュースとは違う、もっとディープな一部のマニア向けのネットニュース、所謂、○ちゃんねる、というヤツだ。
「山本が今朝見つけたもので… まあ普通の人達は見ないサイトだとは思うのですが…」
俺自身、存在は知っていはいるが見るのは初めてだ。だが若者を中心に一定のトレンドに影響力を持つことも知っている。
無言でそこに投稿された記事を読む。読み進めるに従い胃に鉄棒を捩じ込まれる気分になってくる。記事を読み終え読者達のコメントに目を通していく。やがて心がバキッという音を立てて折れるのを感じ、目の前が真っ暗になっていった。