テンプレ降臨は唐突に。巻き込まれ型異世界転移で、始まる前から詰み掛けなんだが?
「堪らねぇなぁ・・・」
その光景を目にした俺の最初の一言はコレだった。
何だかえらい重厚な装飾やら服装をした人が大量に佇みこっちを注視してる。
俺の脇には別の5人が立っていた。服装は所謂『学生服』って奴だ。
男子2人に女子3人、良いねぇ・・・仲よさげでさ。
俺の暗黒時代を少し思い出すと、彼等が戸惑っている姿にすら眩しさを覚え泣けて来るわ。
今居る部屋は中世を思わせる内装とエライ高い天井に壁画タップリなのが印象的。玉座の間って奴だろう。
「私達の世界をお救い下さい!勇者様!」
如何にもなお姫様の姿の女性が叫ぶ。
(・・・ハイハイテンプレテンプレ)
心の中でツッコミを入れつつ俺は此処に降り立つ前の出来事を思い返す。
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何時もの様に会社の近くの公園で一休みがてらのスマホ弄り。
ベンチに座り、適当にネット小説サイトを開くと缶コーヒーを一口。正に何時もの光景だ。
「クッソキツイわ・・・仕事辞めてぇ~」
何度と無く呟いたであろうセリフを又吐きつつ、スーツの上着を脱ぎ鞄を無造作に脇に放る。
「外周りだって楽じゃね~っての・・・」
如何時間を潰すかに思考が固定さると、動く気力すら無くなった。
ふと公園の中央広場に目をやると、学生と思われる5人組みが楽しげに歩いているのが目に入って来る。
(あ~・・・そうか。もう春休みって奴かぁ。・・・俺の春休みって何年前だっけ?)
実際には十何年前なのだが、そこら辺はまぁ良いだろ。
「青春」
そんな言葉とは無縁の学生生活を送った身に映る楽しげな男女・・・キツイな。
何と無く居心地が悪く感じ、少し場所を変えようと立ち上がった時異変は起こった。
(何だ?地面が発光してる?)
周囲が地面から嫌に明るくなる。不自然な明るさは段々と強くなり、公園を包み始めた。
「何だ!?」「何コレ?何なの!?」「一体如何なってやがる!?」
上がる声は先程の学生達の物だろう。嫌な予感しかしない俺は急いで公園から脱出を試みる・・・が、時既に遅し。
一気に光量が跳ね上がると視界は白一色に包まれ意識が遠退き始める。
『あら?何だか余計なモノまで釣れちゃったみたいね。・・・まぁ良いわ。コレにも使い道は有るし』
そんな声が聞こえた気がした・・・
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「んぁ!?」
間の抜けた声と共に意識が戻る。何時の間にか地面に寝転んで居たらしい。ったく、真昼間から俺は何やってんだか。
視界に映るのは青空。良い天気だ。・・・何て考えて居ると、
「オイ、起きろ。「綾野木匠」通称「オたくみ」」
「そのあだ名で呼ぶんじゃねぇ!!!!!」
昔の不愉快な名称に思わず怒鳴り飛び起きた。
「・・・何だコリャ!?」
そして周囲の光景に愕然とする。TV番組みたいな煙が舞い、辺りは空色。足元は・・・煙が濃すぎて見えない。
性質の悪い冗談かと思いつつ、不愉快な名称を発した方を見ると美しい女性が立って居た。
漫画やアニメで良く見る、所謂『女神』そのものが在った。
「は?」
改めて間抜けな声が出たが、その『女神』は俺に「然も興味が無い」と言った感じで話を続ける。
「身長164cm、体重72キロ・・・酷い小太りだなお前」
「余計なお世話だ!」
綺麗な声でそんな事を言われると余計に腹立つ。
「年齢31・・・駄目だな。もう手遅れだろお前」
「何なんだよアンタ!?さっきから失礼極まりないぞ!?」
「何と言われると、神だな。女神だよ」
「・・・見も蓋も無い説明ありがとよ」
酷い言葉使いにも半ば呆れつつその女神とやらを観察する。俺より背が高く、髪はゴールドのロング。
言葉使いと高圧的な態度さえ無ければ万人受けしそうなスペックだろう。
「アンタの名前は・・・」
「ハァ!?何で「オたくみ」に名前教えなきゃなんない訳?」
・・・これだよ。何だこの残念女神!駄女神!
