明かされた秘密
「お疲れ様でした… 金光専務。しかし… あんな事になるなんて…」
弱冠三十八歳の鳥羽社長が途切れ途切れに呟いた後、深く溜め息をつく。九年ほど前に趣味が高じて起業したこの旅行代理店『鳥の羽』は彼の名前からとった(らしい)。
創業以来の最大のイベントであった、日本を代表する俳人であり美人天然タレントでもある間宮由子の句会は先週大盛況のうちに成功したのだが、由子は翌朝静岡県警に盗難の疑いで連行されてしまう。
俺の大学時代の親友であった青木刑事の尽力でその疑いは晴れ、釈放となり昨日東京に戻ってきたのだが…
「今週の今日までの予約件数は先週比でマイナス20%です。やはり事件の影響ですかね…」
企画部の若手社員がボソッと呟くように報告する。
「仕方ない。間宮先生のせいではないのだから…」
「風評被害、としか言いようがありませんね…」
「ネットではお祭り騒ぎなんですけど… 『ゆうこたん、神CO!』って…」
俺は首を傾げ、
「何、COって?」
「カミングアウト、ですかね…」
間宮由子の窃盗容疑は晴れたのだが、マスコミの前で彼女は過去をカミングアウトした〜 それは、中学時代、地元で有名な不良であり多くの事件を起こしていた事、恋多きバツ4で前夫から超高級マンションを得ていた事、等々。
「もうネット上では女神扱いで、悪意のある報道をしたTV局に抗議メールが殺到しているとか…」
「ハハハ… ハアーー」
「今週の売り上げ、どうなるんでしょうね… それに、今後も…」
そんな空気の中。営業部長の三ツ矢は俺を見下すような視線で一言、
「ま、営業部がもう少し関わっていたら、こんなザマにはさせませんでしたけどね」
と言ってからクックックと笑う。企画部長の迫田が物凄い目で三ツ矢を睨む。今回の企画から敢えて営業部を遠ざけていた意趣返しというやつだ。俺は反撃する元気もなく、ただ下を向く。
会議は社長をはじめとする役員、及び今回のイベントに関わった企画部全員、合わせて三十人程で陰鬱な雰囲気の中、ノロノロと進んでいる。
刑事事件。カミングアウト。その影響は当社の売り上げ、即ち旅行販売に少なからず悪影響が出ている様だ。社長なぞ、創立以来の大ピンチ、などと口走っており…
仕方ない。ここはひとつ、この会社の最年長者の俺が…
「でもな、みんな!」
「何でしょう、専務?」
社長をはじめ、下を向いていた社員たちがゆっくり顔を上げる。
「今週の報道のお陰で、我が社の知名度は一般社会に広く知れ渡った。そうだよな?」
皆の視線が俺に集まる。
「確かに内容はネガティブであり、我が社も『明白な知名度狙いの企画』なんて言われているんだろう?」
「その通りですが…」
「確かに。で?」
何名かが返答する。
「でも、良くも悪くも、国民はこの会社、『鳥の羽』の名前を知る事になった」
「…」
「……」
「今までは一部の旅行好き、しかもネット上でしか当社は知られていなかった」
全員が固唾を飲んで俺の話を聞いている。
「それが今回、全国規模で当社は知れ渡った。山本くん、当社の顧客数?」
「ハイ、先週までで三万五千人弱ですっ」
「今週の一連の報道の視聴率から推測される視聴者数は?」
「えーーーと… わっ この数日の積算で5%と考えても…」
「そう。大体1%で四十万人と言われているから…」
全員の表情がパッと明るくなる。
「二百万人…」
「マジか…」
「ホントに…?」
俺は更に続ける。
「別に俺たちは法を犯したわけではない。むしろ被害者だ。何でお前達が下を向くんだよ。これ、大チャンスだと思わないか? 山本っ」
「ハイっ ホントだ… そういえばHPへのアクセス数、かつてないほどです…」
「それを指を咥えて眺めてるだけでいいのか、お前らっ?」
皆、互いに顔を合わせながら、
「ど、ど、どうしよう…」
「釈明文とか載せるべきじゃない?」
「いや、それよりも、ここは撃って出るべきじゃないか?」
「それもある。それなっ」
会議は一変して熱気に満ち溢れ出す。俺は社長に一礼して松葉杖をよいしょとつき、ゆっくりと立ち上がってコーヒーを飲みに会議室を出る。
* * * * * *
定時に会社を出ると通勤ラッシュで松葉杖の身にはとても辛いので、四時前に重役退勤させてもらう。因みに会議は未だ続いているようだ。
有楽町線で月島まで行き、大江戸線で一駅の門前仲町が俺の地元であり現住所でもある。いつもはリハビリを兼ねて月島から一駅分歩いて帰るのだが、今日は午前中にみっちりとリハビリを頑張ったので、大江戸線を使う。
駅を降り、エスカレータで地上に出ると秋の夕暮れが迎えてくれる。十月初めの退院以来、夕食は全て『居酒屋 しまだ』で済ませている。
そう言えば、数ヶ月前から付き合い始めた彼女とは初めての秋だ。もう少しすれば初めての冬。半年後には初めての春。自然と顔が綻ぶのがわかる。
「なーにニヤニヤしてんだよっ 気持ち悪い」
店への途中で中学からの悪友、高橋健太に出くわす。珍しく妻の… あれ? えっと…
「金光先輩、お久しぶりー」
「おお、…久しぶり!」
三、四ヶ月ぶりだろうか。俺たちのいっこ下、つまり間宮由子と同学年の… あれ、名前…?
