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17 挨拶

短めです。

 表宮への扉を開けた緑栄は、まず足早に歩く事を心がけた。

 大きく均等な歩幅、顎を引く姿勢。

 足と腰がシナを作らず歩けているか確認する。早く歩く事で強制的に男の歩き方に戻す狙いもある。

 暫くして通常の歩幅に戻した。

 少し深く息を吐く。

 やはり、切り替えの時はいつも気が張る。

 自分に戻る時は特にだ。


(女性が男っぽいのは時として許させるが、逆は目も当てられない)


 男の自分がシナを作っている所など、想像するだけで吐き気がしてくる。

 緑栄は慌てて頭を振って出てこようとする想像図を散らした。

 公務扱いで外出しているので、通常業務に割り当てられてない分、終業時間まで間があった。

 今度は目的を持って歩く。

 やはり足早に。





 馬舎に近づくと、シルバらしき人影が見えた。

 緑栄はあえて気配を絶って近付いたのだが、


「紫鈴の」

「失礼しました。緑栄と申します。

 ーーー少し気を収めて頂けると、ありがたいのですが」

「ああ、すまない」


 ある一定の距離までは近付いた所で動けなくなった。

 シルバが気を張ったのだ。

 一歩踏み出せば、組み押さえられるか、刀でも持っていようならば喉元に喰らい付かれる。


「姉がお世話になった様で」

「いや、心配をおかけした。すまぬ」

 さっと目礼したシルバに、緑栄は敵わないな、という顔をした。

「いえ、至らぬ姉で……シルバ殿にはご心労かけました」

 お互いがお互いの気を読み、ふっと笑った。


「時に、緑栄殿も気が見えるのか?」

「いえ、私は気配を察するぐらいでして。はっきりと見えるのは父と姉ぐらいです」

「そうか」

「気に興味が?」

「ああ、我が国には無いものだからな」

「気が見えるから姉を?」

「いや、そういう訳ではない。馬が許したので。貴殿からすると面食らう事だと思うが」

「テュルカ国にはそういう婚姻の形をとる場合もあると文献で読んだ事はあるのですが、まさか本当だとは思いませんでした」

「うちの村は古い方だからな」

「村…ですか」

「ああ、一応村だ」


 テュルカ国は放牧を好んで暮らしている遊牧民族の為に形式的に名称している名前だ。フル族の他に、ダリ族、カカ族、トル族、コウ族と五大部族があり、合議制で成り立っており、国の代表は五大部族の中で四年の持ち回りで勤めている。

 フル族は可動式の幕を持ち、常に家畜の草を求めて移動していると思っていたので、緑栄はいささか驚いた。


「定住されているのですか?」

「いや、今の所は夏までだ。その後は南の方へ下がって行く」

「夏までとなると」

「ああ、あと一、二ヶ月だな」

「それまでに紫鈴は決めなければならないのですね」

「まぁ、それに越したことはないが…一度戻ろうと思う」

「返事を待たずにですか?!」

「いや、長引きそうだから先に行ってもらうつもりだ」

「そう、ですか」


 緑栄はほっとすると同時に、長引くと聞いて自分の二重生活がまだまだ続く事にと思い至って、何とも複雑な気持ちになった。

「姉思いだな」

「いやっ、どうでしょう……貴方の方こそ、諦めないのですね」

「……何といったら良いか。君の姉君は…いつもあんな調子なのか?」

「どういう意味です?」


 怪訝な顔をすると、シルバはちょいちょいと顔を寄せてぼそぼそと言った。

 緑栄は目を見開き、額に手を当ててぼそぼそと返す。

 シルバは顎に手を当て、思案して言った。

 緑栄は大きく頷く。


「では早速陛下に願い出よう」

「私は紫鈴に伝えます」

「手数をかけるが」

「いえ、結果的に姉の為になると思います」


 その言葉に、シルバの目が柔らかく細まった気がして、緑栄はではまた、 とそそくさと表宮へ戻って行った。



初対面で密談をしてしまう辺り、この二人には同じ匂いがします。。

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