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第九騒動 血筋


『おぎょおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』



「!?」

「な、何今の!?」

現在、あたし達は敵から逃れて振り切ったところで一息ついていた。そしたら急にどこからか断末魔に似た叫び声が微かに聞こえてきた。

「今の声って・・・まさか・・・。」

「違うよ!ソウジロウさんはあんなことで負けないもん!」

フィリアが自信満々に言った。いつも内気なフィリアが・・・ちょっと見ないうちに成長してるように見えた。

「・・・そうね。とにかくあいつの無事を祈っとこ。」

背中の剣を担ぎ直してからこれからどうするか思案に更けようとした。

「いたぞー!こっちだ!!」

・・・最っ悪なタイミングで出てきやがったわね奴ら。

「ちっ!逃げるよ!」

休まる暇なんてない。とにかく逃げないと!

「メル!そこの階段を!」

「言われなくてもわかってるわよ!」

ジュードが指差す先は、上へと続く階段だった。ここは最上階だから、上は見張り台になってるはず。他に逃げ場はないし、周りにドアもない。敵がいるかもわからない。いたらいたで挟みうち。でもどうすることもできないし、とりあえず駆け上がっていった。

「上に行ったぞ!」

「逃がすな!」

あ、そうだ。上に行ったらもう逃げ場はないってことよね?だったら上に着いたら、逆に連中痛みつけてやろ♪今までの恨み合わせて完膚なきまで。

「メ、メルさん?何で半笑いなんですか?」

「へ?」

あ、顔に出てたみたい。あぶねぇあぶねぇ(もぉ十分危ない)。と、そうこうしてるうちに屋外に出た。外は暗くて、霧がかってたから不気味さをかもし出している。ついでに結構広い。見張り塔の中では一番大きかった。

「やはり来たか。」

・・・で、一番厄介なのがそこにいた。私達を捕らえた張本人で、とにかくムカつく笑い方をする奴。全身黒尽くめで、痩せこけた頭の上にも黒兜を被っている。けど目だけは悪意とかそうゆうので爛々と光っている。右手と左手にはそれぞれ細身の剣と黒い杖を持っている。

「ってゆーか何でここにいんのよアンタ?」

あたしは剣を引き抜いて構えた。カイル達もそれぞれ得物を構えて奴を睨みつける。後ろから上がってきた兵士達がドタドタと騒がしく足音をたてながらあたし達を取り囲んでゆく。

「くっくっく・・・決まっておろう。はなからここまで来るように差し向けたのよ。」

「何?」

ジュードが杖を構えながら訝しげな顔をした。

「貴様らが脱走する時に兵士達に追いかけ回しておいてここまで誘導するようにした。それだけだ。もっとも、脱走せずにそのまま留まっておれば毒の魔術を使ってじわじわ殺しておったところだがなぁ?くふふふふ・・・。」

「相っ変わらずムカつく笑い方ね。」

これは事実。こいつの笑い方はホントムカつく。聞いてて嫌悪感が込み上げてくるくらいよ。

「だがまぁ、これはツイてるな。よもや忌み子を連れてくるとは・・・あの小僧には感謝せねばなぁ。」

あの小僧・・・。

「・・・ソウジロウさんの事?」

フィリアが奮えるのを堪えるかのように言った。やっぱりあの時の事が忘れられないみたいね。

「ほぉ、ソウジロウ・・・とゆうか。フン!安っぽい名前だ。」

「そ、そんな事ない!」

フィリアがここまで必死になるってことは、この子があいつに心を開いてるって事かしら?