「へへ。ババアがクイーンとかお前に会いてえっつう〜から、まあ、たまにはなっ」
「そうなんだ。いつも健太に世話になってます」
五十も半ば近く、人の名前が出て来ねえ…
「いやそんな… 変わってませんねえ先輩は〜」
三人で『しまだ』の暖簾をくぐり店内のカウンター席に落ち着く。
「あらー、弥生さん、久しぶりじゃん」
白豚、グッジョブ! そうだ、弥生さんだよ、弥生さん。こんなクソ野郎を健気に支えてくれている、人格者弥生さん!
「忍ちゃん、コイツちゃんと見張っててくれてる? こないだなんか『しまだ行く〜』なんて言って、ホントはキャバクラ行きやがって」
「健太ーーー あんだけダシに使うなよって言ってんじゃねえかコラ!」
小林忍。歳は二こ下で中学は別。俺の彼女の『舎妹』でありこの店の従業員。
「忍ちゃん、光子先輩はまだ?」
「そろそろ来んじゃね〜 あ、噂をすればっ」
扉が乱暴に開き、金色のポニーテールが暖簾をくぐる。迷彩柄のパーカーに穴あきジーンズ。この店の店主、島田光子。俺の彼女が店内に入って来る。
「おおおー 弥生か? 珍しいーじゃん。元気だったか?」
弥生さんは満面の笑みで、
「光子先輩、お久しぶりです。いひひ〜」
「な、何だよ…」
「初恋、叶っちゃいましたね〜」
突如、挙動不審となり、
「う、ウッセーバッキャロー! あー、支度支度っと〜」
「逃げた」
「おう。逃げた」
「っかー。キンちゃん、泣かすなよコラ!」
「白ぶ、ちゃん。わかってるって…」
おっとっと。五十を過ぎるとつい口が滑ってしまう。
「っち。で。みんな生でいいの? キンちゃんはウーロンな〜」
松葉杖期間中は光子による禁酒令に従わねばならない。彼女は俺の週三のリハビリに付き合ってくれている。その叱咤激励は今や病院の名物となっており、彼女のコーチングを望む変態患者も多いと聞く。
しばらく三人で他愛もない話をしていると、光子の孫の翔と俺の娘の葵が降りて来る。この店の二階は光子と翔の二人の住居スペースだ。
「いよっ 若夫婦のご降臨だいっ」
健太が二人を下町のオヤジっぽく冷やかす。忍もそれに乗っかって、
「勉強進んでるかい? 子作りのっ きゃは」
忍の頭を平手で叩く。
「へへへ。おじいちゃーん!」
「ハー。葵、勉強捗ってるか? 受験まであと三ヶ月だ。志望校は絞ったのか? 塾は…」
葵はブチ切れた様子で、
「もーーーー。みんなウザっ 忍さんおなか空いたっ お魚焼いてっ 翔君はどーする?」
「おとうs… もとい。金光さん、今晩は。足のお加減は如何ですか?」
「やあ。お邪魔してるよ。どうかね葵の勉強の調子は?」
翔はニッコリと笑いながら、
「ええ、大分基礎が固まってきました。あとは過去問を中心に志望校別対策に入りたいと思っています」
「成る程。あ、そっち食事終わったら、その辺の話じっくりしたいから、こちらに来てくれないか?」
「了解しました、おとうs… 金光さん」
絶対、ワザとやってるな。こういうあざとさは葵に似てきている。よくない傾向だ。あとでしっかりと厳しく説教しなければ。
「そうか… 私立一貫校は厳しいか…」
最近の高校受験事情を全く把握していない俺は、素直に翔の話を聞いている。
「都立や女子校の試験問題とは傾向が違いすぎます。あと入ってからも大変だと思います」
「と言うのは?」
「私立の中高一貫校ですと、中三で高一の範囲は大体終わっちゃってます。高校から入ると授業範囲に追いつくのに一苦労かと…」
「成る程。因みにお前今数学は?」
「二次関数がこないだ終わりました」
流石、東大合格者数連続日本一の超名門中学校。恐るべし進度である。気がする。
「中三で… そうか…」
翔は真剣な表情で、
「なので。都立か女子校に入り、AOで大学を狙うのが彼女には合っているかと」
「わかった。考えておこう。任せっきりでスマンな。情けない親で…」
「My Pleasureです。僕も毎日彼女と共に勉強できて幸せです」
こんな優秀で性格の良き少年が葵の彼氏… 勿体なさ過ぎる。
「ハハハ… お前、龍二くんとはちょっと毛色違うよな…」
「龍二おじさんですか? あの人は天才ですから。僕は努力タイプの凡人です」
光子の長男であり西伊豆で獣医をしている龍二には、つい数日前大変世話になっている。
「僕は母に似たんでしょうね。コツコツタイプなんです」
翔の母… そういえば彼から母親の話を全く聞いたことがない。
* * * * * *
