第七騒動 再会
「あーもー!!いい加減にこっから出しなさいよ!!」
「黙れ!大人しくしないと容赦しないぞ!!」
「そりゃこっちのセリフよ!このハゲ!!」
「ハ、ハゲェ!!??」
「自分の頭鏡で見なさいよ!このハゲハゲ!!」
「う、うるさい!!とにかく黙ってろ!!」
ビシャリ!!
「あ、ちょっと!待てって言ってんでしょーがこのハゲェ!!!!」
「・・・メルちゃん。」
「あぁ!?」
メルさんがカイルさんに向かって怒気を含ませて睨み付けると、彼は途端に縮こまった。この光景が二日続いていて、最初は私も恐かったけれど、次第に慣れていきました。けれどそれがいいわけありません。この牢獄に放り込まれてから、メルさんはいつもイライラしているようだし、カイルさんはメルさんの憂さ晴らし的な存在になっている。私だってここに放り込まれていい気にはなれないし、むしろ生かすか殺すか決めて欲しいですけど、牢屋に放り込まれる前に飲まされた薬のせいで魔法は使えなくなるから脱出も無理。つまりはどうすることもできない。
「メルさん、もうやめてください。」
私はメルさんを止めた。
「だ、だって・・・。」
「今八つ当たりしても意味がないでしょう?こんな所で体力を消耗したりしてたら、今日辺りにでも倒れますよ。」
そう静かに言ったのはジュードさんだった。いつもは物腰柔らかでメルさんに怒鳴られている人だけど、こんな時でも冷静でいられる人だからいつも助けられている。メルさんもジュードさんの有無を言わさない正論に、仕方なく俯いた。確かに、今体力を消耗したら体がもたない状況になっている。皆僅かにやつれていて、普段から食べる量が多いメルさんは、ここの食事には相当憤慨していた。
「ジュードさん。魔力の方はどうなんですか?」
「ええ、今放出している所です。ですがそれもいつまでか・・・。」
ジュードさんは言葉を濁した。私達のように魔法が使える者は魔力を持っていて、その魔力を外に放出する事により、同じように魔力を持った人間がそれを感知して事態を知らせることが出来るんですが、長時間の放出は無理で、魔力が無くなれば当然放出出来なくなるし、当然魔法も唱えられなくなってしまう。
「・・・まぁ元々助けなんて期待しちゃいないけどね。」
メルさんが自嘲気味に言った。メルさんにしては後ろ向きな発言だと思うけど、それに対して私は反論できなかった。
「・・・フィリア、大丈夫かな?」
カイルさんが顔を俯かせながら言った。
「バカ!大丈夫に決まってるでしょ!」
メルさんがカイルさんの頭を叩いた。
「づぅ・・・。」
痛そうに頭を摩っていたカイルさんだったけど、やがて足を組んで座り直した。
嫌な沈黙がこの場を覆った。
「・・・これでよかったんでしょうか?」
唐突にジュードさんが口を開いた。
「・・・どうゆう意味?」
「確かに私が彼女をどこかへと移動させた為に私たちと共に捕まらずには済んだ。ですが、彼女は今、誰に頼ることもできず、一人でさ迷っているのではないでしょうか?」
「・・・。」
「それは、私たちでも気付いていたはず・・・なのに私たちは彼女を飛ばしてしまった。仮に彼女が逃げおおせたとしても「それ以上言うと殺すわよ。」
途端にメルさんが有無を言わさない口調でジュードさんの口を遮った。そしていきなり立ち上がってジュードさんの胸倉を思い切り掴んだ。
「それってもう助からないって事と同じじゃない。じゃあ私たちは何の為にここまで来たの?今まであの子を守ってきた意味ってあるの?まだわからないってのに希望無くしてんじゃないわよ!!」
ひとしきり怒鳴った後、メルさんはしばらく荒く呼吸しつつ睨み付けていた。メルさんに怒鳴られている間でも、ジュードさんはずっと顔を逸らしていた。
「メルさん・・・もうやめてください・・・。」
私は静かに止めた。メルさんは私をじろりと睨みつけた。言いたいことはわかってますけど、けど今争ったって意味はないんです。争った所でどうにもならないんです。そう言いたいのに、なぜか言葉が出ない。彼女の威圧に負けているのか、それとも自分でもどうしたらいいのかわからないからか・・・。けれどメルさんは渋々ながらもジュードさんから離れた。
「・・・私たちにはもう・・・祈ることしかないんです。」
そう・・・今の私たちでは何もできない。あの時、とっさの判断とはいえ、フィリアがつらい思いをしていると思うと胸が張り裂けそうになる。脱出したとしても、どこに行けばいいのか。あの子はどこにいるのか。それに会ったとしても、あの子は私たちを憎んでいたら・・・ふと壁にある窓から外を見てみた。外は霧で空が見えず、夜のせいか、一層暗く見えた。あの子は暗い中、どう過ごしてるんだろう・・・。
「リリィさん?」
・・・・・・・・・・・・・・え?