「だがその小僧がいないという事は・・・貴様を見捨てたか?」

「!」

「ふっ。やはり忌み子に荷担する者はどうなるか、わかったようだな。」

フィリアは恐い物でも見たような表情で後ずさった。そういえば、アイツはフィリアに普通に接していた。あたしらが出会った時でもその態度から恐れているようにも見えなかった。大勢の人間が罪もないフィリアを恐れているのに、今まで会った奴であんなのはいなかった。もしかして気付いてないだけだったのかどうかわからない。もしそうだとして、フィリアの正体に気付いたら今までの奴ら同様恐れて逃げてしまうのか・・・その時のフィリアの顔が浮かんできて、それを無理矢理意識の外に追い出す。この子をもう泣かせたりなんかしない・・・絶対に。

「アンタいい加減にしなさいよ!子供にそこまで言うなんて最低ね!この全身黒尽くめゲス男!!」

私は思い切った暴言を吐いた。男は一瞬戸惑ったようだけど、すぐに平然としたムカつく態度に戻った。

「くはは!自らの状況も理解できない愚かで薄汚い下等な反逆者めが。その無礼・・・このガベルが貴様らに血をもって償わせてやろう!」

男の名前が今わかった。ガベル・・・確か帝国でも一番下位な位の人物だけど、その狡猾さで反逆者に属する者を苦しめつつ殺すとかいうことで有名な奴・・・そいつが左手の杖を高々と振り上げると、小声でブツブツと呟きだした。

「!まずい、あの杖は!!」

ジュードは叫ぶと懐から丸い石を取り出した。

「・・・『グラウス・ヘル』!!」

「・・・弾け!!」

ガベルが叫ぶと、杖の先から子供の顔ぐらいの大きさの火球が飛び出してきた。同時にジュードが叫ぶと、青白い結界があたし達を包み込んだ。火球は結界に当って砕け散った。同時にジュードの持っていた石も砕け散った。あれは確か『ウォールストーン』だっけ?魔力が込められてて、その力に似合う言葉を叫ぶと魔法と同じ力が発生するとかいう貴重品だけど、そんなの持ってたんだあいつ。

「そんな・・・!『ラガンの杖』を持ってるなんて!」

リリスが驚愕の声をあげた。ラガンってゆーのはこの世界でも有名な火の神のことで、いつも悪さばかりしていたから神界から追放されたって聖書に書いてあった。そのラガンの力の一部を封じ込めた杖があるって聞いたけど・・・まさか!

「フッ、さすが皇帝陛下。いい杖を下さる。」

ガベルがうっとりした表情で杖を眺めた。ハッキリ言って気持ち悪い。

「そう。まさにこれはラガンの杖。力のごく一部だが、そんじゃそこらの武器などではこの杖は破壊できんぞ。」

そう言うと、また呪文を唱え始めた。今度は何?また火球?

「・・・『フォラウド』!!」 

キィン!

鋭い音が辺りに響いた。

「!ま、魔力封じ・・・!」

「くはは!これで結界は張れまい。」

まずい・・・これじゃあの火球を避けられない。只でさえ速いってのに!

「兵士達よ!そいつらを捕らえろ!」

ガベルが命令すると、周りにいた兵士達は一斉に剣を抜いた。

「この!汚い手で触んないでよ!!」

容赦なく剣を一番近くにいた奴の頭に叩き込もうとした。んだけど・・・。

「あ、あれ?」

体から・・・力が抜ける。

「な、何で?」

見てみると皆同じで、腕に力が入らない。いつも持っている剣が重く感じられる。視界も霞んできた。

「ふははははは!また掛かったな!この空間は貴様らの体力を奪うようになっているのだ。それでは戦えまい。」

クソ!また罠に!

「み、皆・・・。」

フィリアが泣きそうな顔で私達を見ている。視界が霞んでるけど、泣いてるのがわかるそれと・・・。

「ふっ。ようやく姿を現しおったか。忌み子めが。」

フィリアの青い瞳が・・・赤くなってる。目が純血してるからそう見えるだけのように思えるけど、本当に目が赤く変色している。フィリアは昔から自分の感情が高ぶる時、その目を赤く染める。過去に数回あってそれを見た奴らは大慌てで『忌み子だ!!』と言っていたのを覚えている。今も周りにいる兵士達も恐れてフィリアから距離をとっている。