「そういえば… 翔のお母さん… 真琴さんは今山梨にいて弁護士をしているって龍二くんに聞いたのだが?」
「そうです。甲府市で弁護士をしています。あっ おばあちゃんっ」
翔が何かを思い出した様子で光子に話しかける。
「はーい、毎度ありー。また来いよー。え? 何だよ翔?」
今夜は健太は早々に帰宅だ。俺に中指を立てながら… 何だよ、何なんだよ? そして弥生さんと二人で仲良さそうに店を出て行く。こいつにはそこそこ世話になっているから、会社で何かお得なツアーでも有ったら、二人に紹介してやろう。と毎月思ってはいるのだが。
「そろそろ、お墓参りじゃない?」
「えーーと。おう、もうそんな時期か〜 今年は時が経つのがはえーわ…」
忍が皿を洗いながらしみじみと、
「姐さん、それ年取った証拠っすよ」
「だよなー。もう51だぞ… そっかー。えーと。十二月、十二月っと… まあ、第一週の週末だな。お前大丈夫だな?」
壁に掛かっているカレンダーを眺めながら翔に振ると、
「期末前だけど、大丈夫」
「そっか。そんで今年で何回忌だよ?」
「僕の年と同じ。十六回忌だよ」
「そっかー。そりゃアタシも歳食うわけだ…」
光子が遠くを見つめながらiQOSを咥える。来月は真琴さんのご主人、そして翔の父親の命日なのだろう。毎年二人で墓参りしているのだろうか。
「墓は山梨なのかい?」
翔はあれ僕話しました? と言う視線で、
「ええ。よくわかりましたね?」
「真琴さんが甲府だと言うから… そうか、翔はお父さんの顔、知らないんだ…」
「?」
翔が寂しげな、ちょっと困った表情で俺を見つめる。きっと写真でしか見たことがないのであろう。そう言えば翔の父親、すなわち真琴さんの夫、つまり光子の義理の息子の話は今まで全くしてこなかった。きっと早く忘れたいような死に様だったのでは、と推測する。
そう言えば、来月の頭ならば重要な仕事は何もない、丁度いい機会なのかも知れない、と思って、
「なあ光子。俺も一緒に行っていいかな… 真琴さんにも会って挨拶したいし、翔のお父さんにも線香の一本もあげたいし…」
「?」「?」
光子と翔が少し悲しげな顔で俺に首を傾げる。だが、こういうことはきちんとしておかねばならないし、今後長い付き合いになるのなら尚更キッチリしなければならぬ事である。
「そうだっ 葵も… って、お前は流石に受験前だし忙しいな… でも一度は挨拶に行かなきゃだぞ、お墓にな」
「?」「?」「?」
三人が三人して俺を哀れな目で見下している。
「って、何なんだよさっきから! 葵までっ 何か俺、人の道から外れた事言ってるか?」
「うーーん… まあ、人の道と言われてしまうと…」
「んーーー… アンタは別に〜なあ…」
光子と翔が言葉を濁す。やはり彼らにとって口にすべきでないことを言ってしまったのだろうか… 大きな溜め息をつきながら、葵が俺に向き合う。
「ハアーー… ねえパパ。今、こう考えているでしょ…」
「な、何だよ…?」
「ここで墓参りしてポイントゲットだあって」
ギクリとする。流石我が娘。俺の心の奥底のやましい部分を遠慮なく曝け出してきやがる。
「ば、馬鹿なっ これは、オレの、親としての、ケジメなのー」
「ハアーー?」
「だってそうだろ。翔だって里子の墓参り、してくれているそうじゃないか?」
翔は吹っ切れない表情で、
「ハア、まあ…」
「だから! オレもお前も、一度ちゃんと挨拶に…」
何故か翔は困りきった表情で、
「おと… 金光さん、流石にそこまでは…」
「何言ってるんだ、翔! オレは行くぞっ 挨拶するぞ、お前の父親に!」
光子はiQOSを吸い切って、
「なあ翔、コイツ何言ってんだ?」
何言ってるかって… 俺は頭に血が昇る。
「何だよ光子。オレ間違った事言ってるか? オレが翔の父親に挨拶するのはおかしい事なのかっ?」
遠慮なく首を傾げ、
「うーーん、今はちょっと…」
「ハア? 今は? 何言ってんだ。なあ、オレが一緒に墓参りするのがそんなに嫌か?」
「んーーー、その必要は、ねーんじゃね?」
光子がハッキリと俺に言い切る。言外に俺には関係ないだろ、と言っているのだ。
「そうかそうか、わかったわかった、もういいもういい。オレはまだお前らのそういう所まで踏み込めない存在なんだな、わかったよ」
光子は困惑と悲哀の眼差しで、
「おい、翔。コイツなぜ拗ねてんだ?」
翔は何か探り当てたような顔付きで、
「うーーーん… まさか、だけど…」
葵がボソッと、
「うん。そのまさかだよ、このアホ親」
