11話 引っ越し
久しぶりの更新です!
お待たせしてすみません。
「ふぅ〜。危なかった」
本当に危なかった。
レベル的にも完全に格上。このチートスキルがないと確実に負けていたな。
『レベルが上がりました』
久しぶりのアナウンスだ。
やっぱり、強いゾンビと戦うとすぐにレベルが上がる。
神崎 清 16歳
レベル 10
体力 210
力 29
耐久38
速さ 32
精神力 36
スキル
空間支配 思考加速
久しぶりにステータス画面を開く。
レベルが2も上がっていた。
そのせいか、体がいつもより軽く感じる。
まぁ、すぐに慣れるだろうが。
「神崎さん大丈夫でしたか?」
美奈が心配そうに尋ねてくるが、空間隔絶のおかげで俺には傷一つない。
「ああ、大丈夫だ」
それよりもさっきのゾンビに「絶対切断」をかわされたことが気になる。
今までこんなことはなかった。
もしかしたら、そんなことが可能なスキルなんかがあるのかもしれない。
もし「空間隔絶」を破るスキルが出てきたとすれば、俺はなす術もなくすぐに負けるだろう。
今までの戦闘で防御はすべて「空間隔絶」に頼りきっていたからな。
「神崎さん、本当に大丈夫ですか?」
思考モードに入っていると、再び美奈から心配そうに声がかかった。
まだまだ考えたいことはあるが、それよりも今はやるべきことがある。
それは、新しい住処の確保だ。
あの黒装束の初撃のせいで、この廃ビルはほぼ全壊状態だ。
というか、道路などもあいつが通ったであろうところが抉れていて、ビルなどはほとんどが半壊している。
あの時、咄嗟に「空間隔絶」で守ったのは自分と美奈、あとはオフィスビルから持ってきた備蓄食料だけだった。
どうせなら、廃ビル全体を守った方が良かったな。
「空間支配」なら廃ビルの中からでも戦えたわけだし。
とにかく住処だ。最低限、寝れればいい。
最悪「空間隔絶」を張っとけば、俺はどこででも寝れるんだが。
あれは、意識しない限りは消えない。
とはいえ年頃の女の子を外に寝かすのは、気がひける。
「よし。新しい住処を見つけにいくか」
「そうですね」
あの黒装束が来た方向の建物は、ほとんどが住める状況ではないので、それとは逆方向へと歩いていく。
「空間把握」で見たところ、中のゾンビを片付ければ住めそうな建物は多い。
元々、避難所になっていたところを探せば寝る場所にも困らないだろう。
「ここにするか」
「あ、いいんじゃないですか?」
俺たちが立ち止まったのは、小さな事務所らしき建物だ。
「空間把握」で見てみると、事務所の鍵は閉まっているのにもかかわらず、中にはゾンビが6匹いた。
おそらく、ここも内部崩壊したところだ。
やはり、内部崩壊を防ぐのは難しい。
変色が見つかったからといって、すぐに切り捨てるという判断はなかなか取れない。
だが、その判断の遅れがこの世界では死に繋がってしまう。気をつけないとな。
「ちょっと待っててくれ」
俺は「転移」を使い、中のゾンビを適当に外に飛ばした。
そして、「絶対切断」で仕留める。
一旦外に出したのは、血などで出来るだけ中を汚したくないからだ。
まぁ、内部崩壊したわけだからある程度は汚れていると思うが。
「よし、入っていいぞ」
といっても、鍵が閉まっているので「転移」で中に入るわけだが。
「やっぱりこれ、すごい能力ですね」
美奈が驚いたように言う。
「まぁ、お前のも結構便利だと思うけどな」
「清さんに比べたら全然ですよ。瞬間移動したり、壁作ったり、いきなり敵が真っ二つになったりってどんだけチートなんですか!?」
「いや、俺のは一回進化してるしな。美奈のも進化して、スキルとか見れるようになったら、結構強力じゃないか?俺たちみたいな人間に出会った時に、だいぶアドバンテージになると思うぞ」
「それはそうかもしれないですけど……。戦闘では清さんに頼りっきりで……。私も戦闘に使えるスキルだったらよかったです……」
