1話 緑の化け物
5/30 一部修正を加えました。内容は変わっていないはずです。
ps.まさかパニック日間一位になれるとは……。
読んでくれた読者の皆さんには、本当に感謝しています。
「どうしてこうなった…?」
日常から弾き出され、避難場所からも弾き出された俺は、何度目かも分からない溜息をつく。
窓の外を見るが、いつもの風景と変わりがない。
一つ違いがあるとすれば、校内をうろついている生徒が、緑色の肌に覆われた化け物に変わっていることぐらいか。
そんなことを考えながら、俺はまだ日常だった朝のことを思い出す。
☆☆☆
今日もいつもと変わらず、ホームルームの五分前に教室に付いて席に座っていた。
「よっ!おはよー、清」
「あぁ、おはよう」
言い忘れたが、俺の名前は神崎 清。今年で高校二年生になる。
そして、俺を見るなり駆けてきて、俺に挨拶してきたのは、館山和。中学の時から、ずっと同じクラスで所謂、親友と呼べるやつだろう。
「ほい、日直日誌。どうせお前のことだから取ってくるの忘れてただろ」
「ありがとな。そういえば今日は日直だったか」
危なかったな。職員室に置かれている日直日誌を取り忘れると、日直をやり直さないといけなくなる。
なかなか面倒見のいいところも、長く仲良くできるところだな。
「おはよう、清。終業式の日は日直の仕事少ないから、ラッキーだったね」
今話し掛けてきたやつは、楽泉 幹也。付き合いは、高校に入ってからだが何故だか気があう。俺たちは、大体この三人で一緒にいる。
「じゃあ、ホームルームを始めるぞー!」
いつの間にか担任が入ってきていた。俺たちの担任は、八岩 良。体育の教師で、そのさっぱりとした性格から、生徒たちの人気もなかなかに高い。
「今日は、終業式だからこのあとは、体育館に集合してくれ。何か質問はあるか? ……………よし、じゃあ終わるぞ」
さぁ、ホームルームも終わったことだし、体育館に行くとするか。
「おーい、清。お前、日直なら鍵閉めないと」
「おぉ、忘れるところだった。ありがとな、和」
危なかった…。これも忘れたら、もう一回日直やらされるからな。せっかく終業式にあたったのにやり直しは勘弁だ。ていうかうちの担任厳しすぎるんだよな。
みんなが教室から出たのを、確認して教室の鍵を閉める。
「さてと、俺も体育館に向かうとするか」
体育館に向かおうと廊下を歩いていると、なんだか外が騒がしい。
何だろうな、と思い窓の外に目をやると、なにやら生徒が逃げ惑っているようだ。
何で逃げてるんだ?そう思って、視線を巡らせる。
すると、明らかにこの学校の生徒ではない服装をした、おじさん?がいた。
遠目なのでよくわからないが、右腕の手から先がないように見える。
何よりおかしいのが、顔、手足すべて緑に染まっている。
そうした生き物が二体、奇声をあげながら生徒たちを好き勝手に追い回していた。
先生たちが、体育館に生徒たちを誘導している。
どうやら、生徒たちを体育館に避難させるつもりらしい。
先生の誘導の成果もあり、何とか大体の生徒は体育館に入り終え、まだ外で逃げ惑っているのは数えるほどしかいない。
例の生き物達は幸い、足はそこまで早くないようである。まぁ、おっさんだしね。
そんな時だ、二体に挟まれた女子生徒が急な方向転換をしようとして、転んでしまった。
二体は、我先と女子生徒に群がる。
その隙に、他の生徒は体育館に逃げ込んだ。
体育館に逃げ込んでいないのは、その女子生徒だけとなった。
必死に振りほどこうとするが、おっさんと言えど成人男性だ。
女子生徒が力で叶うはずもなく……。
肩に噛み付かれた。
女子生徒の悲鳴が窓を貫通し、校舎まで届く。
えっ?何やってるんだ?
不審者だと思っていたから、もっとこう別のことを想像していたんだが……。
そうしている間にも、女子生徒の左腕は齧られていく。
その時だ。左肩から女子生徒の肌が変色し始めた。
おっさん達と同じ濃い緑色にだ。
その緑は、見る見るうちに女子生徒の白い肌を侵食し、とうとう全身が緑色に染まってしまう。
すると突然、おっさん達が齧るのをやめて何事もなかったかのように立ち去っていった。
女子生徒が立ち上がる。
その瞳には先程までの光は宿っていない。
そして、ほとんど齧られてしまった左腕を気にすることもなく、どこかへ歩いて行った。
なんだったんだ、今のは…?
まるでゾンビだ。
体育館のドアはいつの間にか閉められていた。
どうやら、女子生徒は見捨てられたらしい。
ん…?てことはつまり……。
「俺、取り残されとるやん」
ついつい関西弁が出てしまった。
つまり、それほど焦っているということだな。
まずい状況だ。
とにかく、今から体育館に向かうのは危険だな。
とりあえず、この校舎の安全を確保しよう。
この学校には校舎が二つある。
北校舎と南校舎だ。
上から見ると「コ」の字になっていて下の横棒が南校舎。
上の横棒と縦棒が繋がっており、それが北校舎だ。どちらも三階建てで、俺がいるのは南校舎の二階である。
ちなみに体育館は、「コ」の左側にある。
北校舎には階段が二つあるが、南校舎には一つだ。
つまり階段のところを封鎖すれば、二階より上にゾンビは上がってこないはずだ。
階段まで急ぐ。
何としてもゾンビが二階に上がってくるのは阻止しなければならない。
階段に着き、一階をそっと覗いてみるがゾンビがいる気配はない。
「よし、防火扉を閉めるか」
防火扉を閉めてしまえば、ゾンビは上がってこなくなるはず。
確か思い切り、押してから引けば閉まるはずだ。
よし閉まった。
これで、当面の安全は確保できたな。
次に考えることは食糧だろうか。
人間、飲まず食わずで生きられるのは約3日だけだと聞いたことがある。
今日は終業式だったから、学校は昼までで終わる。
つまり、弁当を持ってきているやつはいない。
水筒は持ってきているやつが大半だろうから、水は心配ない。
カバンを漁っても水は見つかるだろうが、食糧が見つかる可能性は薄いということだ。
体育館の方はドアを閉めてしまえば密閉空間だ。
ゾンビが入る隙はない。
さらに、体育館は災害などで避難所になることがあるため、全校生徒が約一週間生き延びられるだけの非常食が完備されている。
そもそも、この状況はどれぐらいの範囲で起こっているものなのだろうか。
あのおじさんゾンビは明らかに外の人間だろうから、校外でもこういうことが起こっているはずだ。
この地域だけか、あるいは国全体なのか。
もしかしたら、このパニックは世界中で起こっているのかもしれない。
おそらく、体育館にいるやつらは非常食を消費しながら救助を待つのだろう。
いや、そもそも救助なんてくるのか?
日本中がこのパニックに陥っているのなら、別段都会でもないこの高校に救助が来る可能性は薄い。
救助は当てにしないでおこう。
救助がこないとなると、いつか餓死してしまう。
やはり、どうにかして校外に食糧を取りに行くしかない。
となると、外のゾンビをなんとかしなくちゃな。