「何だ葵まで… お前、そっち側か。父親を、ほっといて、そっち側かあ、よーくわかったよ」
大きな溜め息と共に、
「間違いなく。このダメ親さあ…」
「もういい。ちょっとオレもよく考えるわ」
「翔くんのお父さん…」
「オレの立ち位置、どーなってるんだ… 光子にとってオレは…」
「亡くなってると思ってるわー」
* * * * * *
「勝手に人の父を殺さないでくれますか、お父さん!」
勝ち誇った、と言うよりは困窮の果てにようやく辿り着いた解が余りに想定外で、憮然としてしまった様子である。
「…… 申し訳ないっ ホントにスマンっ 俺、何て早とちりを…」
「葵ちゃんから聞いてなかったんですね。僕の父は今、甲府刑務所に服役中なんですよ、お父さん」
持っていた箸を思わず落としてしまう。
「えっ… 何だって…」
翔は葵に振り返り、
「葵ちゃん、言ってなかったの?」
葵は俺を三日経った生ゴミを見る様な目付きで、
「だって… この人絶対『犯罪者の子供と付き合うなんて許さない』とか言いそうだし」
翔は毅然と葵に、
「ダメだよ。ちゃんと話さないと。そういう隠し事は一番嫌いだと思うよ、ですよねお父さん?」
もはや公然とお父さん呼ばわり… やはりこのあざとさは葵から感染したようだ… それにしても、まさか真琴さんのご主人が服役中とは…
「まあ、四月までのオレだったら… そうだったかも知れない。確かに…」
「でしょ。事情も経緯もちゃんと聞かないままに、ね」
俺はポリポリと頭を掻きつつ、
「事情と経緯か。話してくれるか? ちゃんと知りたい」
と光子に言うと、二本目のiQOSを咥えながら、
「いいけど。まあ、墓参りっつーからには、想像つくだろアンタ?」
「殺人… なのか?」
今から約20年前。都立の名門校を卒業した真琴さんは東京大学文科一類に入学した。入学と同時にあるy―
「な、な、な、」
俺は呼吸困難になる。だが気合いでそれに打ち勝ち、大声で吠えてしまう。
「東大の法学部だとぉーー?」
唖然、呆然、茫然。
光子の長男の龍二も大したものだったが、まさか長女が東大の法学部とは!
翔が必死に俺の背中を摩ってくれている最中、全ての謎が解明した。この天才少年の母親は、化け物級の知性の持ち主だったのだ。東大法学部。日本の法曹界の頂点。
その息子が天下の開聖中なのは、納得である。
そう言うことだったのだ。この少年は母親の知性をそっくり受け継いで生まれてきたのだ。
俺の興奮がようやく収まる頃。話は元に戻る。
今から16年前。四年生、当時21歳だった真琴さんはある予備校でアルバイト講師として働いていた。教え方が上手く、面倒見も非常に良く生徒達からの評判も良かった。新学期から高三、すなわち受験生の授業を受け持ち、その島田真琴先生に二人の生徒が恋心を抱いた。
一人は代議士の子息。仮にAと呼ぶ。小学校から大学までの一貫校に在籍しているも学校の成績が悪く、校内の大学進学試験突破の為に嫌々通っていた。予備校には女漁りが主目的で通っているような不真面目な生徒だったようだ。
もう一人は公立高校生のB。現役で国公立の大学合格を目指す授業態度も熱心な優秀な生徒。授業で分からない事を聞きに行くうちに互いの境遇が似ていたこともあり、歳が四歳ほど離れていたにも関わらず意気投合していく。
Aは真琴さんと親密になっていくBに不快感を覚えだす。執拗に真琴さんに接近し、授業後に食事に誘ったり休日に遊びに行こうと誘うも真琴さんは全く相手にしなかった。それが真琴さんへの想いに逆に火を付けたようだ。
贅沢三昧、我儘放題で育ったAは真琴さんとの親密度を増していくBの存在が許せなくなっていき、真琴さんへの想いが募るに従いBに対して辛く当たるようになる。
初めは仲間を集い揶揄う程度であったが段々とエスカレートしていき、筆記用具を隠す、テキストを捨てるなどの物理的被害を伴うものに発展していく。
「まー、酷えヤツだったわ、人間のカス。修のヤツ可哀想だったわ…」
「修くん、か。必死に耐えたんだろうな…」
「ああ。真琴に心配かけたくなかったんだろうな」
真琴さんは何度もAに注意しようとしたが、その都度修くんに止められていたらしい。こんな不当な扱いにも笑顔で耐える姿。そしてこの困難の中でも失われない学問への情熱。そんな彼に真琴さんも好意を募らせていく。
その年の十二月。風邪を拗らせた修くんは予備校を休み、心配した真琴さんが家を訪ねた夜二人の想いは一つになったらしい。
