プロローグ
こいつで最後!
「はぁっ!!」
赤い毛の少女は剣で目の前の敵を切り倒した。甲冑を身に纏った敵は、血飛沫をあげつつもんどりうって倒れた。
「さすがですね、メル。」
隣で法衣を着た二十代くらいの金髪青年が杖にもたれながら言った。すでに彼の眼前には黒こげになった甲冑の山がある。
「ふん!こんなのちょろいもんよ。」
「でも明らかにやりすぎなような気もしますけど・・・。」
弓を持ったお下げの少女がおずおずと言った。矢を受けて死んでいる敵達の方がメルと呼ばれた少女に比べて圧倒的に少ない。
「あぁ!?敵になんかに情けなんてかけてらんないわよ。」
「そ、それはいくらなんでもひどすぎじゃあ・・・。」
印象に残りやすい程眩しい銀色の髪をした少年が細身の剣をしまいながら言った。お下げの少女に比べると、明らかに倒した敵の数が少ない。メルは呆れたようにため息をついた。
「アンタねぇカイル。敵に甘くみられるようだとすぐに死ぬわよ?わかる?こっちだって死んでる暇なんてないんだからね。」
「死んだら元も子もないんじゃ・・・。」
「文句ある?」
「ないです・・・。」
メルの殺気の篭った迫力に押されて、少年、カイルは顔面蒼白になりながら押し黙った。他の人間も彼女の殺気に怯えてビクリと体を震わせた。
「ま、それはそれとして・・・。」
メルは気を取り直すかのように振り返ると、全身真っ黒な鎧を着た男と向き合った。同じく黒い兜を深く被っていて表情は読み取れないが、口元を見る限り無表情であることがわかる。仲間である者達の死体を見てもなお微動だにしない。恐怖におののいてるのか、どうでもいいのかはわからないが、向こうが圧倒的に不利だというのはわかる。なのにこのプレッシャーは異様だった。
「フィリア、結界。」
「は、はい!」
メルが落ち着いた声で傍にいた金髪で短髪の幼女に言うと、少女が両手を広げつつブツブツと何か文句を唱え始めた。
「・・・『アグラス』!!」
周りが暗いドーム状になってるからなのか、声が辺りに響き渡って青白い壁が彼らを包み込んだ。ほとんどの攻撃を防げる程の強度を持つ結界で、何度もこれに危機を救われたから、これで向こうが何をしてこようが大丈夫なハズだ。
「ほぉ・・・なるほど。さすが噂で聞く実力はあるな。」
全身黒尽くめの男が低い声で感慨深げに言った。その声に一行は思わず悪寒が走る。
「しかし何故ゆえ、そんな娘を護衛する必要があるのだ?貴様らとてその者の秘密ぐらい知っているだろうに。」
結界を張った少女、フィリアが悲しげに俯いた。
「何?その言い方?フィリアに向かって“そんな”ですってぇ?てゆうかアンタなんかに理由教えた所でどうにもならないじゃないの。」
メルがフンと鼻を鳴らした。
「メルさんに同感です。あなたのような人にフィリアの何がわかるというのですか?」
「リリスさん・・・。」
リリスと呼ばれたお下げの少女が静かで、しかし微かな怒気を滲ませて言った。他の男性二人は何も言わないが、それぞれの得物を相手に向けつつ、睨みながら構えている。
「ふっ・・・馬鹿な者ども程愚か者はおらぬ。」
「な・・・んですってぇ!?もう一回言ってみなさいよコラァ!!」
ものすごい気迫で怒鳴り散らすメルはそこら辺にいる魔物など怯えて逃げる程恐怖を与えるという。まさに今のセリフを言っている時がそうであり、仲間達も思わず後ずさりをする。だが男は平然と、ただ見下すような視線を一行に送る。
「まったく・・・うるさいメス犬が。だまらせてやるとするか。」
「な・・・!!」
「メルさん!!」
