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醜悪な世界の片隅で  作者: 百式
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序章

今時討伐者なんて流行らない。


時刻は強い西日が照る夕方。


そこかしこにある酒場の一つで誰かがそんなことを呟いた。


自虐的な冗談に仲間が釣られて笑いだし、お前が言うなとしきりに笑われる。



そんな他愛のない会話を少年は耳に拾う。

ここらでは珍しい黒い髪に鋭い目つき。

髪はよく見ると、少し紫がかっている。


薄汚いその恰好は、嫌でも不快感を出さずにはいられない。


ぼろい布切れをまとった少年は、酒場の裏で残飯が出るのを待つ。


いくらか時がたち、店員に残飯と一緒に蹴りを貰う。


「もう寄るなッ!」


鋭い怒気を孕んだ声には耳も向けず、残飯を拾い路地に消えていく。



王都、セルシュタイン。


ここではありきたりな日常が流れていく。



浮浪者が右肩上がりにその人数を増やす、壁に囲まれた街。


彼らも好き好んでこの街にいるわけではない。

街の外には瘴魔が跋扈し、もはや人類に逃げ場所などない。


セルシュタインは人類にとって最後の砦、希望の光であった。







物心ついた時からクソったれな人生だった。


気が付けば鬱蒼と茂る森の中。

じめじめとした洞窟で毎日必死に生きていた。


名前も知らねぇじじいに読み書きと生きるのに必要なものを学んだ。

毎日得体のしれないイキモノを殺して焼いて食っていた。


狩りは常に生きるか死ぬかの瀬戸際で、何度も切り裂かれ、殴られ、つつかれ、抉られ…。


半死半生を行き来した。


そんな狩りにも興味深く、気に入っているものがあった。


獲物どもは肉汁滴るイイモノから見つけた瞬間に逃げろと言われているものまで様々な種類がいる。


奴らは死ぬと体のどこかの瘴石と呼ばれるものが砕ける。

瘴気と化したソレは殺したものに取り込まれる。


これをケイケンチを得る。というらしい。


俺はその光景がとても好きだった。


今の今まで動いていた、生きていたものが冷たくなり、バシュゥという音と共にどす黒い瘴気が辺りに充満する。

日の光を反射して輝く瘴気はこの世の綺麗な部分と腐った部分を内包しているようだった。


そうしているうちに体の周りに集まってきて、体の中に消えていく。

それがとてつもなく面白かった。



狩りを終え、やっとのことで獲物を手に入れじじいと分けて食う。


じじいはすでに年老いており、素早くは動けない。


だからこそ、俺が食い物を捕り、じじいは俺に知恵を与えた。


じじいの話は興味深いものから、クソほども役には立たないものまで色々なバリエーションに富んでいた。


そんな中でも一番面白いものはマチと呼ばれているものだった。


そこにはニンゲンが虫が群がるみたいに密集し、日々の糧の為に働いているという。


全くもって理解が出来なかったがいつかは見てみたいと思っていた。



そんな生活が続いていった。



じじいはその日はいつもと違い真剣な顔で、普段口にしているイキモノについて教えてくれた。


「こいつらはな、障魔ってんだ。体ン中に瘴気を持ってる」


「瘴気ってなんだ」


「瘴気ってのはな、毒だ」


「毒を食ってもいいのかよ?」


「少しくらいは平気だ。お前もう瘴気昇華(レベルアップ)はしたのか」


「瘴気…なんだそれは?」


「まだ教えてなかったか。まあいい、体が光ったことは?」


「テメェ馬鹿にしてんのか?人間が光るわけないだろう」


「バカはテメェだ。いいか?瘴気昇華(レベルアップ)てのはな、体に溜め込んだ瘴気を力に換えるといわれている現象だ。」


「んだそれは。体が光ったことはねぇ」


じじいはその後、独り言のようにつぶやいた。


「そうか、常人は正規の方法で昇華するが、お前の場合はこのままだとまずいな…。

如何せん溜め込みすぎてる…。」


ひとしきり考えた後口を開く。


「まずいな」


とても気になることを言うじじいだ。


「とりあえず…」


じじいは今日一番の真剣な顔でこう言った。



「腹が減ったな」



「死ね、クソじじい」






それから色々あった。


何度も死にかけたし、死んだ方がマシだって思えるような出来事も両手の指じゃ数えきれないほどだ。


逃避の果てにまた逃避。


そうしてようやく街に逃げ込んだ。


王都?とかいうらしいこの街に逃げ込み何とかその日その日を過ごす日々。


そんでもってようやく”今”に戻ってくるわけだ。


今の俺は物を盗って日銭を稼いでいる。

それしか方法がないからなんだけど。


まぁ何が言いたかったかというと、




――クソったれな人生だ


っていうこと


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