コンビ結成!
帰る途中、晩御飯の材料の買い出しをしたので、事務所に着く頃には夕方になっていた。今日も疲れた...。そう思いながら扉を開けると、
「こんにちは...であってるかな。」
突然部屋の中から声が聞こえた。驚いて声のした方を向くと、さっき連れて来た男の子が本を読んでいた。横には、すでに読み終わったのか、今から読むのか、大量の本が積み重なっていた。
「あら、目が覚めたのね。少しお話を聞かせてもらっていいかしら?」
「別に構わないよ。こちらも聞きたいことがあるし。」
「じゃあ、まず自己紹介ね。私は藤村紫月。滅却師よ。あなたは?」
「椎名馨。」
「椎名馨ね。で、あなたは何であそこに倒れていたの?」
「すまない、何も思い出せないんだ。何か手がかりはないかと思って本を読んでみたが何も思い出せなかった。それどころか知らないことばかりで驚いているところなんだ。」
「つまり記憶喪失ってこと?」
「いや、記憶喪失というより記憶が曖昧な感じだ。今で言う古語は覚えていたが、今話しているような言葉は先ほど本を読んで知った。」
「さっき知った...、って嘘でしょ?!いや、それよりも古語は覚えていたということは、転世者の記憶と混ざって自身の記憶が曖昧になったということだわ。確かに力を持つ人は転世者の記憶を見るけど、記憶が混濁するほどなら相当強い力を持っているということね。それなら、あなたの今の状況にもうなずけるけど...。でも、椎名家なんて聞いたことがないわね...。まぁ、いいわ。決めたわ!あなた、私のアジュバントにならない?」
「アジュバントとは?」
「まず、䨩从は知ってるわね?」
「うん、さっき本を読んで知った。」
「一応説明しておくと䨩从とは日本で平安時代から突如出現したものよ。出現に関する説は色々あるのだけど、はっきりとした原因はわかっていないわ。私たち滅却師の仕事は簡単に言うと、国から依頼を受けて䨩从を滅却することよ。それで、仕事の時にパートナーと活動することができるの。そのパートナーのことをアジュバントと呼んでいるわ。もらえる金額は変わらないけどね。」
「それは君にとっては損ではないのか?」
「それはそうなんだけど、その代わりアジュバントは補佐していると共に会議に出席できるのよ。これが一番の特権ね。普通の滅却師じゃ会議には参加できないから。」
「なるほど。他にもアジュバントを持つ人はいるのかい?」
「ランクの高い滅却師のほとんどはアジュバントを連れてはいないわ。アジュバントを持つためには本部への申請が必要だから、それをめんどくさがる人が多いのかもね。あなたも申請が必要だから、明日、一緒に本部に行きましょう。」
「分かった。アジュバントについて右も左もわからない自分でいいなら是非ともお願いするよ。えっと...こう言う時は握手をすべきなんだろうね。」
「そうね。改めまして、こちらこそよろしく。」
手を出すと彼も手を握って来た。
「で、聞きたいのだが、あれはなんだい?」
馨は空中をふわふわ浮かんでいた鳥型のオートマタを指差した。
「あぁ、あれはね、霊力によって動くオートマタの式神よ。あれに意思はないから、命令には忠実に従ってくれるわ。」
「そうか...。それからここはどこなんだ?」
「ここは私の運営している䨩从対策事務所よ。今は国からの依頼待ち中。ちなみにこの上が私が住んでいる部屋ね。あなたもここに住むといいわ。」
「それは非常にありがたいことなのだが、男女七歳にして席を同じゅうせず、という言葉があるように、それは良くないと思うぞ。」
「いいじゃない、それぐらい。それよりも私のアジュバントが露頭に迷う方が困るわ。」
「いや、確かにそうかもしれないが...。しかし、それとこれとでは...。」
「もう、これは決定事項よ。拒否権は認めないわ。分かったわね?」
「...。分かった。素直に泊めてもらうとしよう。よろしく頼む。」
「分かればいいのよ、分かれば。他に何か聞きたいことはある?」
「うん、今のところは大丈夫かな。」
「そう。じゃあ、二階に行ってあなた用の部屋に案内したら夕食にしましょうか。ついて来て。」
机の横を通り、給湯室横の二階へ続く階段に向かう。ちょっと後ろを振り返ると、すぐ真後ろに馨はいた。
「ここが階段よ。」
一段一段登って行く。彼もその後に続く。彼とのこれからの生活を考えると楽しみのような不安だらけのような、そんな気持ちを感じながら、階段を登る私なのでありました。