「「オたくみ」、お前失礼な事考えただろ」
「そうだなだ駄女神」
「フフフッ」
「クククッ」
お互い笑いつつも目をギラ付かせる。
「まぁ良い。お前は所詮「オマケ」だし」
先に口火を切ったのは駄女神。ってか何だ?「オマケ」って?
「「オマケ」・・・だと?」
「そうだよ。私の『啓示』で某国に『勇者召喚』の儀式をやらせた。メインは5人組み。お前は「オマケ」」
あの学生5人組みの事か。ってかコレってつまり・・・
「巻き込まれ型の奴か?」
「何の事言ってるか判らんけど、まぁ良いや」
どうやらこの駄女神は日本のサブカルに疎い様だ。
しかし・・・巻き込まれ型転移かよ。巻き込まれ型って大体碌な事にならないんだよなぁ・・・ま、ラノベではの話だが。
「で?俺の事は如何するんだ?」
「・・・ふむ、取り合えずコレでも飲んどけ」
そう言って駄女神は何も無い空間からコップを出現させ俺に手渡す。
中身は透明なのだが・・・すげぇ良い匂いがする。が、警戒心は既に上限突破。
「コレ・・・何だ?」
「『神話的飲料水』だけど?」
「あ~そ~っすか」
怪しさ満点だろ。「オマケ」に行き成り『神話的飲料水』出すとか。
「・・・強制させても良いんだけど?」
俺の怪訝な顔を見た駄女神がそんな事を言う。選択肢は「飲む」か「飲まされる」しか無いのか畜生!
「判ったよ!クソ!」
そして一気に飲み干した。味は・・・何だコレ!?美味過ぎるだろ!!今までの人生で一番美味いぞコレ!!!
だが次の瞬間、その歓喜は悲鳴に変わったよ。
「あ・・・グァ!?・・・ガ、ギギ!!ガァァァァ!!!!」
全身が軋み痛む。『筋肉痛を究極に強くするとこうなる!』ってな感じの形容出来ない痛みでのた打つ。
「アハハハハハ!何ソレ!?」
駄女神の蔑む笑い声が聞こえるが、そんな事は如何でも良い位に感じる程痛い!
「クソ・・・がぁ!!何し・・・や・・・・・がっ・・・・・・・たぁ!!!」
「ククククッ。あぁ、大丈夫大丈夫。強制的にレベルを上げてるだけよ」
「な・・・に!?」
徐々に痛みが引き、何とか声を絞り出す。駄女神が俺に手を翳すとホログラムが空間に投影された。
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「綾野木匠」
レベル100
生命力 1986
魔力量 1950
筋力 1273
体力 1189
敏捷性 1003
精神力 2998
技能ポイント 残量100
職業 サラリーマン
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「お~・・・中々のスペック。残念なのはオッサンって事とフツメン容姿だけねぇ」
「散々だな、オイ!それに何だ職業サラリーマンって!浮いてるじゃねーか!!!」
「五月蝿いな。ま、やる事やってさっさと下界に落としましょ」
「何言って・・・ぐぁぁぁぁっぁぁ!!!!!!」
抗議の声は駄女神が再び俺に手を翳した事で遮断され、俺の体が光る。すると痛みと共に急激な倦怠感が襲い掛かった。
「クソ・・・何しやがった・・・」
「「オたくみ」の有効利用よ。お前のステータスやスキル・・・あの5人組みに与えて上げるの。嬉しいでしょ?」
駄女神の顔は酷く歪み、笑っていた。・・・散々見た事の有る、俺をイジメた奴らと同じ顔。
「・・・く・・・クソ・・・・この!!!このクソビッチが!!!!!!!」
「負け犬の遠吠えなんて気にも成らないわねぇ」
何なんだこれは・・・俺が何をしたってんだ?こんな仕打ちをされる程悪い事したか?俺は?