なるほど、戦闘を俺に任せていることを気にしていたのか。
「確かに美奈のスキルは戦闘向きじゃない。けどな、戦う方としては相手の強さが大まかにわかるというのはすごく助かることなんだ」
「……でも!」
「でもじゃない。お前がレベルを知らせてくれたおかげで、あの黒装束相手にも油断せずに戦えたんだ。あまり、引け目を感じることはない。お互い、適材適所ってことだよ」
「はい……」
うまく伝わってるといいんだが。
相手のレベルを知った上で戦いに臨むというのは重要だ。
ましてや、俺たち以外の人間に会った時はレベルが分かるだけでも大きなアドバンテージとなる。
こんな状況になっているので、いきなり襲ってくることもありうるからな。
とりあえず、中の様子を見てみる。
どうやら、一階は少し散らかっているが床に布団が敷いてあり、ここで寝れそうだ。
それに反して、二階はひどい惨状になっている。
食いちぎられたような手足は「転移」でそとに出しておいたのでまだマシだが、飛び散った血はどうしようもなかった。
床や壁、天井にまで飛び散った血はここであった悲惨な出来事を物語っている。
まぁ、この四日間でこんな光景は見慣れているわけだが。
飛び散った血はまだ乾いていない。
内部崩壊してから、あまり時間が経っていないのかもな。
美奈も、二階へ上がってきてこの光景に多少はびっくりしたようだが、目を逸らすことはなかった。
どうやら、もう慣れたらしい。
まぁ、それぐらいでないとこの先、生きていけない。
「二階はともかく一階は住めそうだな。此処にするか」
「そうですね」
もうすぐ日が暮れる。
とりあえず、住処が見つかったのであとは食べて寝るだけだな。
☆☆☆
夕食が済んですぐに寝床につく。
俺が布団に入ると、美奈は当然のように隣の布団に入った。
やっぱり寂しいのかな。
まぁ、とにかくやっと考える時間ができた。
今のうちにいろいろ決めておこう。
まずは、今日俺たちを襲ってきた黒装束についてだ。
今まで見たことのない高レベルで、言葉も片言ながら話せていた。
気になるのはそこだ。
ゾンビになってから、日本語を覚えるというのはまず無理だろう。
そうなるとゾンビになる前、つまり人間だったころの記憶が残っている可能性が高い。
だとしたら、もっとレベルが上がって生前の記憶を完全に操れるようになったら。
人間の味方をしてくれるようになるんじゃないか?
まぁ、引き継ぐのは知識だけで思い出などは忘れてしまうという可能性もある。
これはあまり期待しないでおこう。
次は「絶対切断」をかわされたことについてだ。
あれは目には見えないはずなのに、黒装束のゾンビはまるでどこに来るかが読めているかのように躱した。
正しくは、切断される空間を意図的に避ける動きをしたということだ。
これは何らかのスキルによるものなんじゃないかと予想している。
つまりは、ゾンビにもスキルがあるかもしれないということだ。
ゾンビが人間と同じようにスキルを得られるとしたら、レベル12にもなっている黒装束はスキルの2つや3つ持っていてもおかしくはない。
もしそうならば相当厄介だ。
俺みたいな強力なスキルをゾンビが持ったらと思うと恐ろしい。
会った途端に死んでいたなんてこともありうる。
そうならないためにも、美奈の「鑑定」を進化させたい。
進化してスキルなんかを見られるようになれば、最悪「転移」で逃げることもできるだろう。
とりあえず、明日からは美奈のレベルアップに努めよう。
明日からの方針が決まったところで、寝返りを打って美奈の方に目をやる。
気持ちよさそうに寝息をたてて寝ている……はずもなく、うなされているようだ。
何か悪い夢でも見ているのだろうか。
平気そうに見えても精神的疲労は相当なものなんだろう。
少しでも俺が支えになれればいいんだが、なかなかそうはいかないな。
そんなことを考えながら、俺も疲れていたのかいつの間にか眠りについていた。