その事を知らずAはクリスマスに真琴さんを自宅に招待したいと告げる。親にも話してあると言う。自分への想いが本気であると悟った彼女は修くんとの事を打ち明け、これ以上関わらないで欲しいと訴える。
逆上したAは、代議士の親を使い島田先生が生徒と異性関係になった事を予備校に訴える、と真琴さんを脅すも、彼女は自ら予備校を辞し、今後二度と自分達に近寄らないよう告げた。
「いや… 流石オマエの娘… 潔いというか何というか…」
「でもな、そのケッペキさ? がAをメチャ傷付けちまったんだよな…」
プライドを激しく傷付けられたAは彼の人生で初めて上手くいかなかった、思い通りにならなかった事で心を壊していく。予備校は勿論、高校にも通わなくなり、夜も家に帰らなくなっていく。
翌年三月。真琴さんは司法試験に合格、晴れて大学を卒業する。修くんは第一希望の国立大学に合格、そして真琴さんの後輩となった。一方のAは何とか親の力で高校は卒業出来たが大学には上がれず、完全にドロップアウトしてしまう。
入学式を翌週に控えた三月の末、修くんと真琴さん、そしてAが夜の繁華街で遭遇する。
* * * * * * *
「おーー、久しぶりじゃん、真琴ちゃん、それに滝沢!」
「鬼沢君… 久しぶりだね、どうしてたんだい?」
「ふんっ 大学なんて行ってられっかよ。毎日楽しくやってるぜ。で? 滝沢、受験はどーだったよ」
「ああ、お陰様で、島田先生の大学に入れたよ」
「…ふんっ ま、頑張って同じ大学入ってもお前なんかすぐ真琴ちゃんにフラれちまうんじゃね? 真琴ちゃんさあ、こんなヤツより俺と付き合いなよー」
「お断りします」
「んだよ、冷えなあ。こんな草食系の奴より俺の方がいいよっ こんなのと付き合ってたら真琴ちゃんいつまで経っても処女だよっ いひひひひ」
「修君。行きましょう。何て下劣な男」
「いーじゃん、俺のことフったんだからさ、せめて処女くらい俺にちょーだいよっ ひひひひ」
「鬼沢君。勘弁してくれないか。もう行くね、行こう島田さん」
「ちょ、待てや童貞クン、何チョーシ乗ってんの? 童貞のくせによっ」
「彼は童貞ではありません」
「ハアー?」
「何故なら、彼の子供が、私のお腹にいるからです!」
* * * * * * *
その時にAの心が完全に破断したようだ。彼は奇声を発し頭を抱え込む。考えてみればあまりの境遇の逆転。二人と知り合うまでは何の苦労もなく裕福に育ち、その先も成功を約束されていたA。それが真琴さんに、修くんに将来を打ち砕かれ、社会の底辺近くを彷徨う日々。
全てが彼自身のせいではあるが、十八の少年にその自覚と自責を問うには、余りにも二人のこれからの日々が眩しすぎた。
その眩しさから目を背ける術もなく彼の心は崩壊する。その先に待っているのは自暴自棄、憎悪。そして、二人の存在の否定…
彼は懐からジャックナイフを取り出し、ブツブツ言いながら何の躊躇いもなく真琴ちゃんに襲いかかる。
「何てこった… あれ、でも、真琴ちゃんって、所謂オマエの娘だよな…」
「は? 当たり前じゃん」
「てことは、ガリ勉ちゃんに見えて実は…?」
「流石お父さん。鋭い考察です」
真琴ちゃんの新しい命が宿る腹部にAはナイフを突き立てようとしたが。通行人の証言によると、その直後Aは宙を舞い地面に叩きつけられていたという。
Aは動かなくなり、身体を打ち震わせ泣き始めたそうだ。そんなAに対し真琴さんはもう二度と二人に近づかないでくれと説諭し、現場を後にしようとした。
「ココがアイツの甘いとこなんだよなぁ。てってー的に〆とかねえと、ダメなんだよなあ〜」
「アホか。そんな話あるかよ…」
「いや。ココでハンパに〆たせいで、悲劇が起きたんだよなあ…」
Aは再び奇声を発し、ナイフを拾い上げて立ち去ろうとする二人に襲いかかる。修くんが真琴ちゃんを守ろうと立ちはだかり、その修くんに向けてAはナイフを突く。咄嗟にカバンを向けるとナイフはカバンに突き刺さる。
Aの狂気に修くんの本能が反応し始める。彼は『草食系』などとAにからかわれたが、どうしてどうして、中々の『肉食系』らしい。この光子の娘を孕ます程の…
草食系なら、逃げる。一目散に逃げる。が、肉食系は、守る。そして打ち倒す。雌を奪い合い、時には相手を死に追いやる。これが肉食系の本能。彼の供述調書にはこう書いてあったそうだ。
『彼を殺さないと、僕達三人が殺されると思いました。彼からナイフを奪い取り、無我夢中で滅多刺しにしました。彼女と僕たちの子供を守るためにー』