「・・・『グラウス・ヘル』!!」

「しまっ・・・!」

咄嗟にあたしは全身の力を使ってフィリアに覆いかぶさった。

「!!!!!」

途端、背中に表現できない程の灼熱の激痛が走った。

「メルさん!!」

「メル!」

「メルちゃん!!」

皆があたしの名前を呼ぶけど、ハッキリ聞こえない。

「メ、メルさん・・・。」

フィリアが耳元で呟いた。今にも泣きそうな顔してる。あたしは何か言おうとしたけど、せいぜい安心させる為に微笑みかける程度、口が開きそうもない。

「ちっ!魔力節約の為に火力を弱めたのが失敗だったか。」

少しだけどガベルの呟きがハッキリ聞こえた。あたしは痛みを堪えて体ごとガベルの方へと向いた。そして精一杯息を吸い込んだ。

「アンタ・・・人間失格よ!!」

・・・これだけしか言えなかった。おそらくあたしはフィリアと一緒に焼け死ぬんだろうと思ったから、最後の足掻きをしたかった。ホントはもっと暴言を吐きたい気持ちで一杯なんだけど、体力がやばいから頭の整理ができなかった。

「ふん!貴様らのようなカス以下の者にそのように言われる筋合いなどない。」

明らかに見下した口調で言われて腹が立ったけど、言い返せない。背中が痛い。熱い。死ぬんじゃないかというくらい苦しい。その苦しみの中で、ガベルが呪文を唱えるのが聞こえた。

「死ぬがいい!忌まわしき血筋の者よ!!」

叫ぶと同時に杖を振り下ろした。

「・・・『グラウス・ヘル』!!」

火球が飛び出してきた。あたし達目掛けて。何故かゆっくり感じられる。これって死に直面した時に起こる現象なの?よくわからないけど、避けようとする気力がない。フィリアもあたしにしがみ付いている。

「ダメーーーーーーー!!!」

リリスの叫び声が聞こえたけど、よく聞こえない・・・やっぱりあたし・・・死ぬの・・・かな?



「とお!!」



別の声が聞こえると、横から衝撃が走った。そのまま横へと滑ってゆく。ドゴンという音がして火球が破裂した。かも。

「ぐっ・・・。」

衝撃を食らった時に背中の激痛があたしの意識を完全に回復したらしく、頭がスッキリしたけど、さっきより痛みが増した。

「な・・・何だと!?」

ガベルの焦った声が聞こえる。ってゆーかあたしでも何が起こったのかよくわからな・・・。

「ってソウジロウ?」

仰向けに倒れたまま横を見ると、あたしの肩を抱きつつうつ伏せに倒れたソウジロウがあたしを見てニっと笑った。

「何とか落ち合えたな。」

その顔を見て、一瞬顔が熱くなった。背中の痛さのせいね。絶対。

「ソウジロウさん!」

「よぅフィリア。お待たせ♪」

フィリアの嬉しさを隠せない声に、ソウジロウも嬉しそうに答えた。

「ってゆーか早くどいてよ!」

うん、ホントにどいて。今の状態ってかなり恥ずかしい。だって抱きつかれてるみたいだし・・・。

「あ〜そだな。悪い悪い。」

全く悪びれもせず、おまけに恥ずかしそうに顔を赤らめたり慌てたりもせずに悠々と起き上がった。何かムカつく・・・。ソウジロウがあたしとフィリアを立たせると、「はにゃ?」って声を出してフィリアの顔を覗き込んだ。

「・・・ん?フィリアお前目・・・。」

・・・あ。

「・・・。」

気付かれた。一番知られたくない人物に。フィリアも嬉しそうな顔から一転して泣きそうな顔になった。ソウジロウが訝しげな顔をしているのを見ていられず、俯いたまま顔を上げようとしない。やがてソウジロウはゆっくり口を開いた。



「お前いつからカラコンにしたんだ?」



・・・はい?

「な、何、ソレ?」

フィリアも驚いて顔を上げる。

「ん?カラコンだよ。カラーコンタクト。違うのか?」

「・・・う、うん!そうなの!」

「あ、そうなの。」

その場で凌いだよフィリア・・・意外と達者なのね、君。でもまぁ、よくわかんない単語が出てきたけど、明らかに気付いていないソウジロウ。ホントにわかってんのコイツ?

