第 10 話
「君たち何をしているんだ。名前は?いくつだ。」
室内に入ってきた人物が声をかける。
「……。」
利郁はその人物を前にして、一瞬言葉を失ってしまった。
「ああ、そこの交番に通報があってね。小林といいます。君たちここら辺の子じゃないな、これは不法侵入にあたるぞ。何をしていた。」
そう言いながら2人に警察手帳を提示する。
「あの、違うんです!不法侵入するつもりはなくて。あの、昨日変な男に連れ去られて。それで逃げてここにたどりついて、寒くてどうしようもなくて入ってしまったんです。すいません。」
利郁はこの状況を理解してもらえるよう、必死に訴えた。
「つ、連れ去られた!?」
小林は2人の姿を見直し、ハッとした表情を見せる。手錠でつながれた状況や所々汚れた服、澪の乱れた髪の状態からただ事ではない事態を直感した。すぐに電話をかけ始める。
「もしもし、小林です。何らかの事件に巻き込まれたと思われる少年と少女を発見しましたので、パトカーの出動をお願いします。」
「パトカー?逮捕されるの……?」
澪が動揺した様子で、声を絞り出した。
「いや、大丈夫だ。あくまで保護という形にもっていく。詳しく話を聞かせてもらうことになるが、あったことを正直に話してくれたらいい。」
「わかりました。大丈夫です。」
利郁はそう答えたが、澪の表情は浮かないままである。
「それでなにがあったのか、詳しく話してくれるかな。」
「はい。」
利郁は、連れ去られたときの状況やホテルでの出来事を詳しく小林に伝える。そのうちパトカーが到着し、2人の警官が迎えにやってきた。
「さっき話してくれたことを、同じように話してくれたらいいから。」
「わかりました、ありがとうございました。」
利郁は小林に礼を言い、澪と一緒にパトカーに乗り込んだ。15分程走ったところで、警察署に到着する。すでに手錠を解除する道具が用意されており、利郁と澪は手錠から解放された。
「ありがとうございます本当に……!」
「大変だったね、じゃあこれから話を聞かせてもらうから。」
利郁と澪は別々の部屋に案内され、そこで一連の経緯を伝える。親への連絡や諸々の確認を終え、午後4時頃には処分なしで自宅に帰されることが決まった。
臣:リクと一緒に変な男に拉致られてAV出演させられそうになりました!なんとか逃げ切って警察に保護された!生きてるよ
「な、なにツイートしちゃってんの!?」
親の迎えを待ちながら、澪のツイートを見て利郁は驚いた。
「これリア友知らないアカウントだからいいの。」
「ええ、ちょっと……よからぬ誤解を招きそう。すごくやめて。」
「なにその単細胞な思考回路。」
「ぼく童貞なんで。こういうの免疫ないんすよ。」
「嘘だ。なにげに女の扱い慣れてるくせに……。」
リク:臣さんと偶然同じ場所に居合わせてちょっとした事件に巻き込まれました……残念ながらAV男優にはなれなかったことをご報告させていただきます
利郁も後を追うようにツイートした。
「なりたかったの?きもい。」
「なりたくないです。遅漏だからなれる気もしますけどね。」
「……。」
澪はまた浮かない表情を見せる。
「なに、帰りたくないと?」
「うん。」
「よーた君は、ファンの女の子に手を出すような人じゃないと思う。」
「よーた君のことだけじゃなくて、もうライブに行けなくなるのも嫌なんだもん。リクにはわかんないよ。」
「それはそうですね。ライブに行けなくなるのはつらい。」
「リク、ありがとね。リクがいなかったらAV出演させられてたね。いざというとき頼りになってかっこよかったよ。」
「いや、なんか照れます。」
「遅漏だけど。」
「……あの、遅漏にも人権はあるんですよ。それに小島さんに迷惑かかることはないでしょ。」
「そうなの?この先のことなんて、わからないよ?」
「え……。」
「また私の前で抜くこともがあるかもしれないからね。」
「ないです。」
「わかんないでしょ!」
「ないです。」
利郁と言い合っているうちに、澪に笑顔が戻っていた。
しばらくすると、ガチャッとドアが開いた。利郁と澪の母親が入ってくる。
「利郁!」
「あ、お母さんごめんなさい。迎えに来てもらって。」
「なんですぐに連絡しないの、もう。」
そのやりとりを見て、澪は咄嗟に利郁をかばった。
「あの、私が悪いんです。帰りたくないから言わないでってお願いしました。それに連れ去られそうになってたところを助けに来てくれたから、私のせいなんです。」
「本当にうちの子を助けてくれてありがとう。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。どうか息子さんを叱らないでやってください。」
澪の母親も、利郁と利郁の母親に頭を下げる。
「いいんですよ、無事だったのが何よりですから。気になさらないでください。」
利郁の母親は快く謝罪を受け入れ、利郁も会釈しながら応じた。