「そんな… 信じられない…」
「な。だからそん時にキッチリ〆…」
俺は光子の戯言を遮り、
「だけど、これは完全に『正当防衛』が成立するだろう?」
「成立しません…」
「え…何故?」
「本人が明確に『殺意』を肯定していますから…」
自らに生命を守るためにやむなく刺した、のではなく、殺されると思ったから殺した。でもどうなのだろう。実際の判例では正当防衛が認められそうなのだが…
「相手の親が超一流の弁護士を雇いまして」
「成る程… そして…」
「裁判の結果、懲役二十年。非常に厳しい判決です」
「頭が混乱してきたよ…」
「そして。その判決の日に、僕は産まれました」
「心も混乱してきたよ…」
話は大体終わり、一つ疑問が生まれる。
「あれ… だけれど、そのAの命日なら、三月なのでは?」
翔は頷くも、やはり戸惑った風に、
「そうなんです。ですが、母は毎年十二月に参るんです」
「それは、何故?」
「母に聞いてくださいよ是非。お父さん」
最早、お父さん確定…
「そうだな。うん。…って、あれ? 俺、一緒に行っていいの?」
ニッコリと、そう実に嬉しそうに
「勿論です。是非母に会ってください。ね、お婆ちゃん」
光子は素っ頓狂な声で、
「あれーー、アンタ真琴に会ったことなかったっけ?」
「オマエ何にも話してくれないから。自分の子供のこと」
俺をジロリと睨みながら、
「だってよ、ちょっと話すとアンタすぐ機嫌悪くなるじゃんかよー」
「それは… だって…」
呆れ果てた葵が、
「ハアーー、器のちっちゃい父でゴメンね、お婆さま…」
「で、でも、光子だって俺が里子のこと話すと……」
* * * * * *
しかし何故山梨なのだろう。Aの実家が山梨だからなのか?
「って… もういいだろ、『鬼沢』で。何だよAって」
光子がクックックと笑うので、
「あ、ああ。じゃあ、その鬼沢君の実家の墓が山梨なのか?」
「まあそんなトコかな。東京に住んじゃいたけどよ、父親は山梨の選挙区の代議士だったからなー」
「そうか。今でも代議士なのか?」
国会議員の鬼沢。ちょっと聞いた覚えがない。銀行支店長時代にはよく政治家とは絡んでいたのだが。
「いや。五年前に死んだ。同じ墓にいるわ」
「なるほど。で、何で毎年この時期に?」
「真琴がよ。この月がいーってんだよ。最初から。理由は知らね。今度自分で聞いてみな」
「わかった。それで毎年三人で…」
「そ。ま、チケーから日帰りだわ。あー、アレなら一泊すっか? あの辺で!」
ちょっと嬉しそうに光子が言うと、
「あ、いーなー姐さん、彼氏とラヴラヴ温泉お泊まり〜」
「オメエだって来月彼とクリスマスお泊まりデートだろーが」
改めて、白豚… もとい、忍に彼氏がいることに戦慄を覚える…
「へへ。じゃあ、お土産、いつもの甲州ワインでっ… って。姐さん! 忘年会シーズン! 掻き入れどきっ! お泊まりダメ、絶対!」
光子は口を尖らせながら、
「えー、いーじゃん。誰かヘルプ頼めや」
「そりゃ、一声かけりゃ幾らでも集まりますけど… おい翔、いーのかよ?」
「あ、僕は日帰りで電車で帰るから」
光子は卑猥な笑顔で孫の頭を撫でつつ、
「おっ 気が利くじゃねえかあ。流石、アタシの孫っ」
「え? 翔はお母さんのところに泊まっていかないの?」
ちょっと困った顔で、
「うーーん… 期末試験期間じゃ無ければ、幾らでも相手するんですが…」
「相手?」
「話し出すと… 半日は離してくれないんです」
「ほう…」
更に泣きそうな顔で、
「あ、因みに料理は一切できません」
「あらら…」
「部屋の中は荒れ放題… 掃除するのに半日、です」
「あららら…」
最後に翔は涙を浮かべながら、
「なので、墓参りした後、母の家に行き掃除して、帰ります……」
今夜は思いがけず、島田家の内情を知ってしまった。まさか翔が殺人犯の落とし胤とは… 確かに四月までの俺ならば全力で葵から翔を遠ざけていただろう。
店を出るとすっかり冬の寒さに街が凍えている。吐き出す息がすっかり白くなっている。道行く人もマフラーを首に巻いていたり、手袋をしていたり。
そんな俺と葵はよちよちと帰宅の歩を進める。
「いーなー。ウチもお墓参り、一緒に行きたかったなあ…」
葵が心底悔しそうに呟く。
「受験が終わったら、連れて行ってやるよ」
「絶対だよっ」
「で。翔の掃除、手伝ってやれよー」
「ムーリー」
おいおい。そこは手伝えよ。