「フィリア?」
突然見覚えのある幼い顔が窓から見えた・・・明らかに・・・幻覚。
「フィリア・・・なの?」
皆も驚いて目を見開いている。皆も疲れから同じ幻覚を見ているんでしょうか・・・?
「みんなぁ・・・。」
いつもつらい時や悲しい時に言う涙声がはっきりと聞こえる。幻覚なのに・・・はっきりと・・・。
「お、皆いるのか?」
ふと、外から男性の声が聞こえた。ドアの向こうからじゃなくて、フィリアのいる窓の方から・・・。
「はい!」
「おお、そうかそうか。んじゃ中入るぞ〜。頭からじゃなくて足から入れよ。あ、中の人〜。悪いけど受け止めてやってくんねぇ?」
随分とのんびりとした声がした後、フィリアが少し上によじ登った。窓に足がかかると、そのまま滑り込むように私たちのいる部屋へ・・・。
「メルちゃん!」
「わかってる!!」
カイルさんが叫ぶと同時に、メルさんが落ちてきたフィリアを受け止めた。
「メルさん・・・。」
「フィリア・・・フィリアよね?」
心なしか、メルさんの声が震えていた。私も近づいて、フィリアの頬に触れた。私の、好きな感触。時々、寝顔を覗きつつ触れていた柔らかい感触だった・・・幻覚じゃ・・・ない。
「フィリア・・・。」
「リリスさん・・・皆・・・。」
「会いたかった。」
聞いた時、私の中にあった靄が一気に消えた。同時に、思わず涙が出た。もう会えないと思った者が、今目の前にある。それが限りなく嬉しかった。メルさんもフィリアを抱きかかえたまま泣いていた。普段強気に振舞っている彼女が泣いていた。ジュードさんも、カイルさんも涙を流していた。
「あ、どっこいっせっとぉ!!!!!」
「ぐはぁ!!???」
・・・いきなりカイルさんの上から何かが、ではなく誰かが降ってきた。皆も泣くのはやめて、思わずそちらを凝視する。
「ふい〜、やぁっと辿り着いたぜ〜。」
ゆっくり立ち上がったのは、私と同じくらいの少年だった。変わった服装をしていて、変わった顔立ちをしていた。その中でも、髪型がすごかった。まるで針のように逆立った茶色の髪が様々な方向に伸びていた。ツンツン頭がさらに上を行くような感じ。
「うっわ、にしても何だよここ?めっさ不衛生じゃねぇか。床汚ぇし何かカビ生えてるし?俺だったらこんな所死んでもお断りだね。マジで。」
彼は整った眉をひそめながら悪態をつきながら辺りを見回した。
「ねぇ・・・アンタ誰よ?」
少し呆然としていたメルさんが声を掛けた。フィリアはもう床に降ろされている。
「あ、そうだ自己紹介忘れてたわ。いやわりぃわりぃ♪」
何の悪気もなくそう言うと、両膝に手を付けつつ、腰を曲げた。
「まぁ、お初にお目にかかるってことで。俺は坂本 宗次郎っていうもんだ。まぁよろしく頼むわ。」
こうして、私たちは変わった名前をした人、ソウジロウさんと出会った。
「お、重い。」
「あ、人だったのか。」
やぁっと更新できたぁ・・・何かネタ詰まりやらいろいろあって全然進まなかったなぁ。おかげで文章自信ないし・・・うん、もうちょっとゆとりもってやってくべきだと思うな、俺は。