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第 11 話

警察署には澪の母親が運転する車で来ており、利郁は母親とともに自宅へと送ってもらうことになった。

「お世話になりました。」

利郁と澪は警察署の職員に頭を下げ、車に乗り込む。1時間半ほど走りもうすぐ自宅というところで、利郁の母親が口を開いた。

「利郁、来週だけど小島さんをご家族でお招きしてパーティーするから。」

「え、パーティー?なんの?」

「2人が無事だったお祝いとかしましょうって話になったから。」

「へー。」

「それでね、利郁はローストビーフ作ってね。」

「え!?俺が?なんで?俺はもてなされる側でしょ?」

「だから、利郁が一番おいしく作れるでしょ。」

「はいはい、そやって俺の人権が踏みにじられんだね。このやりとりもう何回目だし。」

利郁が澪の方に目をやると、クスクス笑っている。

「小島さん、大丈夫なの?」

「大丈夫、リクの作るごはん食べてみたかった。前プリン作ってツイートしてたよね、すごいおいしそうだった。生姜焼きも。」

「めちゃめちゃ知ってるやん、機会があればいつでも……。」

そう言いかけて、利郁は澪が引っ越すことを思い出した。

「作ってくれるの?ライブのときお菓子作ってもってきて、みんなに配りなよー。」

「や、それはなんか恥ずかしい。機会があれば、いつでも作りますよ。」

「楽しみー。」

澪がニコニコしながら答える。利郁は引っ越しについて話すことをやめ、ぼんやり窓の外を眺めた。そのうち車は自宅付近に到着する。利郁は車を降りて挨拶し、母親とともに自宅へと向かった。

「ただいまー。」

ドアを開け、疲れ切った声を絞り出すと姉が出迎える。

「おかえりー。お土産は?」

「ないです。それよりなんか言うことありません?」

「あ、明日ローストビーフ担当だって。」

「聞きました。もういーや寝る。疲れた。」

利郁は日記も書かず、そのままベッドに突っ伏して寝てしまった。

翌日からはいつものように部屋で作業や勉強、ゲーム、音楽など好きなように自分の時間を過ごし、家事もこなす。日記も再開し、“穏やかな日々に戻れてよかった”と書き記した。

冬休みはあっという間に過ぎ去り、気づけば新年を迎えてパーティー当日である。


当日、利郁は早速ローストビーフ作りにとりかかった。室温に戻した牛肉の塊に塩こしょうなどで味付けし、丁寧に焼き上げる。バルサミコ酢や醤油などを使ってソースも作り、1時間ほどで手際よく完成させた。

「よし、準備できた。」

利郁が一息ついたとき、ちょうどチャイムが鳴った。澪と澪の両親だ。利郁が玄関で出迎えると、大きな荷物を持った澪がいた。

「あれ、なにその荷物。」

「今日家を出たから。」

「えっ?そうなん?もう引っ越すんだ……。」

「うん。」

澪が笑顔で答える。以前と打って変わった様子に、利郁は安心感と寂しさを覚えた。

「どうぞ、あがってください。」

利郁も気を取り直して、笑顔で3人を案内する。部屋に案内すると、利郁の家族もみんな集まっていた。テーブルの上には料理が並び、利郁の姉によって乾杯の音頭がとられる。

「はい、今日はお集まりいただいてありがとうございます。では、今から歓送迎会を始めます。」

利郁は姉の言葉に一瞬手が止まった。

「歓送迎会?送迎会じゃなくて?」

思わず口をはさんだが、姉は話を続ける。

「澪ちゃんの歓迎会とご両親の送別会。ようこそ澪ちゃん、今日から我が家の一員になりました!乾杯!」

「え…!?」

みんなニコニコしながら利郁の方を見た。

「え?え?なに、どういうこと?小島さんが我が家の一員?」

「そう、澪ちゃんが高校卒業するまでね。うちでお預かりすることになったの。」

母親が答える。利郁は1人この状況が飲み込めずにいた。

「みなさん、よろしくお願いします!」

澪がスッと立ち上がり、深々と頭を下げる。利郁の家族は特に驚きもせず、といった様子だ。

「いや、何で?いつそんな話に……。」

「警察へ迎えに行くとき、事情を伺ったのよ。それでみんなと相談して決めたの。」

「俺聞いてないけど!?」

「今聞いてるでしょ。」

「言うの遅いから。って、この家のどこにそんな余裕が?部屋もないしお金だってそんな。」

「生活にかかるお金についてはご両親がきちんと対応してくれるから、大丈夫よ。それより…。」

母親は澪に向かって声をかける。

「澪ちゃん、申し訳ないんだけどうちは部屋数がなくて。利郁の部屋片付けさせるから、とりあえず一緒の部屋でいいかな。二段ベッドの下もキレイにするからね。」

「はい、大丈夫です。すみません。」

利郁は母親の言葉に絶句した。

「本当にありがとうございます。うちは親兄弟も海外にいて頼れなくて…よろしくお願いしますね。」

澪の母親も申し訳なさそうに言う。

「え、え、あの、え!?一緒の部屋って。年頃の男女なのに何考えてんの!?」

「あんたこそ何考えてんの?何かするつもり?」

利郁が気を取り戻して声を上げると、すかさず姉に指摘された。

「何もしねーよ…そういう問題じゃなくて、俺の、俺の部屋!俺のプライバシー!」

「プライバシーって、もう何見ても平気な気がする。だってリクの1人でしてるとこ…」

「わーーー!やめれ!!!!!」

澪が例の出来事を言いかけたので、利郁は慌てて制止する。

「なんのことかな?よろしくねー部屋片付けてね。」

「はい、じゃあせっかくのお祝いだから、始めましょう。利郁もほら。」

「いや、まじでありえない。」

母親の言葉も耳に入らなかった。冷静になろうとしても、現実をなかなか受け止められない。しかし自分が何を言ってもこの決定が覆らないことだけはわかっていたので、それ以上抗うことはしなかった。


「ほんとにここで寝るんですか……。」

「寝るよ。早く片付けてください。今週中には荷物も届くからね。」

歓送迎会を終え、澪の両親が帰宅したあと、利郁は自分の部屋で現実と向き合う。黙々と荷物が置いてある二段ベッドの下を片付けた。澪はそこに持参した布団一式を敷く。

「ねえ、いつもどこでしこるの?」

「こことか、時と場合による。」

「私のことは気にしないで、しこっていいよ。」

「気にします。」

「だってもうしこってる仲だし。」

「なんかちょっと違いますよ……。」

「しこるのを見せられた仲?」

「全然違う!俺が、しこらされたんだよ。おかしいから。彼女でもない人の前でとか見せられませんから。」

「この先のことなんて、わからなかったでしょ?彼女になる可能性もゼロじゃないから、とりあえず見せとけ。ついでに責任とって。あと数学教えて。」

「え……。」

利郁は言葉を詰まらせたが、澪は変わらずニコニコしている。冗談なのか本気なのかわからなかった。

「返事は?」

「機会があれば…よろしくです…。」

澪はスマホを手に取って、布団の上に寝転んだ。利郁は、鼓動を感じとれるくらい心臓がドキドキしているのがわかった。動揺を隠すように机に向かって、日記を開く。


<1月3日>

今日から小島さんが家にやって来て、一緒に住むことになった。同じ部屋とかあっていいんですか?僕の穏やかな日常を返してください。責任はとりたいです。


その日から毎日のように澪が日記に登場することになる、そんな生活がスタートした。

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