「… でも、翔はお前に家の事全部話しているんだな…」
「そうだね。あ、ウチも家の事、色々話してるよー」
「そうか」
「えー何、ババアとは本当にその辺のこと話さないの?」
ババアって… 俺はギロリと睨みつつ、
「それがさ。聞きたい気持ち半分。聞きたくない気持ち半分なのだ…」
「ナニそれ…」
「察しろよ…」
「ハアー。ホントにちっちゃい…」
「悪かったな…」
葵は首を振りながら、
「ふふふ。でも、パパ本当にババアの事好きなんだね〜」
「うるせー」
「でもー。ウチは、翔くんの事、翔くんの家族の事とか、全部知りたい。私の知らない翔くんと出会う前のこと、全部知りたいっ」
「それな… それも、わかる」
杖を突きながら空を見上げる。少しよろめくと葵がさっと支えてくれる。吐く息が白い。溜息も白い。光子の店から家まで半分の距離まで来た。葵も空を見上げている。横顔は里子にそっくりだ。俺はゆっくり歩き出す。
「でもな。怖いんだよ。」
「何が?」
「アイツが愛した三人の男の事…」
「何で?」
暫しの沈黙。俺は溜め息を吐き出しながら、
「俺は、その三人と比べて、どうなのか、とかさ、」
「うん」
「もし今そのうちの一人が現れたら、俺はどうなるのか、とか…」
「うん」
「そして。光子はどんな風に彼らを愛したのか…」
「うん」
俺は葵を覗き込みながら、
「お前、ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるよっ で?」
「おお、そうか。そして、光子は…」
「ふむ」
「光子と彼らは…」
「ふむふむ」
「どんな風にセックスしたのか…」
葵は人糞をふんづけた表情で、
「……ハアーー?」
「もう、気が狂いそうなんだよ… アイツが、他の男と…」
おい俺。一体何の話を実の娘に…? だが、流石俺の娘、そんな俺の愚痴をサラリと躱し、
「パパ、あなた何歳?」
「51」
「それに。光子さんの事言えるの? 若い巨乳好きのお・と・う・さ・ん!」
「うぐっ」
「もーさー、そーゆー話、健太達としてくんない。信じらんない。マジきも、ウザッ」
「アイツらに話せるかよっ お前にしか話せねえよ」
思わず本音が出てしまう。
「実の娘に… 情けない… そんなに甘えんなテメエ」
葵は里子よりも、母に似ている。翔と葵の未来図はお袋と親父なのか、ふと考える。
* * * * * *
翌週。
天気が悪かったので午前中のリハビリをサボり、光子に散々貶されつつ会社に行くと珍しい方が見えている。
この四月から不思議な縁で繋がっている、泉さんだ。彼はISSAという世界中の温泉の調査、評価をする団体に所属し、世界でも数名しかいないシニアインスペクターとして活躍している。
その団体の性格上、一つの旅行会社と緊密な関係を持つのはタブーであり、今までも会社を通じず、俺個人を通して色々とお世話になってきた。そんな彼が一体どうして…
「いやー、金光さん。貴方の行く先々は退屈する暇がありませんな、間宮由子さんの騒動、お聞きしましたぞ」
「泉さん、どうも… ご無沙汰してます、が?」
「いやー、何でも間宮さんとは懇親の間柄だそうで。羨ましい限りですな、はっはっは」
そんな話をしに来た訳ではあるまい。本当に何があったのだろう。取り敢えず社長を紹介することにし、
「ええと、こちらが社長の鳥羽です」
鳥羽は目を大きく見開き、驚きの表情を隠さずに頭を下げ、
「鳥羽でございます。色々と大変お世話になっております」
「いやー、若い社長さんで。でも貴方、いい目をしてらっしゃる」
「はい?」
「この人。金光さんを拾ったの貴方でしょう?」
「拾ったなんてとんでもない! お願いして来ていただいたので…」
そんな事はない。銀行の閑職で燻っていた俺を呼んでくれた。簡単な面接はあったが、専務取締役の待遇で俺をこの会社に迎えてくれた。
自身が学生時代バックパッカーだか山登りが好きだかで、夢を追い続けたらこの会社を興していたそうだ。そんな彼の思いが社風に重なっており、社員の多くが旅好き元バックパッカー。社員になっても何かしらの夢を持っている者が多いようだ。
「でも、どうしてここへ?」
俺の怪訝そうな顔を優しく笑いながら、
「いやー、ちょっとこの会社を見たくなりまして。あの金光さんがいる会社、をね」
会社、を? だってアンタ、旅行業界とは明確に線引きしなければならない、って言ってたじゃない。特定の旅行会社と懇意にしてはならない、って言ってたじゃない?
