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第1話

午前5時半、目覚ましのアラーム音が部屋に鳴り響いた。20秒ほど経過して、手をのばす。あくびをする間もなく布団から出ると、急いでキッチンへ向かった。

足立利郁16歳、高校2年生の1日の始まりである。昨晩のおかずを電子レンジで温めて、弁当箱にご飯をよそう。並行して朝食も用意する手際の良さだ。高校に入学して1年9か月、そんな生活スタイルも板についてきた。

「あーやばい、バス来るじゃん。」

顔を洗ってヘアセットし、制服に着替えると時刻は6時45分。家族との挨拶もそこそこに、急いで家を出る。


“バスこないしね”6時50分出発のバスがその時刻を過ぎても到着しないため、利郁はツイートでつぶやいた。TLを見ると、“おはよー”“起きた”“今から寝る”などさまざまなツイートが溢れ、RTしたりリプライを送ってきたり、朝からにぎわいを見せる。

間もなく到着したバスで駅へ向かい、電車に乗る。利郁が入学した高校は自宅から1時間半かかり、合間にTwitterやゲームをするのがもはや日課となっていた。

高校から最寄りの駅には友だち同士で登校する生徒が多くいたが、利郁は1人で足早にその中を通り抜ける。教室に着いても、特に挨拶をかわすこともなく席に着いた。賑やかなお喋りや笑い声が響いているが、縁の無い人間には雑音でしかない。


利郁のフォロワーは好きなバンドが同じという共通点があり、よくその話題で盛り上がっていた。クラスに友だちと呼べるような人間がおらず、ほとんど1人で過ごしているため、利郁の対人関係はTwitterで培われていると言っても過言ではない。またそこで築きあげたものがあるおかげで、孤独感が相殺されているのかもしれなかった。

臣:小テストやばいんだけど”

リク:おれも小テスト”


“リク”は利郁のTwitterでのユーザーネームだ。さして気にもとめることのないツイート、日常のひとこまである。

利郁は鞄の中からGPRというバンドのCDを取り出し、歌詞カードを眺めた。中学のころから尊敬しているベーシストが所属しており、CDを購入して家でも学校でも聴いている。

「それ、GPR?」

突然、上から声が聞こえてきた。利郁が顔を上げると、クラスメートの小島澪が机の横に立っていた。

「あ、うん。」

「足立君、GPR好きなの?」

「えっと、うん。」

「そうなの?私もすごい好きで、や、リアルでファンの人に会ったの初めて~。」

「えっと、あ、俺も……。」

澪はクラスで存在感をはなち、さらにリア充というカテゴリーに属していそうな人間だ。友だちが多くいつも人に囲まれており、利郁と普段話すことはない。

突然の事態に、利郁はそれ以上言葉が出てこなかった。

「ねえ、ライブとか行ってる?」

澪はお構いなしに話しかける。

「いや、行ってないですけど……。」

「……けど何?」

「えっいや全然ない。」

テンポよく話しかけられて戸惑う様子が澪にも見えてとれる。一瞬二人に間ができたが、ちょうどチャイムが鳴ったため澪はそのまま立ち去った。


利郁は友だちがいないわけではないが、特定の人間とつるんだりグループで行動したりすることがないタイプだ。休み時間は席で適当に過ごし、昼食は外の中庭で1人で食べている。必要最低限の会話しかしないため、一日誰とも会話しないということも珍しくはない。

昼休み、いつものように利郁が1人で教室を出て行こうとしたとき、澪が友人と昼食をとっている姿が目に入った。男女数人のグループで、いつも笑い声が絶えない。いくら好きなバンドが同じという共通点があっても、関係性を築ける相手ではないということを利郁は感じていた。Twitterなど文字によるコミュニケーションであればどんな相手であろうと難なくやりこなせるのに、生身の人間に対してはそうもいかない。


中庭はちょうど教室から見下ろせる場所にあり、利郁はいつもの場所に腰を下ろして自作の弁当を食べ始めた。ふいに上を見上げると、教室の窓越しに澪が見える。思わず話しかけられたときのことを思い出して、ツイートする。

リク:女子に話しかけられたけどコミュ障で終わった

ちゃ:コミュ障だけど新宿でエンカ!

臣:GPR新宿ワンマンくる人!いいねして!ぼくとエンカ!

エンカとはエンカウントのことで、会うことを意味する言葉だ。GPRのワンマンライブが2日後に行われるため、Twitterはその話題で盛り上がっている。利郁は初めてライブに行くため、多くのフォロワーと会う約束をしていた。

利郁はTwitterを一通り見終わるとスマホのゲームで時間を潰し、5時間目に間に合うように教室へ戻った。これが昼休みの定番の過ごし方だ。

特に普段と変わりない様子で5時間目と6時間目の授業に出席し、澪と言葉を交わすこともなく帰路につく。

利郁は帰宅すると真っ先に机に向かい、日記を書き始めた。幼少期から毎日書き続けており、毎日の日課になっている。ここ最近はゲームの対戦成績ばかり記していたが、この日は久しぶりに学校のことを書いた。

<12月15日> 

 今日はクラスの女子に話しかけられた!しかもGPRのファン!なんとなく明後日のライブに行きそうな感じしたけど、まあ多分会うことないから大丈夫。まじでコミュ障すぎて終わった。


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