駄女神が翳した手を引き、俺から光りが失われると、再度ホログラムが空間に投影された。
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「綾野木匠」
レベル100
生命力 200
魔力量 200
筋力 200
体力 200
敏捷性 200
精神力 1400
技能ポイント 残量40
職業 サラリーマン
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「まぁこんな物でしょ。喜びなさい?死なない程度には残してあげたわよ?」
「テ・・・メェ・・・」
「まぁ、こっちの世界の一般人がレベルMAXには出来ないでしょうし、
例えMAXに出来たとしてもその数値よりお前は少し低いけどねアハハハハハ」
コイツ・・・最悪だ。何でこんなクソビッチが女神なんだよ!
「クソが・・・そん・・な・・じゃ・・・すぐ・・・しんじまう・・・」
「あぁ、そうね。流石にそれじゃ誤魔化しきれないわねぇ・・・」
クソビッチは少し悩むと直に拍手を打ち、満面の笑みをする。嫌な予感しかしない。
「そうだ。加護をしましょう。大体2年位の。何をしても死なない様にすればOK」
「な・・・ふざ・・・けん・・な!!」
生殺与奪すら奪われるのか!俺は!!そんな俺の絶望的な顔を見たクソビッチは又あのイジメ顔をすると、
「大丈夫。私、そこまで鬼じゃ無いから。お金位は自由に使わせてあげる」
「・・・だ・・・まれ・・・クソ・・ビッチ!!」
「その代わりにもう少し貰うわね」
「頼ん・・で・・・ねぇ・・・だろ!」
此方の事などお構い無しにクソビッチは手を翳す。
「っ!!!!」
俺は最早声も出ない程疲弊していた・・・
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「綾野木匠」
レベル100
付属ステータス
職業ボーナス+代償 (特定の職業選択不能)
魔眼発生代償 (失明)
ステータスドレイン済み
限定加護 (2年間不死)
限定金銭作成 (2年間金銭無限使用可)
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散々俺を弄り終えホログラムを見つめると満足気にクソビッチは頷と、
「さ~て、これで良いわね。お前はこれで用済みよ」
そう言いながら地面?に穴を作り出す。成る程、あそこから落されるのか。
「なに・・・が・・・も・・くて・・・き・・・なん・・・だ」
何とか力を振り絞り俺はクソビッチの真意を聞き出そうともがく。
だが、そんな事は御構い無しと言わんばかりにクソビッチはアッサリ真意を下呂した。
「そうねぇ・・・強いて言えば、暇潰し?私の加護で可愛いあの子達を活躍する勇者へとプロデュースするのよ」
ブチッ!!!
何かが切れる様な、そんな音が俺の内側から聞こえた気がする。
「・・・テメェ!!!!ふざけんのも大概にしやがれ!!!」
「な!?」
俺の何処にそんな力が残っていたのか・・・気が付くと渾身の力で拳を握りクソビッチへ殴り掛かって居た。
百歩譲って俺は良いさ!クソみたいなマンネリ生活、家族とも繋がりが軽薄できっと居なくなっても心配もされないだろう。
だがあの5人は違うだろ!これから無限の可能性を信じ希望に満ちていた筈だ。
それを事も有ろうに暇潰しで歪めるなんざ、女神で有っても許される訳ねぇだろ!!!
チッ!
俺の拳がクソビッチの頬を掠める。
「な!お前!!!この私に・・!!」
クソビッチは顔に青筋を立て、何かを言ってる様だが俺の体は既に浮遊感に包まれて居る。これ以上何かをされる前に殴りがてらクソビッチが開けた穴へと飛び込んだのだ。
クソビッチの姿が急速に小さくなって行く。下界って所に落ちて行ってるんだろう。
俺はクソビッチの居る方へ向き直すと中指を立て、
「ざまぁ見やがれクソビッチ!!一掠り分俺の勝ちだクソアマ!!!!」
渾身の力を込め叫んだ。