それに今ちょっと気になることを言った気がする。
「『あの金光』、って… 何なんですか?」
俺の顔をじっと眺め、何度も頷きながら、
「台湾の李さん。『あおば』の女将。皆、貴方のこと、その行動力、企画力、発想性の豊かさなどを褒めちぎっていますので」
「そんな… お恥ずかしい…」
ここまで面と向かって褒められるとこそばゆい。俺の横の社長が深く何度も頷く。
「そんな貴方に、ちょっとお願いがありまして」
「何でも言ってくださいよ。僕に出来ることなら何でも」
「いやー、でもこれ、金光さん個人に、というよりも…」
「ハア?」
「御社に、お願い、が正しいのかな?」
頭にはてなマークが点滅してしまう。あの泉さんがわざわざ組織の内規を破ってまでこの会社を訪れた理由はなんなのだろう。取り敢えず泉さんには社長室に入ってもらう。
俺は企画部へ行き、山本くんを手招きする。
「今、社長室に入っていった人、あれがー」
「ああ。泉さんって言ってましたっけ。専務を訪ねてきた人ですよー それが何か?」
ただの初老のおっさんとしか認識していない彼は、さっきまでの俺と同じ頭にはてなマークを浮かべて俺をポカンと眺めていやがる。
「あの人が、あのISSAの、泉シニアインスペクターだ」
人間が本当に驚くと声を出さずに顎がアホみたいに下がり、本物の間抜け面となる。
「あの、あの、あれ、あの人が、あの、泉の、Issaシニアインスペキュラー、なのですか?」
人間が本当に驚くと主語が倒置し語彙が大いに乱れることを知る。
「落ち着け山本。深呼吸だ、五回、さあ」
「スー ハー スー ハー スー ハー スー ハー それで、あの人が!」
俺は吹き出すのを堪えつつ、心を鬼にしながら、
「まだ四回だ! やり直し、さあ」
何とか正確に五回深呼吸を終えた山本くんが、
「ダメですよぉ、特定の会社に来てはダメなんですよぉ」
「お前はISSAの回し者か。多分、今回はISSA絡みの仕事ではないと思うぞ」
山本くんは何とか落ち着きを取り戻し。
「では一体?」
「まあ、個人的な何かなんだろうな、おっと社長が呼んでいる」
社長室から鳥羽がおいでおいでをしているので、顔を出すと、
「専務、これからちょっと会議をしたいのですが」
「はあ。分かりました。おい山本、会議室空いてたっけ?」
この会社のフロアに会議室は無い。従って重要な会議を開く際には8階にあるレンタル会議室を通常借りるのだ。
彼は即座にスマホで調べ、
「空いてます。すぐに抑えます、2時からで良いですね?」
「それでいい。後、庄司にお茶とお茶請けを用意させろ」
「分かりました、出席者は?」
「企画部全員だ」
「それは… 皆年末年始の企画で忙しいかと…」
俺は彼を手招きし。
「ISSAの泉さんが、わざわざ訪ねて来られたんだぞ。それ以上に重要な仕事ってあるや否や?」
山本くんはハッとし、
「否!」
「よし。ではすぐに手配を」
「承知しましたっ」
と言うと早速駆け出していく。
再び社長室に入ると、泉さんは鳥羽と談笑している。その姿はまるで父と息子の様であり、ちょっと吹いてしまう。
「いやー、僕がISSAに入ったきっかけはですねえ… ああ、金光さん、いらっしゃった」
「お待たせして申し訳ありません」
鳥羽が頭を掻きながら、
「何せ、こんな小さい会社でして… 大きな会議室一つありませんものですから…」
「いやー、普段使わない会議室なんかレンタルで十分。コスト管理の行き届いた良い会社じゃありませんか」
「まだまだです。金光専務のお力をお借りして、なんとか頑張っていきたいのですが…」
泉さんはニヤリと笑いながら、
「大きな会議室十個より、金光さんお一人の方がどれほど価値があるか。はっはっは」
耳まで赤くなってしまう頃にようやく山本くんが、
「お、お、お待たしぇいたしました、会議室が整いましたので、どうぞこちらいへ」
とど緊張しながら入ってくる。
さーてさてさて。泉さんは一体全体、どんな爆弾… もとい、どんな儲け話を持ってきてくれたのだろうか。少しの不安と大いなる興味を胸に秘め、俺たちはエレベーターで8階に上がって行ったのだった。