「く・・・くふふ・・・ふはははははははは!!!!」

「?」

ソウジロウが高笑いしているガベルへと顔を向けた。

「貴様、何を言っておるのだ?その目を見て気付かないわけがなかろう?」

!コイツ、言う気なの!?

「や、やめろ!それ以上言ってはいけない!」

カイルが怒鳴った。皆も同じ気持ちらしい。けど奴は・・・ニヤニヤしたままだった。絶対にわかっている。コイツ、フィリアが悲しむのをわかって言おうとしている。

「なるほど・・・わからんというか。ならば教えてやろう。」

「や・・・やめて・・・。」

フィリアが懇願するけど、奴は聞く耳を持とうともしない。

「その小娘はな・・・妖精エルフと人間の間に生まれた、汚らわしき血を持った忌み子なのだ!!」



言って・・・しまった。



フィリアはこの世の絶望を見たような暗い表情になった。拳を強く握り締めて涙を堪えようとしているけど、止まらず、赤い瞳から滝のように溢れてくる。あたしがさっき振り払った表情だった。カイルは忌まわしげにガベルと周りでニヤついている兵士達を睨みつける。あたしとジュードとリリスは、ソウジロウの反応を待っていた。ポカンとしているのが顔を見なくてもわかる・・・フィリアの正体がわかった今、逃げ出すかもしれない。それとも殺しにかかるか・・・。












「・・・何それ?」












こっちが呆気に取られた。敵も皆呆気に取られている。

「え・・・。」

フィリアも涙を流しながら驚いてソウジロウを見る。その顔は先ほどから平然としている。とゆーより眠そうな顔だった。

「いや、そのさぁ、いみご?だっけ?って何さ?はい?エルフ?人間のハーフ?ハーフぐらい今の時代じゃ大して珍しくもねぇぞ?俺んとこの学校にもハーフいるぞ?帰国子女で。」

「な・・・何を・・・言って・・・。」

ガベルも呆気に取られている。

「ん〜てゆーかさぁ、それれっきとした差別だよな?俺ハッキリ言ってそーゆー差別意識もってる奴ってホント嫌いなんだわ。うん、超が付くくらい。わかる?」

ソウジロウはそこで一息入れるように一泊置いた。

「悪いけどさぁ・・・そーゆー奴らはお仕置きしないといけねぇなぁ?」

一瞬、ソウジロウの周りだけ揺らいだ気がした。魔力は感じない。ただ・・・純粋な『気』。

「!?」

周りの連中も思わず身構えた。

「ぐ!・・・貴様ぁ、帝国に歯向かおうというのか!?そいつらと同じように、私の慈悲を無駄にしようというのか!?」

「は?慈悲?知るか。はなからそんなモンいらんわいボケ。」

今でも顔は眠そうな表情をしてるし、立ち姿も無防備。けど彼から立ち上る『気』が連中を脅している。思わずあたし達も迂闊に近寄れない。

「う・・・ぐぅ・・・!」

ガベルが今まで見せなかった焦りの表情を浮かべてる。何かものすごくいい気味。

「貴様・・・貴様らだけは・・・断じて許さん!!」

あ、やば!

「ソウジロウ逃げて!」

「ほえ?」

ソウジロウが振り向くと同時に、ガベルは早口で呪文を唱えて杖の先端を向けた。

「私を侮辱した罪・・・その身であがなうがいい!!」

炎が大きくなっていく。あの大きさだと・・・あたし達まで巻き込まれる!

「死ねぇ!!このハリ頭がぁ!!!!!!!!」












ビシッ。













「『グラウス・ヘル』!!!」

炎が放たれた・・・。














「てめぇ・・・。」













火球は狙いたがわずソウジロウに向かってくる。

「ソウジロウ!!!」














「誰が・・・。」

一瞬にしてソウジロウが腰溜めに構えて・・・。













「ハ・リ・あ・た・ま・だ・ゴルァァァァァァァアアアアアアアア!!!!!!!」












そして・・・拳を火球に向けて突き出した。


最近暑いです。次は暑い話になります。いろんな意味で。

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