メルが怒鳴ろうとした時、フィリアの声と共に急に辺りが真っ赤になった。というより、結界の外が赤く輝いている。
「こ、これは・・・。」
青年が驚愕の声を上げた。ふいに男のくぐもった笑い声が聞こえた。
「だから貴様らは愚か者だというのだ。大人しく忌み子をこちらに引き渡せばよいものを・・・。」
「忌み子って言うなぁ!!」
「メル!今言い争ってる場合じゃないよ!!」
カイルが焦りの混じった声で叫ぶと共に、ビシリという音がした。周りを見ると結界の所々からヒビが入ってきている。
「う、うそ!?」
「結界が・・・壊れる!?」
メルが驚きを隠せない様子で叫び、フィリアは半ば呆然とした声で呟いた。
「ああ、言い忘れていたが、そのトラップはあらゆる結界解除の機能も含まれているのでね。まぁ死にはしない程度の威力に留めてはあるので、安心してくれたまえ。私の目的はあくまで捕獲なんだからね。ふふふっ。」
「安心できるかっつーの!!」
メルが声高に叫んだ。そうこうしてるうちに結界がもうやばい。あと数分もしないうちに壊れる。
「こうなったら・・・ジュード!お願い!!」
「わかった!」
青年、ジュードは杖をフィリアに向けて小声で呪文を唱え始めた。
「え、何を・・・。」
「・・・『ペイルス』!!!」
ジュードの声と共に、フィリアは青白い球体に包まれた。
「これは・・・!」
「『瞬間移動魔法』。あなたも知ってるでしょ?」
メルがこの緊急時にも関わらず落ち着いた声で言った。
「そんな・・・私だけ!」
「ごめん、フィリア。君を奴らの手に渡したくはないんだ。」
カイルもいつものひ弱そうな声ではなく、ある決意を固めたかのように言った。リリスも口を開く
「あなただけでも逃げて。捕まるのは私達だけでいい。」
「でもそんなことしたら!」
「ええ、間違いなく拷問にかけられてそのうち首を刎ねられるでしょうな。」
ジュードはいつもの優しげな口調で言った。言葉とは裏腹に、まったく迷いはない。
「だから、あなたは一人で里に帰って。ここからなら遠くはないし、あなた一人でも行けるはず。あいつに捕まるのなんて癪だけどね。」
「でも・・・でも!!」
「本当だったら皆で行きたいんだけど・・・ジュードの魔力も、もうないのよ・・・わかって、ね?」
リリスが優しく微笑みながら優しくフィリアの頬を撫でた。
「・・・皆・・・。」
途端、フィリアを包んでいた球体が眩く輝き始めた。
「時間ね・・・。」
「いやだ!私、皆と一緒じゃなきゃ・・・!」
「さよなら。」
メルの声とフィリアの叫び声と共に球体はふっと消え失せるのと、結界が音をたてて割れて視界を真っ赤に覆うのはほとんど同時だった・・・。
赤い光が消え失せると、後に残ったのは男と、フィリアを覗く気絶して倒れている四人だけだった。男はフィリアがいないのを見て一瞬驚愕の色を見せるが、すぐに冷静な顔に戻った。
「ふ・・・『瞬間移動魔法』、か。大層な事を最後にやっていきおって。」
男はツカツカと四人の元へと歩み寄り、リーダー格でもあるメルの横っ腹を蹴りつけた。「うっ」という呻き声を上げて顔を引き攣らせたが、起き上がることはなかった。
「・・・まぁいい。忌み子に加担するとどうなるかの見せしめにできるしな。」
男は残忍な笑みを浮かべた。そして静かに呪文を唱えると、「『フォン・ペイルス』!!」
と叫んだ。フィリアを包み込んだのと同じ球体が四人と、男を包む。
「くっくっくっく・・・はーっははははは!!!」
男の高笑いと共に球体は消え失せ、薄暗く広い部屋には元の静けさと、かつて生きていた敵達の亡骸が残った。
プロローグです。初めてだからこんなもんです。もうちょっとがんばろうかね。